第六話

『そうか……。なあ、永山?』

『何だ?』

『状況証拠や物的証拠が仮に無くても、自白だけで逮捕されるんだよな? 推理小説みたいに』

『ああ、自白は『証拠の王様』だからな』


 私は再び、礼を言った。

『分かった、ありがとう。おんるよ』

『いいって。また寿司をおごってくれよ』

『はは、そうか。それじゃあ事件が解決したら、おごるよ』

『え?』

『俺は犯人に、罠を仕掛しかけるつもりだ』


   ●


 私は、聞いてみた。

「ま、こんな小説を書いてみたんだが感想はどうかな、井口君?」


 井口君は原稿をテーブルの上に置いて、答えた。

「ええ、ちょっと気になる点もありますが面白いですよ、市村先生」


 私は答えた。

「そうか、それは良かった」


 そして私は更に聞いた。

「で、どこが気になるんだい? 井口君?」

「はい、ええと、その前にタバコを吸ってもいいですか?」

「ああ、いいとも。灰皿はテーブルの上にある、いつもの物を使ってくれ」


「はい」と井口君はタバコを一本吸った。そして聞いてきた。

「まずはですね、これってノンフィクションなんですか? この原稿に書かれている女子高生殺人事件ってにありましたよね。名前も同じだし」

「そうだね、ノンフィクションだよ。ちなみに永山優也も実在するよ。警視庁・科学捜査研究所で働いていて、寿司も食いに行った」


 井口君は、意気込んで聞いてきた。

「そこなんですよ! この小説に書かれている人物って、実在しているんですよね!」

「うん。それに私の別れた妻の土村杏子も、そのまま使っているけど」

「なるほど、そうでしたか……。

 あ、それともう一つ。この小説の中の会話や行動も全部、実際に行ったものですよね?

 市村先生が週刊誌を買いあさったり、永山さんと電話をして、『俺は犯人に罠を仕掛けるつもりだ』って言ったり」


「もちろん、そうだよ。私は女子高生殺人事件を解決しようと思っている」

「うーん、なるほど……。となると、あれですか? 推理小説家が探偵役っていうことですか?

 ま、良いと思いますよ。今の世の中、色んな探偵役がいますからね。そうなると編集者がワトソン役っていうのもアリだと思うんですが?」


 私は少し考えてから、答えた。

「そうだね、考えてみるよ」

「でも、そうなると問題が一つ出てくると思うんですけど……。市村先生は、女子高生殺人事件の犯人を捕まえるつもりなんですか?」

「もちろん、そうだよ」


 井口君は、更に意気込んだ。

「すると犯人はやっぱり被害者と、もめていた男子高校生ですか? 彼は今、どうなっているんですか?」

「永山の話だと、任意の取り調べは終わったそうだ」

「それじゃあ、犯人に罠を仕掛けるには、今がチャンスじゃないですか?!

 くう~! 何だか興奮こうふんしてきた~!」


 そう言った井口君に、私は告げた。

「実はもう、罠は仕掛けてあるんだ」


 井口君は、驚いた表情で聞いてきた。

「え? どういうことですか?」


 私は、それを無視して聞いた。

「ところで井口君、君は殺害された女子高生、土村愛海を知っているかい?」

「え? 知る訳ないじゃないですか。会ったこともありませんよ」


 私は

「そうか……」と答えて、永山にスマホで電話をした。

『もしもし、永山か? 俺だ、あれを頼む』

「何なんですか、一体?……」と不審がる井口君をよそに、私はスマホをテーブルの上に置いた。


 そしてキッチンへ行き、大きめのビニール袋と小さめのビニール袋を持ってきた。

 更に大きめのビニール袋に原稿を入れ、小さめのビニール袋に井口君が吸ったタバコの吸い殻を入れた。


「何なんですか、本当に!」と怒鳴る井口君に、私は説明した。

「これらを警視庁・科学捜査研究所に、提出する。そして吸い殻からDNA型鑑定を行い、被害者の右手の人差し指の爪の間にあった肉片のDNAと一致するか鑑定する。

 更に原稿から君の指紋を割り出し、被害者の首にあった指紋と照合する。ちなみに私の指紋はすでに警視庁・科学捜査研究所に提出してある。

 これでDNA型鑑定により状況証拠が、指紋により物的証拠が得られる」

「ちょっと待ってくださいよ! これじゃあ僕が犯人みたいじゃないですか?!」

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