パーティ―から一人抜けさせたけど、俺たちには何の問題もない。

池中 織奈

パーティ―から一人抜けさせたけど、俺たちには何の問題もない。

「パーティーから、抜けてくれないか」



 ――俺はその日、パーティーメンバーの一人、ルネストンにそう告げた。






 俺たちパーティー、『銀牙』は冒険者ランクAを保持している冒険者パーティーである。

 魔法剣士である俺、ザールと冒険者を始めた時からの友人である剣士のシャルバン。

 そして俺の恋人でもある魔法使いであるミゼットと、回復魔法の使い手である義妹のカンヌ。

 ――そして今、俺がパーティーから抜けてほしいと告げた男、ルネストンの五人パーティーである。





「俺を追放するというのか! このパーティーのために全力を尽くしているのに」

「追放とはいってないだろう。利害の不一致だ。抜けてくれないかと頼んでいるだけだ」

「どうして、俺を――!!」

「いや、だから……」

「どうせ俺の荷物も全部奪って追い出すのだろう! 流行の追放物のように!」

「……そんなことをするわけないだろう。それだと盗賊と一緒だ。ルネストンがしばらく生活出来るようにお金は渡すさ。こちらの都合で抜けてもらうのだから、次の冒険者パーティーの紹介だって――」

「――ふん! そこまで言うのならば、抜けてやる! 後悔してもしらないぞ!」



 いや、聞けよ。

 このルネストンとパーティーを組んで、早二カ月。




 元から思い込みが激しいというか、話を聞かない所があったが、俺たちが理不尽にルネストンを追放しようとしていると思い込んでいるらしい。なんかそのまま話し合いもままならないまま去っていった。






「お金の分配とかしようと思ったのに。あいつ何で荷物も持たずに去っていった?」

「さぁ? あいつ、色々荷物もっていかずにいったな。送っとくか」

「……腕はいいですけど、相変わらず話を聞かないですね。あの人」

「お兄ちゃん、シャルバン、ミゼ姉。あの人は逆恨みしてきそうだから、一旦この国出ようよ」




 追放されたと思い込んでいるルネストンに色々言われても面倒なので、俺たちはルネストンの荷物を本人に渡すように冒険者ギルドに届けておいた。




 そして俺たちは国を出た。









 ――それから二年後、俺たちは相変わらず冒険者として活躍している。ありがたいことに四人でS級の冒険者パーティーになれた。充実していると言えるだろう。













「そういえば、ザール。聞いたか、ルネストンが大活躍しているらしい」

「ああ。聞いている。あいつの実力ならその位出来るだろう」




 俺はシャルバンと話している。






 俺たちがパーティーから抜けさせた男――ルネストンは大活躍中であるらしい。

 まぁ、実力のある男だからそういう風になっても驚きはしない。





「俺たちに追放されたって言い張っていて、力を使いまくっているらしい」

「ああ、あの補助魔法か。まさか、常に使っているのか?」

「という話だ。周りの冒険者たちすべてに補助魔法を使い、国の騎士たちにもかけているらしい。今や王城で暮らして英雄扱いなんだとか。俺たち、あの国じゃ、あいつを追い出した頭の悪い連中って思われているらしいぜ」






 シャルバンが笑いながら、酒を飲む。



 ルネストンは補助魔法の使い手である。周りに対するバフ効果を与える。

 その能力はすさまじいものがあると言えよう。なんせ、ルネストンがいるだけでただの男が、いっぱしの戦士になる。それだけの力をルネストンは持ち合わせている。それこそ、複数人にバフをかけるだけの能力があった。






 ――何故俺たちがそんなあいつをパーティーから抜けさせたかといえば、まぁ、補助魔法が効きすぎたからである。







「一般的にみればそうかもしれないな。将来を見据えなければだが。普通に考えてそういうバフ状態が常になれば、自分たちが強くなってしまったと勘違いしてしまう。自分の力は底上げされていないのに、強くなったと慢心してしまう。――俺の目指す冒険者はそう言う慢心したものではないからな」




 ――俺たちは冒険者として大成する事を求めていた。

 だけれども、それは人の力を借りっぱなしで手に入れたいものではない。自分自身の力をつけていきたいとそう思っていたのだ。それに誰か一人が倒れたとしても戦っていけるような、そういうパーティーを俺たちは求めてた。決してルネストンに頼り切って、ルネストンがいなければ戦えないパーティーにはしたくなかったのだ。






 だというのにルネストンときたら、常にバフをかけようとする。必要な時だけでいいと俺たちが言ってもである。常にかけられて戦っているのでは、俺たちが強くなれない。

 それに食事の準備などの雑用もすべて一人で抱え込もうとする。全部やられてしまったら俺たちがそういうことが出来なくなってしまう。そういうことを俺たちは望んでいない。




 これでも何度も話し合いの場は設けた。

 けれどルネストンは頑固な人間だった。自分のやっていることが正しいと思い込んでいてあまりこちらの話をきかない。

 だからこそ俺たちはパーティーから抜けてくれと頼んだのだ。










「――ルネストンがなくなったら大変なことになってしまうな」

「そうだな。あの国はルネストンに頼りすぎるからこそ、恐らく駄目になるだろうな」






 俺たちがそんな会話を交わしながら酒を飲んでいると、ミゼットとカンヌがやってくる。






「また飲んでいるの? そろそろ家に戻りましょうよ」

「お兄ちゃんたち、飲みすぎだよー」



 ミゼットとカンヌにそう言われて、俺とシャルバンは席を立つのだった。






 それから俺たちは冒険者として、充実した日々を過ごしていた。

 ――そんな中で数年後、ルネストンの噂を聞いた。どうやら女性関係を派手にしていたらしい。そして

 そして、ある時、冒険者の女性に刺されてしまったのだという。






 そして刺された場所が悪かったらしい。ルネストンは、魔法を行使するために必要な器官を破損してしまった。その結果、以前のように補助魔法を使えなくなってしまったのだという。

 その結果、あの国は阿鼻叫喚らしい。

 国の騎士も、冒険者たちも――全部ルネストンが支えていたのだ。ルネストンの補助魔法があったからこそ、魔物と戦えたのである。ルネストンの力を頼り切っていた国は、大変なことになっており、周りの国に救援要請がだされた。






 俺たちはその救援要請にこたえて、久しぶりにあの国に向かった。




 その国で盛大に活躍したため、俺たちのことをどうのこうのいっていた連中も認識を改めたらしい。しばらく他国からの冒険者や騎士たちがその国を手助けすることになった。ルネストンの能力に頼り切っていたため、その国は驚くほどに弱体化していた。

 そのことを反省して、一人に頼り切らない強さを手に入れることをこの国は目指していくことになる。





 ちなみにルネストンは、国への今までの貢献を評価され、治癒院に国の費用で入れられている。死ぬまで治癒院で治癒されることだろう。本人は今まで通りにいかないことに絶望し、暴れているらしい。ルネストンがこのまま腐っていくか、それともまた立ち上がるかは本人次第だろう。




 補助魔法の力があろうともなかろうとも、戦えるだけの力がある方がずっといい。

 もちろん、必要な時にそういうバフをかけられるのならば問題はないけれども、頼りすぎるのは良いことではない。






「よし、次はあのダンジョンに行こう」

「ああ」

「うん」

「頑張ろう!」




 そして俺たちは、冒険者として冒険を続けていく。








 ――パーティ―から一人抜けさせたけど、俺たちには何の問題もない。

 (誰か一人の力に頼り続けることをよしとせず、彼らは冒険を続けている)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

パーティ―から一人抜けさせたけど、俺たちには何の問題もない。 池中 織奈 @orinaikenaka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ