第2節

 気がついたときには、三人は街中に立っていた。右手にはどこにでもあるカラオケボックスが、左手には和風パスタの店がある。見上げれば銀色の高層ビルが目に入った。

 覚えているのは、白衣の男が、巨大な水槽の向こう側に姿を消したところまでだった。

「ここは、どこなんでしょう?」

 三人のなかで、もっとも小柄な男がつぶやいた。彼はトリカワポンズと名付けられた男だった。

「どこかってことも気になりますが、私たちの服装が……」

 三人のなかで、もっとも恰幅の良い男が、汗を拭きながら言った。彼はこれからアゲダシドウフと名乗ることになる。

「そうですね。いつの間にか、お揃いのブラックスーツを着ています。それにこのサングラスも」

 三人のなかで、もっとも長身の男が、自分の袖をひっぱりながら言った。彼はナンコツと呼ばれることになっている。

『さぁ、みなさん、気分はいかがです?』

 突然、白衣の男の声がした。

「え? どこです?」

 あたりを見回しても男の姿はない。それになにより、男の声がまるで脳内で発せられたように響くのだ。

『ああ、驚かしてしまったようですね。皆さんが身につけているサングラスを通じて、声を届けています』

 全員一斉に、サングラスを両手で触った。その仕草を、道ゆく人たちが横目に見ては通り過ぎていく。もちろん、彼らを避けるようにして。

『はっはっは。リアクションが一致しているというのは、これからチームで行動するにあたって期待が持てますね』

「このサングラスに、そんな機能が」

『ええ。骨伝導なので、周囲の雑音にジャマされないでしょう? それに通信だけじゃないですよ。あなた方の身体の状態や、心理状態もモニターしています』

「あの、質問いいですか?」

『なんでしょうか。アゲダシドウフ』

「ということは、このスーツにもなにか意味が?」

『いい質問です。意味があります』

「どんな意味が?」

『かっこいいです』

「え? それだけですか」

『それだけだと思いますか?』

「いや、まぁ、ひょっとしたら」

『そんなわけないですよね』

「ですよね」

『そんなわけないです』

「じゃあ、どんな意味が」

『まずは、試してもらうのが一番でしょう。では、アゲダシドウフ。自分が八村塁になった気分で、ジャンプしてみてください。垂直に』


つづく

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