第15話 バズる

週明け、札幌の大学を志望校に書き、提出しようと決めた日の朝にちょっとした事件が起きた。


「茅森ってさ、バンドしてるよな?ピクシーって言う」

朝登校すると、昇降口で声を掛けてきたのはクラスメイトの男子、鈴木一也すずきかずやだった。

「えっ…なんで…」

何で知ってるのかわからなくて、思わず目が泳ぐ。

バンドを組んでるとか、崇とつるんでるとか、そんな風に噂されているのを知っていたものの、バンド名まで出して聞かれたのははじめてだったからだ。

「You Tubeで見たんだよね」

私の様子に鈴木君が教えてくれた。

You Tube?

ライブ参加をしたりすると、その映像を録画してYou Tubeにアップしていることは知っていた。

「プロとか目指してるの?」

「えっ?いや…」

「あれだけ再生されてたら、話とかくるんじゃない?頑張ってね」

鈴木君は爽やかにそう言って、後に登校してきた男友達と先に教室へと上がって行った。

イマイチ内容がわかっていない私。

昇降口でフリーズしていると、ドンッと背中を押されて驚いた。

「美空、おはようっ!」

若菜だった。

私が挨拶を返す前に、

「昨日の夜さ、You Tubeでピクシーの曲聴こうと思ったら!何かすっごい再生数伸びてて!」

若菜は興奮した状態で教えてくれる。

スマホを出して、私に画面を見せてくれた。

「札幌で活躍してるバンドの人がTwitterでピクシーのことを先週呟いてくれてて、なんと!そこからどんどん広がってて!!」

若菜が興奮気味に話してくれるものの、Twitterをしてない私は意味がわからない。

「ちょっと待って、何?」

「だから、札幌で有名なバンドのボーカリストがピクシーのことをYou Tubeの動画を載っけてめっちゃ褒めてくれてて、それがめっちゃリツイートされてるの!」

「……うん?」

理解しない私に若菜は、

「ピクシーがバズってるの!!」

単刀直入に教えてくれた。


私は、インターネット嫌いの父の影響もあり、ネット社会に疎かった。

You Tubeは好きなアーティストのPVが見れたり面白ろ動画がタダで見れるものくらいにしか思っていなかった。それくらいしか自分では活用してなかった。

Twitterに関してもやっていなくて、Facebookも登録をして放置状態だった。

Instagramはオシャレな有名人がやってるってイメージで自分がやろうとは思わなかった。

父が「ネットはこわいぞ!」と脅すものだから何となく苦手意識があるまま育ってしまったのだ。

メールが主流だった私にLINEを教えてくれたのは若菜だった。


「金曜日は何もなかったのに、月曜に登校したらクラスメイトの数人が知ってて、下校する時間には半数以上が知ってる感じだった」

放課後、スタジオに練習に行って仲間達に状況を説明した。

崇やホダカさんはある程度状況は把握していたぽかった。

崇のスマホでYou Tubeを開けると、再生数は既に3万回を超えていた。

ホダカさんのTwitterにはポロポロのボーカリストの呟いた画面。

「ポロポロのボーカリストがうちのバンドがいいってTwitterで動画添付して呟いてくれたんだよ。その人、1万人とかフォロアーが居て運良くバズった感じ」

ホダカさんが説明してくれた。

ポロポロは北海道を拠点にして活躍するアマチュアバンドグループで、私も名前を聞いたことがあるくらい北海道ではメジャーだった。

そのボーカリストがなぜかピクシーの曲を褒めてくれたのだ。

「札幌で出たライブのライブハウスがポロポロも昔よく使ってた場所だから、そこの縁かもしれないし、たまたま目に止まったからかもしれないし、とにかくなんで呟いたかは不明」

続いて崇が話した。

「でもさ、いくらこの人が呟いたからって言ってもそれだけでこんなに広まらないでしょ?俺らの曲がいいからでしょ?」

ショウが目をキラキラさせて嬉しそうに言ってくれた。

スタジオの片隅に固まって、私は予想しなかった事態に喜び半分不安半分だった。


当時はまだネットの世界を知らなさすぎて、父の脅し文句と現実に起きていることが頭の中でこんがらがっていて、良い方向に流れているのかどうかがわからなかった。

だけど、間違いなくピクシーの分岐点だったと思う。






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