言葉の呪いとその連鎖

紫倉野 ハルリ

解呪

綺麗になりたい。

みんなそう思ってる。

私も例外なくそう思ってる。

綺麗になるにはそれ相応の努力がいる。

私みたいにね。



朝ご飯は食べない。お昼は小さなお弁当。晩御飯もいらない。



— お前、太りすぎなんだよ。デブ。

毎日呪いのように頭に響く言葉。忘れたいのに忘れられない。

ご飯はこの呪いにかかってからほとんど口にしていない。食べてもどうせ吐いてしまうから。食べるのが怖い。怖い気持ちのまま一人で食べるご飯は、全く美味しくない。



呪いにかかってから20kg落ちた。

最初の5kgは嬉しかった。自分がどんどん綺麗になっていく気がした。周りだって綺麗になったねっていってくれた。


次の5kgも楽しかった。自分がまるで芸能人になったようだった。どんなファッションだって着こなせる自信があった。周りからの羨望の眼差しを日々感じた。


次の5kgからは周りの反応が変わった。私のことを怖い、心配だと言うようになった。私はその声に耳を傾けなかった。私が痩せて綺麗になることに嫉妬しているんだと思った。身体も変わった。生理が来なくなった。でも痩せるためならそのくらいの代償はいいと思った。


最後の5kgになるとすぐ疲れるようになった。疲れているのに周りが色々言うから、イライラしてしまう。そんな毎日だった。この頃になるとお母さんが病院に行こうと毎日のように言ってきた。私はビョーキじゃないのに。むしろ太っていた時より痩せたんだから健康的じゃないの?みんな大げさなんだから。



今日はお母さんがショッピングに連れて行ってくれるらしい。急に痩せて、洋服が合わなくなってたからいいタイミング。これだけ痩せて綺麗になったんだからどんな服も似合うよね。楽しみ。



お母さんが車を止めた。ショッピングモールまではもう少しかかってもいいと思うけど。不思議に思ったからお母さんに「もう着いたの?」って聞いてみた。そうしたら、お母さんがお手洗いに行きたくてコンビニに寄ったらしい。少し待ち時間ができた。今日はまだインスタ更新してなかったからこの時間に更新しないと。私のダイエット記録、みんな気になってるよね。


あれ、なんか眠くなってきたかも…

ショッピングモールまでまだ時間あるし、少し寝てようかな…




『お母さん、娘さんはどうですか?』

『寝てるみたいです。』

『よかった、薬が効いてくれたみたいですね。』

『先生のおかげです。』

『いえいえ、それより、起きてしまう前に運びましょう。』




あ、寝ちゃってた。もう着いたかな?色々回りたいお店あったのに時間ないかも…


「お母さん今何時…、」


ここどこ。

点滴…?


「えい、よう、ざい…」


えいよう…?

栄養…

カロリー…




『だめ!点滴とったらだめ!!あなたそのままじゃ本当に死んじゃうの!先生!!』



なんか打たれた。また眠い。この点滴だけは取らなきゃ。また太っちゃう。せっかく痩せたのに。こんなカロリーの塊体に入っちゃったら、せっかく綺麗になったのに。だめ、絶対だめ。やめて。


「やめて…」




— お前、太りすぎなんだよ。デブ。




私のこと、嫌いにならないで。

がんばるから。

お願い。

もっと痩せるから。





「あ、インスタ更新されてる。このアカウントの投稿、ちょっときついけどほんとにすぐ痩せるんだよね。あー、痩せて綺麗になりたいよ。」

「だよね、太ってたら可愛くないもん。」

「確かに、3組の子とか恥ずかしくないのかな。自己管理っていうの?そーゆーのできないのってどうなんだろうね。」

「ねー、ウチらこんなに毎日頑張ってるのにいいよねー。」

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