思わぬ反撃をしてみる

N(えぬ)

怪しまれるわたし

わたしはよく人から怪しまれる。裸で町を歩いて警察に通報されるようなことをしているわけではないが、自分ではそんな風貌ではないと思っているけれど他人に警戒心を抱かせる特徴があるようだ。若いときからおっさんになった今まで、折に触れて怪しまれていると感じることが多い。


だいぶ以前だが、大型家電量販店を訪れたときのこと、わたしはパソコンのソフトウェア売り場に行った。

今ならパソコンソフトはネットのダウンロード販売が当たり前だが、わたしは実店舗でソフトの箱を手に取っての眺めるウインドウショッピングのようなものが好きだった時代のことだ。

こういう場所では、そういう経験がある人も多いかもしれないが、万引きを警戒してわたしはかなり高い確率で警備員に目を付けられていた。


そのときは青い上下に白いベルトのよくある警備員の制服の人だった。

わたしが何の気なしに、パソコンソフトの箱を手に取って見たりしながらぶらぶらするのを楽しんでいるところで、わたしの視界に警備員の姿が入ってきた。

彼はパソコンソフトの陳列棚の端に隠れるように立って「こちらを見ている」とわたしは感じた。

わたしは別に何も怪しげな行為はしていないつもりだが、向こうは毎回のように、来店したわたしに目を付けて、そろりそろり悟られないようにという感じで、ずっと後を追って、憑依霊か何かのようについて来る。

そういうのは、いい気持ちはしないし、ショッピングも楽しめない。


それでも、まあいいやと思ってぶらぶらしているうちに、なんだかお腹が少しゴボゴボっとして、おならがしたくなった。トイレに行って用を足そうかと思ったけれど、多分ここからトイレまで距離的に間に合わないと思い、パソコンソフト売り場の奥の、他の人がいない陳列スペースを探し出してそろそろと移動した。そして、ふぅっと音が出ないように力を込めてガスを放出した。


すっきりしたわたしは、素知らぬ顔でその場をすぐに離れた。

わたしの後ろで、後を付けてきたであろう警備員が、むせて咳き込む声が聞こえてきた。

わたしはさながらスカンクかカメムシのように臭いを発して敵をひるませて振り切った格好だ。警備員の彼も、職務でこんな反撃を喰ったことはあまり経験がないのではと思うと、申し訳ない気持ちが湧いて、心の中で警備員の彼に手を合わせた。

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思わぬ反撃をしてみる N(えぬ) @enu2020

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