信仰の日 1

 無機質な正方形。

 目の前を覆い尽くすコンクリートの壁。視界が元々悪いからもあるが、永遠に壁が続いているように見えるほどデカい。

 正方形の四隅には水車が立てられている。無駄のない設計だ。

 見た目は要塞。これがここの『関所』だ。


 入口は戦車二台は並行して通れるくらいの大きさが確保されている。

 大きな扉の端っこに用意された小さなインターホン。

 ジジジジ!

 飾り気のない電子音だ。


「誰だ」


 外壁と同じで、無骨で誰も寄せ付けない飾り気のない声での応答。


「旅人ですー」

「所属は?」

「NPO法人『伽藍匣(からばこ)』所属で、定住はありません」

「旅人か。入れ」


 無駄な事が嫌いなのだろうか。

 外面は何者も寄せ付けないが、すんなりと入場を許可された。


「早かったな」

「あんななりで、意外と来るもの拒まずなのかもね」

「ゴーゴー!」


 要塞の中は、外と変わらず無骨な造りだ。

鉄骨で補強されていて、爆撃されても簡単には落ちないだろう。

 人も沢山いる。軍服の人も居れば、白いタンクトップだったり、パーカーを来てたり多様だ。


「本日はお越しいただき誠にありがとうございます。私は案内人の仲町(なかまち)と申します」


 外で聞いた声の人とは違って堅苦しいが礼儀正しい人が現れた。敬礼でもされるかと思ったら、両手で名刺を渡してくれた。

 歓迎されてないと思ったが、むしろ歓待されているっぽい。


「あ、どうも。NPO法人『伽藍匣』の峯崎です」

「初めての方はまず主教様に面会してもらう決まりなのでご案内します」


 主教。この無骨な要塞には合わない存在の名前に不安を覚える。


 修道服を着たガタイの良い男。ここの主教を名乗る男だ。

 主教と名乗る割には、机に肘をついて頬杖をついて威厳がない。

 いや、その不機嫌な感情は僕に向けられたモノだ。

 一通り話をして既にマスターがここにいない事も主教から教えて貰えた。


「歓迎する…。が、変な気を起こすなよ峯崎」


 人畜無害な僕らを前に主教は、まだ信用してくれてないようす。


「嫌だな主教様。マスターがここに居ないのは分かったので少し雨宿りしてすぐにまた探しに行きますよ。それにしても面白い格好してますね」

「笑うな。俺には構わんが、地下の連中の前では笑うな」


 それは自分が道化師であることを認め、単純に僕への注意喚起だった。


「ご忠告ありがとうございます。でも、スズメバチがミツバチを保護してるようでつい微笑ましくて」


 主教は何かを考えながら小さくため息をついた。


「ここの街は、来客を歓迎する文化がある。スズメバチでも楽しめる場所だ。楽しんでくれ」


 何か諦めたようで説明を色々と箸折った言葉だった。


「自分の目で見ろって事ですね。ありがとうございます、田島さん」


 立ち上がり一礼して、待たせてしまって眠そうな羽美と竜胆を連れて街へ降りることにした。


「長かったな」

「昔の職場での知り合いでね。マスターの知り合いでもあるからつい。待たせてごめんね」

「みのりん、あのオジサンに会った時爆笑してたもんね」


 彼の話を少しして、僕らは車に乗りエレベーターへ入った。

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