廃村の日 1

 明かりの着いていない関所にたどり着いた。

 しばらく整備された様子がない。


「ホラー演出とか?」

「ワクワク!」

「んなわけあるか、そこには誰もいねぇよ」


 竜胆が好奇心旺盛な顔で関所の中を覗き込むが、誰もいない。

 それに、羽美がそう言うなら間違いなく人はいない。


「なんだ、負けちゃったのか…」

「えー、リン休みたかったー」

「焦るな、少し行った先に誰かいる」

「ほんと?ちょっと脅かしに行こうか!」

「なんで、ホラー演出する気なんだよ」

「楽しそう!リン、ポルターガイストの音の役やる!バリバリバリバリ!!」

「やめろ、お前らは何になりたいんだ」


 当然そんなことはしない。

 地下に降りるエレベーターも起動する気配がないので羽美の言う先に車を向けた。


 着いたのは水車の真下。


「お、ホントだ。こんなにテントがある」

「すごーい、なんで地下に居ないのかな?」

「知るか」


 辺りには五、六個ほどテントが乱立していて、どれも明かりがついてる。

 サイズも大きく、人が数十人は雑魚寝する事は出来そうだ。

 僕らは一旦車から降りて、一つのテントの前に立つ。


「あのー、すいませーん」

「誰だ!」

「怪しい者ではありません。旅の者です」


 中の明かりでテントに影が写っている。

 中から聞こえた男性の声の主は、銃を構えてる。


「旅人?」


 恐る恐る、テントのカーテンが開いた。

 現れたのは髭面の男だ。


「うわ、イエティだ」

「こら竜胆。失礼だろ。せめて雪男とか」

「それも失礼だろ」

「………」


 こんな世界で、突然若い女性三人組を見て何も言葉が見当たらない様子。


「突然すいません。ただ、街に入ろうと思っても誰もいなかったので」

「ああ、街はもうない。まあ入れよ」


 ようやく、雨宿り出来る場所に入れた。


「あ、どもども」

「狭いな、俺はあっちで待ってる」


 テントの中には予想以上に人がいた。酸欠になるかと思うほどにはいる。

 気を利かせてか、この場に居たくないのか羽美は車に戻ってしまった。


「うーちゃん、お留守番ー」

「なんかあったら呼べ」


 僕らはそのまま中の机に案内された。

 皆、珍しそうに僕らを見てる。警戒というより、好奇心の視線に見える。


 最初は水車の故障かと思ったが、電力はある。それなりに生活はできる環境だ。

 尚更、地下で暮らさない理由が思いつかない。


「私の名前は砂山(さやま)と言います。あんたら、旅の目的は?」

「人探しです」

「力になれるとは思えないが、なんて名前だ?」

「屋島都子(やしま みやこ)、僕の師匠です」

「屋島!?」


 師匠の名前を出すと、砂山は血相を変えた。


「え?師匠をご存知なんですか?!あの、無駄に明るくて金髪で何でも簡単そうにやってのける屋島都子を!」

「あぁ、ここに居る僕を含めた皆が、その屋島さんに助けてもらったんだ」


 まるで、ヒーローと出会った事を語るように目を輝かせて師匠の事を話す。


「竜胆聞いた!?師匠の情報がやっと入ったよ!」

「でも、見つけてないよ?」

「まぁいいじゃん。生きてるんだから」


 僕もついに師匠の情報が手に入ってうれしくなった。けど、ただここに居たと言う事実があるだけ。

 竜胆にとっては、師匠でもないし目の前に現れでもしないと驚きようがない。


「屋島さんは、半年前この街が崩壊した事件の日にいらっしゃったのです」

「じゃぁ、もう地下は」

「非常階段で降りることは出来ますが、もう廃墟です。辛うじて、食料生産などのライフラインは再稼働してますが、まだ生活はできません」


 砂山の口ぶりを見れば分かる。地下で何か大変な出来事が起きたであろうこと。

 今までたくさんの街を見て回った僕らも、そんな街は山ほどあった。ここは生存者が居るだけマシな方だ。


「何があったのか、聞かせて貰ってもいいですか?」

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終末ドライブ旅行 ~止まない雨の中、師匠探しに旅に出かける~ 無彩色 @enomoto1991

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