第2話 不治の病

ー放課後ー

「…ふぅ」

屋上に来た俺はそこから下を見下ろす

俺が通っている学校の校舎は5階建て

メートルにすれば18メートルくらいか

ここから飛び降りたら確実に行ける

「いや…やっぱりいざ行くとなったら緊張するなぁ…」

俺は目を瞑り深呼吸をする

そして、フェンスを乗り越えた

これでこの刺激のない日常ともおさらばだ

俺が再び目を瞑り、ゆっくりと力を抜いた時だ

突然、後ろの扉が開き、大急ぎで走ってくる音が聞こえた

「ダイくん‼︎」

突然名前を呼ばれた俺は驚き、フェンスを掴んだ

「ゆ……由奈……?」

突然名前を呼んできたのは、由奈だった

「はぁ…間に合って…よかった」

涙を浮かべながら彼女は言う

「どうして…由奈がここに?」

そうして彼女は

「なんか、嫌な予感がしたから」

「えっ……?」

「だって、朝の別れ際…」

「あぁ、じゃあな」

って、言ってたから

「わかってた…のか?」

そういうと、彼女は血相を変えた表情で

「ねぇ、どうして⁉︎ どうして死のうとしたの?」

俺は素直に

「どうしてって……刺激のない日常に嫌気が差したから……」

そういうと由奈は黙り込んでしまった

無理もない。こんな身勝手な理由で死のうとする人間を見たのだから

しばらくして由奈は

「はぁ…」

と大きなため息をついた

そして、俺の手を握った

「そいえば…私がこっちに戻って来た理由を、まだ話していなかったね」

「えっ?」

俺は驚いた

由奈は中学入学とともに他県へ引っ越した。

しかし、それは親の仕事の都合

この春3年ぶりにこっちに戻って来たのも、てっきり親の仕事の都合だと思っていた。

俺は

「何か……他の理由が……?」

すると、衝撃の言葉を由奈は言った

「私ね……あと1年以内に死ぬの」

「えっ……?」

俺は信じられなかった、いや信じたくなかったと言った方がいい

由奈は静かに頷いて、そのことを説明し始めた

由奈曰く、彼女は不治の病にかかっているそうだ

その病気は、少しずつ脳の機能が失われ、感覚一つ一つが壊れていき、最終的には死に至る病気らしい

この病気にかかる人は今のところ少なく、決定的な対処法が無いようで

彼女の余命はあと長くて1年短くてあと3ヶ月と診断されたらしい。

「そう……だったんだ」

俺は、言葉を失った

俺は、自分を恥じた

何をやってんだ……俺……由奈がこんなに苦しんでるのに……

そう思っていると、由奈が口を開けた

「……ダイくん、話はまだあるの」

「えっ……」

俺は、これ以上嫌なことはもう嫌だと思った

「私ね、そうなることがわかってから、親にわがまま聞いてもらったの」

由奈は言う

「……ここに戻ってくること?」

彼女は

「そう」

といい、俺に

「何でかわかる?」

と質問してきた、俺は

「さぁ……生まれ育った街で、死にたい……とか?」

そう言うと、彼女は

「ん〜ちょっと違うかな」

そう言ったので俺は

「じゃあ……何なんだ?」

「好きな人と死ぬまで過ごしたかったから」

俺は

「そ、そうなのか……」

俺は無関心を貫く

どうせ由奈の「好きな人」は俺じゃない

こんな身勝手な人間に、由奈が戻ってくるわけがないのだ

俺は由奈に握ってもらっていた手を離し、家帰ろうとすると、

「待って!」

と、由奈は俺の手を再び大慌てで俺の手を取った

「えっ?」

よく見ると由奈の顔が赤くなっていた

「わ、私は……ダイくんと過ごすために戻ってきたの!」

俺は口をぽかんと開けて

「えっ?」

ちょっと待ってくれと俺は言おうとしたが

「私ね、小学校の頃からダイくんが好きだったの、将来の夢が『ダイくんのお嫁さん』だった時期もあった、中学に上がって、向こうに行ってもダイくんを忘れたことはないの、でも病気になってあと1年しか生きられないってわかって、それで……ダイくんのことが心に浮かんで……」

そこまで言うと由奈は泣き出してしまった

「ダイくんが『死にたい』って思っていても私には止められないし、こんなこと言うのがわがままだってのもわかってる でもっ……! せめて私が死ぬまでは、生きててよ……!」

俺はしばし考えた

(俺が、由奈の最期に立ち会うのか……)

正直俺には重い

あと、由奈が亡くなった後でメンタルを保てるかわからない

(でも……俺は由奈のことが……)


つづく

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