第10話 我こそが涅槃ブッダ

 修行を始めて3年が経った。

その期間では?と、うそだと思う者もいるかもしれないが気持ちに変化が生まれていた。


 3年間の掃きそうじ。

「塵を払い、垢を除かん」との唱え。


まず、これから先の不安がなくなった。

そして現在の不安がなくなった。

しかし、死後の世界への不安だけが残った。故に今、何をすべきかがわかっていた。

 結局、過去、現在、未来の概念がなくなっていた。


「モグはいるか?ブッダを呼べ!」


「てっちゃん。どうしたの?」

「モグ。悟りの境地に至った!それをブッダに伝えよ……」


 それまでのブッダ様は地球と新しい星との管理で大忙しだった。もともと無理な仕事ではあったが山口が悟りを開くまでの辛抱と頑張ってこられた。地球と新しい星とは光の50乗倍の距離があり片道で1週間は掛かっていた。


「てっちゃん。悟りを開いたの?」

「うん」

「本当なの」

「うん。これから地球はわたくしが管轄する。それより、モグ、旦那さん、子供たちは元気か?あれから3年が経っただろう?」

「はい。みんな元気です」

「そうか。それは良かった。本当に良かった」

「本当にブッダ様に連絡しても宜しいのですか?」

「よい。伝えよ」

 今の山口には悟りにより後光がさしていた。



────────────────────


「山ちゃん元気?どうよ!開けた?超嬉しいんだけど……」

「はい」

「何が変わった?」

「すべてです」

「……すべて?」

「じゃあ、元の山ちゃんのいいところもなくなったの?」

「ブッダ様、元の私に良い処などありませんでしたよ……」

「そんなことはない。なぜ悟りを開いたとおもったの?」

「過去、現在、未来の不安、後悔がなくなったからです」


「大馬鹿者。不安なくして備えなし、後悔なくして反省なしだ。今の山ちゃんには地球を任せることはできない。悟りのさの文字にも至っていない。修行を続けなさい!軽くあと30年は必要だろう……」


ブッダ様は凄い剣幕でお帰りになられた。

帰り際に山口が修行で使っていた箒を没収し、置き土産として新しい箒を置いて行かれた。その箒の重さはそれまで使っていたものの10000倍であった。


 山口は反省し、あと27年で何とか悟りを開きたいと箒を抱え一から修行をやり直した。

 

 毎日毎日、唱えながら箒で掃いた。箒は掃くたびに地面に擦れた。擦れることで少しづつ重さが減り、箒が元の箒の重さになるまでに27年要した。


 あれから27年、合わせて30年で悟りの境地に達した。御年80歳となっていた。


 その時、彼はまさしく仏教最強境地、涅槃に達していた。


 ブッダ様も山口に勝ることはできなかった。

 以後、地球は山口改め涅槃ブッダが管轄することになる。


「モグ、モグはいるか?」

「モグはもう亡くなりました。とうの昔に……」モグの曾孫が答えた。


「そうか……。モグ召喚!」

するとモグが煙のごとく立ち込め姿を現した。

「モグ、待たせたな(涙)」

「てっちゃん。待たせすぎ!死んじゃたわよ(号泣)」

「また、一緒にいてくれるかな?」

「何言ってるの。1Kからの付き合いでしょ」

「ありがとう。お前がいないと寂しくてしょうがない」

「私もよ。でもあんたブッダになっても何も変わらないじゃない?」

「そう?自分じゃわからないもん」

「別にいいんじゃない。そのままで」

「うん。わかった」

「じゃあ、このままで……」





            おわり

            モグ3はじまるよ 

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モグ 2【涅槃ブッダ編】 嶋 徹 @t02190219

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