2.魔法と剣スキル

 訓練場につくと大勢の人がいた。やはりゲームの世界に入れたんなら魔法は使いたいよね。同じこと考える人は多いようだ。


 訓練場と言うからには、道場のような場所だろうと思っていたが、中はATMのような端末がずらりと並んでいる。また、スタッフが数名いてプレイヤーに説明をしていた。紫の髪やピンクの髪など現実世界には中々いないような髪の色、そして美人なお姉さんばかりだ。NPCかな?


 俺が入り口で立ちすくんでいると、美人なスタッフさんの一人が「こちらへどうぞ」と素敵な笑顔で空いている端末に誘導して説明してくれた。


「こちらで使いたい魔法を選択し、個人の端末へ登録すると使用可能です。魔法の習得は一律300Crです」


「魔法の登録?」


「はい、地球の人々は魂力が低い為、魔法を使うことが出来ません。そこで、魂にリンクしたスマホの機能の一つである魔法行使アシストによって魔法を使えるようにします。魂力が上昇すればアシストなしで魔法を使えるようになります」


 良く分からないけど、このスマホに登録すれば魔法を使えるようになるって事だよな?


 ATM風端末のディスプレイを見て適当にタップしてみる、攻撃系、治癒系、補助系。いろいろあるが、やはり魔法といえば、定番の炎の攻撃魔法だよね。


 というわけで、攻撃魔法→炎系魔法→放出型を選択。消費MPも設定するのか……消費MPが多ければ威力も大きくなるということだな。


 えと、俺の最大MPっていくつだ? と考えると視界の左上のMP表示が点滅し19であることが確認できた。


 そうか、じゃあ4にしておくか。あとは発動方法の設定……ってなんだ? 迷っているとスタッフのお姉さんが説明してくれた。


「特定の言葉を発したり、動作をすると魔法が発動できるように設定します。例えばファイアーボールと発声したり、手を前に突き出し手のひらを開くなどです」


「何とも厨二心を刺激する設定だなぁ……」


 必殺技らしく紅蓮轟火爆炎殺とか良いな、とか一瞬思ったけど声に出すと恥ずかしいか。ここは無難な奴にしておこう。


「じゃあ、発動方法は”火炎”という言葉で」


 俺の端末に登録され、魔法”火炎”を習得することが出来たようだ。次は剣スキルとやらを獲得するか。


 剣スキルもこのATMのような端末で習得できるようだ。剣スキルも端末に登録すればシステムのアシストで自動で体を動かしてくれるらしい。実際に何かを訓練するわけじゃないんだね。


 剣の技ってどんなのがあるのかな……端末をスワイプして良さそうなスキルを探す。


 高速で敵に接近して、横薙ぎを放つ。200Cr 


 こんなのどうだろ? とりあえず習得してみた。技名とかは無く好きなように呼べばいいらしい。他にもいろいろ見てみるとこんなのがあった。


 剣に炎を纏わせ袈裟切りする。2000Cr


 魔法剣か……いいなぁ使えるようになりたい。今はお金ないから無理だけどね。


 ともあれ、無事に魔法と剣スキルを習得できた俺は、北の転移ゲートを目指すことにした。




 * * *




 北の転移ゲートへと続く通路を進んでいく。道幅はかなり広く10m位あるだろうか? 道の端にはところどころベンチが設置してあり、街路樹も植えてある。大きな公園の遊歩道のようだ。


 しばらく歩くと広場があり、中央付近に直径2.5m程度の真円状の黒い物が浮いているのが見える。これが転移ゲートか? と考えると音声アシストが解説してくれた。


「転移ゲートです。この黒い円の中に進入すると、特定の場所へ瞬時に移動が可能です」


 俺は恐る恐るその黒い円の中に入っていった。


 転移ゲートを抜けた先に広がるフィールドは、ゴツゴツとした岩が辺りに転がっている山岳地帯だった。切り立った断崖でできた天然の迷路のような地形だ。

 

 うわ……広いな、どこへ向かえばいいんだ? と考える。すると音声アシストが聞こえる。


「探索アシストを起動しますか? Yes/No」 


 ……Yesっと。


 周りを見渡すと、赤い三角い印と、青い三角の印がいくつか見える。赤い三角印を指さすと「モンスター 弱い 253m」と表示される。


 青い三角印を指差すと「プレイヤー 同じ強さ 475m」と表示された。


 いくつかの表示を指差してみると赤い印はモンスター、青い印はプレイヤーのようだ、強さと現在位置からの直線距離もわかるみたいだ。


 赤く点滅し他より少し大きな三角印を指差すと、「ボスモンスター 強い 1576m」と表示される。


 まあ、いきなりボスに戦いを挑んでも負けるよね。とりあえず一番近くのモンスターのいる方向に歩く。


 あっ! なんかいるな、15mほど離れたところにサッカーボール程度の大きさの動く岩のモンスターだ。


 早速、剣スキルを試してみる。スキルはショートカットキーのように三個までセットできる。先ほど習得したスキルはスキル1のところにセットしてある。


 剣を両手で握ってスキル1発動と念じてみた。すると体が勝手に動き出し、凄まじい速さでダッシュしモンスターに突進した。


 一気にモンスターとの間合いを詰めて、スッと停止したかと思うと勝手に体が動き、剣を素早く水平に振るった。


 剣と岩のモンスターがぶつかって、ギィィンと硬質な音が響く。岩のモンスターに切り傷をつけ吹っ飛ばしていた。


 おおっ、俺の体どうなってるんだ!? 勝手に動いたぞ! 軽く感激していると岩のモンスターはこちらにまっすぐ飛んで、体当たりをしてきた。うわっ、まだ生きてたのか!


 驚きはしたが、反射的にしゃがみ何とか躱すことができた。モンスターは俺から10mほど離れたところに着地し、様子をうかがっているように見える。


 次は魔法を試すか。手のひらをモンスターに向けて「火炎」と呟いてみた。すると、手のひらから火炎放射器のように炎が噴き出し、モンスターに向かって真っ直ぐに伸びていく。炎に飲み込まれたモンスターは砕け散り霧散して消えた。


「ロックを倒しました。10Cr獲得。魂力が2増加しました」


 Crはこの世界のお金だよな。魂力ってなんだ? 考えると音声アシストが解説してくれた。


「魂力とは、その存在の強度です。魂力が強化されるとすべての能力が上昇します。モンスターを倒すことで魂力は強化されます」


 レベルみたいなものか。「ステータス的なものって見れるの?」と聞いてみた。すると視界にステータスが表示される。


 名前 柳津 樹(やなづ いつき)


 魂力   12

 最大HP 22 

 HP   22

 最大MP 19

 MP   15



「HPとは体を覆う防御フィールドの耐久値です。魂力のリソースの一部をシステムが強制的に占有し防御フィールドの展開に充てています。魂力の上昇に伴いHPも上昇します」


「MPは魔法を行使する度に消耗する精神力と考えて下さい。過剰に消耗すると命に関わる為、MPという形でシステムがリミッターを設けています。魂力の上昇により増加します」


 HP、MPの解説は正直よく分からない……。さっき魔法を使ったからMPは減っているな。それにしてもステータスってこんだけ? もっと力とか魔力とか速さとかあるだろ?


「基本的には個人の素の性能と魂力を掛け合わせた強さになる為、他は隠しパラメータとなります」


 素の性能……? つまり俺自身の腕力やら反射神経とかってこと?


「概ねその認識であっています」


 俺、インドア派だから体力ないんだよね。人よりモンスター狩りまくって、魂力をしっかり上げるとするか。


 少し歩くと、動く岩がまたいた。さっきと同じモンスターだな。「ロック。同じ強さ」と視界に映っている。同じ強さか、ちょっと危ういかな? まぁ、負けても死なないみたいだからやってみるか。


 スキル1発動。急接近して斬りつけるが、さっきのヤツよりも吹っ飛ばない、表示の通り少し強いんだな。


 などと感心していると、ロックは俺に飛び掛かってきた。不意を突かれ体当たりを躱せずに、もろに腹部に喰らってしまった。


 イテテ……、あれ? 衝撃はあったが痛みはさほどでもない。防御フィールドとやらのおかげか。


 気を取り直して、ロックに手のひらを向けて「火炎」と唱える。炎に包まれたロックは消滅した。


 視界に映るHP表示を見ると19に減っていた。……次からは気を付けないとな。


 その後もしばらくは転移ゲートから離れすぎないように、ウロウロして周辺にいるモンスターを狩り続けた。


 残りHPも7になったことだし、今日はこの辺にしておこうかな。


 俺は転移ゲートに入りセンターへと戻って行った。

 

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