下巻

『さて、本編に入る前におさらいじゃ。

 

 今回のヒロイン、九条芽衣子くじょうめいこ嬢の投げたサイコロ。

 1か2の目が出たら、主人公の健人けんとと付き合う。

 3か4の目が出たら、先輩と付き合う。

 5か6の目が出たら、誰とも付き合わない。じゃったな。

 さぁ、何が出るかの?』




 【可能性① サイコロが床に落ちなかった場合】


「・・・何やってんの・・・」

「サイコロなんかでこの先の運命、決めんじゃねぇよ!!」

 俺は手のひらを開き、空中でダイブキャッチしたサイコロを芽衣子めいこに見せた。


「そんなに人生決めるのが嫌なら、俺が決めてやるよ。芽衣子、俺と付き合え。

 俺と結婚しろ。それがお前の運命だ。サイコロを、人生を投げたお前には

 拒否権は無い。投げた人生を拾った俺に決定権がある。分かったか!!」

「・・・本気なの?」

「あぁ、本気も本気。タイミングが掴めなくって今になっちまったが、ずっと

 お前が好きだった。どうにも関係が近過ぎたからな。でも、今日お前がここに

 来たのが運命だ。俺もその運命に乗る。いいな?」

「・・・分かった。わたし、健人けんとと付き合う。健人と結婚する。

 幸せにしてくれる?」

「勿論だ」

 俺は芽衣子を抱き締めた。


 やれやれ。幼稚園から20年以上掛かってようやく俺の秘めた思いが叶った。

 お互い回り道して、結局はこう収まるか。 

 長かったなぁ。


「もっと早く言ってくれれば良かったのに」

「え?」

「わたしもずっと健人のこと好きだったって言ったの!!」

 ようやく交わした初めてのキスは、ビールの味がした。




『ふむ。

 ま、順当な結末といったところかの。

 では次の可能性。

 それ!!』




 【可能性② サイコロの目が1か2だった場合】


「・・・1、だね」

「・・・1、だな」

 目が合う。


「いやいやいや、無いでしょ?」

「俺は構わんけど」

「いいの?」

「まぁ、芽衣子のこと、嫌いじゃないし。これが運命ってんなら従うさ」

「・・・なら、ちゃんと告白して」

 芽衣子の目が真剣になる。


「芽衣子、好きだよ。結婚を前提に付き合ってくれ」

「ま、仕方ない。結婚を前提に付き合ってあげるかぁ」

「おい!!」

 こうして俺たちは、初めてのキスをした。

 ビール味のキス。

 ま、俺たちらしいか。




『重要なのは、きっかけより結果じゃからな。

 二人が、そしていずれ生まれてくる新たな命が幸せなら、何でもありじゃろうて。

 では次の可能性いくかの。

 それ!!』




 【可能性③ サイコロの目が3か4だった場合】


「3・・・だな」

「3・・・だね」

「これも運命か・・・。明日返事してくるね。今日は帰る。愚痴聞いてくれて

 ありがと」

「遅いから送ってくよ」

 俺は芽衣子と共に家を出た。


 芽衣子の家はここから歩いて10分程の位置にある。

 夜風に吹かれながら、二人して、出会ってから今までのことを話した。

 酔いのせいかもしれない。

 頬に受ける風が心地良かった。


「ありがと、送ってくれて。じゃ、おやすみなさい」

 芽衣子が自宅のドアを閉めようとしたそのとき。

 何かが俺の中を走った。

 それは秘めていた感情。

 今までタイミングが合わなくて、どうしても言い出せなかった言葉。

 それは・・・。


「俺じゃダメか?」

 俺は閉まる間際のドアを強引に開いた。

「え?」

「俺じゃダメなのか?」

「何・・・言ってるの?さっきサイコロで決めたじゃない」

 芽衣子の目が揺れる。


「運命なんぞ糞食らえだ。今までずっと遠慮してた。でももういい。

 俺はお前が好きだ。誰にも渡したくない。先輩にはお断りの返事をしろ。

 そして俺と付き合え。一生俺のそばにいろ!!」

「健人のくせに、強引なんだから。・・・後悔しない?」

「するもんか。返事は?」

 芽衣子からの熱いキスが返事代わりとなった。




『運命なんぞ糞食らえ、ね。

 それもまたありじゃろう。

 道は自分で作るものじゃからの。

 では最後の可能性じゃ。

 それ!!』




 【可能性④ サイコロの目が5か6だった場合】


 それから4年後の正月。

 実家に帰省していた俺は、年始参りに来た芽衣子たち九条家くじょうけの面々に会った。


「よぉ」

「うん」

「あ、俺の部屋、来るか?」

「うん」


 芽衣子のご両親は、リビングで俺の両親と賑やかに談笑している。

 それを尻目に、俺は芽衣子を部屋に入れた。


「昨日、両親に言われたわ。まだ結婚しないのかって」

「俺もだ。いい加減、孫の顔を見せろってさ。実家に帰る度にこの話題だよ。

 参るよな」

 冷蔵庫から失敬した缶ビールを芽衣子に渡す。


「でも30歳も間近だもんね。言われても仕方ないよ」

「・・・なら、俺と一緒になるか?」

「え?」

 鳩が豆鉄砲を食ったよう、とはこのことか。


「いや、よくあるじゃないか。決めた歳までお互い独り身なら一緒になるか、

 ってやつ」

「あぁ、映画とかドラマとかで見たことある。え?それ??」

「勿論、芽衣子が嫌でなければ、だけど」

 芽衣子はしばらく考えた後、ビールを一気にあおった。


「じゃ、行きましょうか」

「え?どこへ?」

「決まってる。リビングよ。お酒飲んで盛り上がってる両親'sりょうしんずに、ネタを提供して

 あげましょ」

「何言われるかな」

「両親揃って言うわね。あんたたち、遅いのよって」

「違いない」

 俺と芽衣子は揃って笑った。

 ずいぶんと回り道をした気もするが、終わり良ければ総て良しだ。

 

「幸せになろうな」

「うん」

 並行に進んでいた俺と芽衣子の運命が、今ようやく交わり、重なった。 

 そして俺たちはこれから、一緒に未来へと歩んでいく。




『ほっほっほ。

 これが運命。これぞ運命。

 時に離れ、時に交わり、えにしは繋がっていく。

 彼らがこの先、どんな運命をたどるのか。

 それは、言わぬが花、といったところじゃの。


 さて、そろそろおいとましようかの。

 読者諸兄のこの先の人生にも、無数の選択肢が広がっておる。

 何を選ぶか。

 何を選ばないか。

 すべては心のおもむくままに。

 好きに生きるがよい。ではの』




END

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if ~ 賽の導く君の運命 雪月風花 @lunaregina

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