第12話 羽根が再び……。

 今日も校舎の屋上で風を感じていた。 わたしは入口からもっと奥に進もうとする。


 ガジャ。


 車椅子が床の段差に突っかかり前に放り出されてしまう。

あードシだな。


 わたしは車椅子に歩いて戻ると信也くんが立っていた。


 し、し、しまった。


 歩けるのがバレてしまった。


「歩いているところは見た?」

「あぁ」

「軽べつしていいよ」


 わたしは涙が溢れる始める。


「大丈夫だ、だいたいは予想していた。でも、特別な理由が有るのだろ?」


 わたしは迷ったすえに天使である事をつげる。 この前はグダグダになったが今日は違う。そして、羽根が折れていることもだ。


「そっか……」 


 わたしは羽根を具現化して折れた羽根を信也くんに見せる。


「わたしは天使失格なの……だから外を歩く資格はないの」


 嫌われる、信也くんとの関係は終わりた。


「俺は……」


 信也くんが何かを言いかけた瞬間である。


 突風が吹き。 わたしは目の前の信也くんにつかまる。 それは突然の事であった。 わたしの折れた羽が瞬間的に再生して信也くんと共に空に舞い上がる。


「信也くん、離したらダメだよ」


 わたし達は校舎の上空でひとつになれた。 ゆっくりと屋上に戻ると、わたしは車椅子に座る。


「すごいよ、天野って本当に天使だったのか!!!」


 わたしは車椅子を動かして後を向く。


「さようならにする?」


 それは言いしれぬ拒絶であった。 羽根をしまうと、これから先は信也くんの気持ちしだいだ。


 うん? 


 信也くんは車椅子を押し始める。


「信也くん?」

「折れた羽根が復元したのは奇跡なのか必然なのかわからない。でも、単純に天野のことか好きだから」


 ……。 


 ゆっくりと風の気持ち良い屋上を移動すると。 わたしの答えが見つかった。


「わたしも信也くんのことが好き」


 折れた羽根が復元して空も自由に飛べるのに信也くんの押してくれる車椅子は最高であった。 わたしは地上で車椅子を押すことを楽しいと感じるのであった。


そして……。


 美和家の屋根の上に座っていた。羽根が復元して自由に空を飛べるのだ。


「あ!空飛ぶ車椅子のお姉ちゃんだ」


 近所の子供から言葉が飛ぶ。わたしの存在は歩けるのに車椅子に乗る天使として受け入れられたのだ。バスに乗る時も車椅子であるが運転手さんは嫌な顔一つしない。


 天使の修行にくる街は幸福があると信じられているからだ。さて、今日は信也くんとデートである。


 わたしはふわりと屋根から降りて玄関にある車椅子に座る。ホント、わたしは矛盾している。空が飛べるのに車椅子生活だ。あれ?信也くんが迎えに来てくれた。


「天野、やっぱり、車椅子でデートに行くのか?」

「はい!」


 信也くんの問いに、わたしの答えには迷いが無かった。


「仕方ない、俺が押してやるよ」

「ありがと」


 わたしの後ろにつくと静かに車椅子を押し始める。今日は紫陽花が見ごろである。わたし達は土手に向かい、紫陽花の中をゆっくりと歩く。


「ねえ、ご飯にしない?」


 辻美さんから料理を教えてもらい、それなりのお弁当が作れるようになったのだ。

小道沿いにベンチを見つけると二人で座る。幸せの時間が流れていた。きっと、永遠なんて簡単だ。失う恐怖を捨ててしまえば大切な人はいつも隣にいる。


 そんな想いがつのる日常であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

天使失格 霜花 桔梗 @myosotis2

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ