試験の日 2

 現在、外(地上)に出るには免許が必要になっている。

 色々免許の種類はあるが、主な仕事は水車の管理業務関連だ。


 木刀を投げてしまった安島(あじま)少年は、明日その本試験の日。そのために、体術試験の訓練をしていたらしい。


「お姉さん達外から来たんだよね!すげー!かっこいいなぁ!」

「ん?うん…」


 何故僕達は片腕の少年の家に招かれたのか一瞬疑問に感じたが、弁償の前にご馳走をしてくれるって話だった。うん?

 眼前には竜胆が大喜びしながらご馳走を食べ散らかしている。目付きが悪く不良みたいな羽美は左手を添えながら丁寧に食べている。

 いつも通りの光景だ。


「うまい!安島、うまいぞ!おかわり!」

「竜胆、少しは遠慮を」

「危うくみのりんを殺されかけたんだ。ご飯くらい食べてもバチはあたらないよ!うまい!うまい!」

「竜胆が居なかったら確かに危なかったね。いい子いい子」

「竜胆はいい子なので!おかわり!」


 そのカロリーは一体どこに消えて無くなるのか不思議だ。食事量は羽美の方が少ないのに、肉付きが違いすぎる。

 せっせとおかわりを持ってくる安島少年。


「それにしてもすごい部屋だね」


 部屋の中は広いが博物館並に色々な物が置かれて雑多になっていた。


「汚くてごめんなさい。でもすごいでしょ。全部水車整備の道具なんですよ。かっこいい水車整備士さんに憧れてついつい買ってきちゃうんです」


 旅をする僕らにとってはあまり縁のない道具たちで、物珍しいものが多くつい見てしまう。

 水車整備の話をしている安島少年は誇らしげで、自分の事のように自慢して、仕事への愛情が伝わってくる。


「水車整備士さんたちは整備が出来るだけじゃなくて、野盗と戦うための力がないと出来ないから皆さん強んですよ!整備道具には拳銃になるタイプや刀になるものもあって、人それぞれ手に合う道具が違うんです」

「へぇー、ただ機械いじってる人じゃないんだね。ねぇおかわりわ?」


 熱く語るのに気を取られて、給仕が止まっていた。また一言謝ってすぐにご飯がきた。

 それを鋭い目つきで追う羽美。


「おい小僧、何に怯えてる」

「ギクッ」


 本人はただ気になった事を聞いただけだが、あの人を射殺す視線かつ男勝りな喋りで言われたら成人でも恐怖する。


「ごめんね、これでも羽美は怒ってないんだ。心が読めちゃうから尚更遠慮がなくてね」

「うるせえ。で、明日は水車整備士の試験とか言ってたな。なんでそこまで怯える」

「それが…」


 元気にご馳走してくれた顔から一気に暗い顔になって説明してくれた。


 明日行われる試験は、三対三のチーム戦があるらしい。だが、片腕のない安島少年はどうしても足でまといになってしまうそうだ。


「三対三では弱点を突くのが定石。模試では毎回僕が最初にやられて負けてしまうんだ。このままじゃ、僕のせいで落ちる人もいるかもしれない……」

「だから一人で特訓ね」


 羽美が大きくため息をつき持っていた茶碗を置いて、こちらにアイコンタクトを送る。

 僕と竜胆もそれに頷く。


「お前は運がいい」

「はい?」


 正座して縮こまっていた安島少年から頓狂な声が出る。


「僕たちが稽古を付けてあげるよ」

「お姉さんたちが?」

「残念だけど、旅人は旅人故に強いのです!竜胆もいい子だから強いのです!」


 変なポーズをしてるが、たしかに竜胆は強い。


「体術で言えば圧倒的に竜胆が強いからね。手合わせすると…うーん圧倒的すぎて意味が無いから僕がいいかな」

「……い、いや、竜胆さんと手合わせさせてください!」


 竜胆は目を輝かせていたが、羽美の顔を見ると『仕方ないだろ』という顔でこちらを見ていた。あまり気乗りはしないが、ご指名とあれば仕方ないか。

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