第七話

 私は、静かに告げた。

「そうだ、君が犯人だ……。君は優秀な編集者だ。そして長年上手ながねんうまくくやってきた。

 だから出来れば自分の罪を認めて、出頭しゅっとうしてほしかった。状況証拠と物的証拠に追いつめられて……」


 井口君は反論した。

「僕は認めませんよ……。そんな状況証拠や物的証拠じゃない、決定的な証拠でもあるんですか?」

「ああ、あるよ」

「え?」

「君は言ったね、被害者はジェリス女子高校の制服を着ていたと。なぜ、それが分かったんだい?」

「ですからそれは、週刊誌の記事を読んで……」


 今度は私が反論した。

「いや、それはあり得ない。なぜなら、この事件を報道した新聞、週刊誌等の全てに私は目を通したが、ジェリス女子高校に通っていたと報道したものは無かった。

 全て、『都内の女子高校に通う土村愛海』としか報道されていなかった。

 永山に確認したが、警察は学校名を伏せていた」


 井口君が、わめいた。

「じゃあ、何で市村先生は被害者が、ジェリス女子高校に通っていたことを知っているんですか?

 ひょっとすると市村先生こそが、犯人じゃないんですか?!」


 私は思わず怒鳴どなった。

「殺された土村愛海は、私の娘だ!」

「ええ?!」

「小説にも書いた通り、私の不甲斐ふがいなさで私は五年前に離婚した。

 そして親権しんけんも妻に移り名前は、市村愛海から土村愛海になった。愛海との面会は三カ月に一度になった。

 この前、会った時には、あこがれのジェリス女子高校に入学できて、とても喜んでいたよ。

 だから愛海が殺されたというニュースを聞いたときはショックだった。さぞかし無念だろうと。

 そして私はちかった。どんなことをしてでも、犯人を捕まえると」


「それじゃあ、この小説は……」

「君は原稿を読む時、必ずタバコを吸う。そして原稿を読めば指紋が原稿に付着する。君はここで飲食をしないから、コップや食器から指紋を取るのは不可能だ。

 そうだ、稿。そして君が原稿を読み、出頭してくれることを望みながら……」


 井口君は、言い切った。

「出頭なんて、しませんよ……」

「そうか……」


 井口君は、左腕の絆創膏をはがして告白した。

「確かに彼女を殺したのは僕です。あの夜ビールを飲み過ぎて、八月の暑さもあってムラムラしていましたからね。

 だから彼女を見つけた時、後をつけたんです。ジェリス女子高校の制服が可愛かったですからね。

 そして人通りが少なくなった所で声をかけたんです。援助交際をしないかって。

 でも、『キモい』って断られましたよ。

 だから力づくで、と思い制服を脱がそうとしたら、もみ合いになりました。その時、彼女に左腕を引っかかれましたよ……。

 ほら、二週間経っても、まだ傷あとが残っています。

 そしてその時、『かっ』となって彼女の首を絞めて殺したという訳です……」


 私は、確認した。

「それは自白と受け取っても、構わないかね?」


 井口君は私に、にじり寄って言った。

「ええ、もちろん。でもこのことを知っているのは市村先生ただ一人……。

 小説にも書いてあった通り僕は昔、柔道をやってまして腕力には自信があるんですよ。まさか親子そろって絞め殺すことになるとは……」

「そうか、残念だよ。君とはもっと良い仕事がしたかった……」

「僕もですよ、市村先生……」


 私を殺して真相を知る者を無くそうとするする井口君に、私は告げた。

「だが井口君、君は一つ間違っている」

「何ですか? 彼女を殺したことですか?」

「いや、そうじゃない。君の自白を知っているのは、私だけではない」

「え? どういうことですか?!」


 私は、テーブルの上のスマホを指さして言い放った。

「私のスマホは、まだ電話を切っていないんだ」

「な?! まさか?!」と、井口君が叫ぶと同時に、刑事と警察官三人が私たちがいるリビングに突入してきた。

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