輪駆の反省と決意

< 闘 争 >勝つまでやめねえの力……?」

 輪駆リンクはエリュシオン第二王女のつぶやきを聞き逃さなかった。

「そうです」

 エリュシオンは輪駆のほうを見ず、階下の光景に目を奪われたままいった。

「恐るべき力……本来、この世にあってはならない力、それが<闘争>の力」

「でも、それこそがあんたが我々を召喚した理由なんじゃないか?」

 ぽん太が声を潜めるようにいった。

「この世界には争いがないとかなんとかいってたよな? けれど、それじゃ世界を脅威から守れない。だからこそ俺たちを呼んだ。つまり争いのできる存在を異世界から呼び出した」

 心なしかエリュシオンの肩が落ちたように見えた。「そうです」

「だが、言っとくが俺含めたほかの奴らも、戦いとかできるような特殊な人間でもなんでもない、ただのパチンカスだぜ」

(え、あんたはパチンカスでもないんじゃ……?)

 珍しくシリアスな雰囲気を壊すのもなんなので輪駆は心の中でつっこむに留めた。

「それでも!」

 エリュシオンが強い語気を、輪駆を睨むようにして吐いた。

(俺じゃない俺じゃない)

 輪駆が否定の動作ジェスチャーをする。

 あ、とちょっと恥ずかしそうな表情を浮かべ、王女はぽん太に視線を据えなおした。

「それでも、わたしたちに必要だったのはあなたたちだったのです。神の――我が神イーノ・マータの信託によって」

(え、ここ<  G O  D  >左から押してくださいとかにしておく場面なんじゃないの?)

「おー、イーノ・マータってアレでしょ、バスタード」

 どうやら聞き耳を立てていたらしいモグラがうれしそうにいった。

「いのまたむつみっていえば幻夢戦記レダだよねえ」

 聞き捨てならじと輪駆。「え、いのまたむつみならテイルズオブでしょ!」

「黙れ小僧! お前に    藤     島    ストライカー・ザ・シャイニングスターが救えるかッ⁉」

「ちょっとあんたたち!」

 ずっと階下の様子を見ていたらしいマゾ美が金切り声をあげた。

「おっちゃんひとりでずっと頑張ってんのよ、あんたたち何してんのよ!」

 てっきり一人で無双しているのだとばかり思っていたジローちゃんだったが、あまりの<奴ら>の多さにさすがに疲労困憊、肩で息をしていた。

 男三人で顔を見合わせた。

 揃ってかぶりを振った。

「この金玉ナシ男! もういいっ、あたしが行く!」

「待て」

 ポン太が手すりに足をかけようとしたマゾ美を押しとどめた。

「俺がいく」

「お、あんちゃんもナントカの力とかってのあんの⁉」とモグラ。

「そんなものはない。が、行くしかないだろ」

「あんた、現実が中二病でなんとかなるなら、もっと不満や愚痴のない生き方できてるはずだろ!」

 輪駆は言ってから、あ、と思った。

 それはブーメランだ。

 自分がどうにもならないことを嘆いても、だからといって何かを始めようとしたわけでもなく、悪いのは社会だ環境だいって漫然とパチ屋に行くだけだった。

――たとえおせっかいな友達のお陰で雑誌の編集になったにしても、パチンコなんてたいして知らなかったにしても、ちゃんとその場で踏ん張って、Youtuberとして名を上げている男に対して、俺なんかが……

「そうだな」とぽん太。「中二病じゃどうにもならん。けど、義を見てせざるはなんとやら、だ」

 走り出したぽん太の後を、輪駆も追った。

 べつに何ができると思ったわけでもない。

 もしかしたら何かができるかも、と淡い期待を抱いたわけでもない。

 ただ、ぼんやりと流されて生きてきて、何か脅威を感じたらすぐに逃げていた自分から決別したい、とぼんやりとそう思ったのだ。

 こんな馬鹿げた状況でも――いや、こんな馬鹿げた状況だからこそ。

(全部、偶然なんです――なんて言ってられるものか‼)

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