第21話 偉大さ

「おい、何をぎゃあぎゃあ言い合っている」

 と、そこに自由が顔を覗かせた。四人は拙いと口を押さえたが、すでに聞かれてしまったことだろう。

 普段は自分たちしかいないものだから、声の大きさを気にしていなかったのが悪い。

「話せよ。俺にも関係があることだろ」

 そんな四人の反応で、ぢんな話をしていたのか解った。自由は部屋の中へと入ると、最初から説明しろと促す。

「しかし」

「俺は安倍晴明なんだろ。納得しているから言え」

 記憶が戻っていないというのにあっさりそういう自由に、四人は再び顔を見合わせる。だが、自覚があるのならば伝えても問題ないだろう。

「その前に、もう一人は?」

 自由は一人足りないよなと、自分の部屋に現れた玄武がいないことに気づく。

「ああ。玄武なら、さっきのビルに戻っていますよ。そこからあの妖怪化した人間の痕跡を辿れないか、探索中です」

 そういうのが得意なのが玄武なので、任せきりにしていると青龍が説明する。

「なるほど。お前たちにはそれぞれ、得意分野があるってことか」

「そのとおりです」

「で、何の話し合いをしていたんだ?」

 今は式神それぞれの特性よりもと、先ほどにことに話を戻す。それに、サラが手短に保憲の生まれ変わりに出会ったことを伝えた。

「ほう。俺以外にも生まれ変わりがいるのか」

「それはいますよ。あの道満すら、この時代に生まれ変わっているんです」

 朱雀は気づいていないんですかと、つい晴明に言う調子で訊ねてしまう。すると、自由は顔を顰めた。

「道満……たしか、播磨の法師陰陽師だったな」

「そうです。そして今は、大江咲斗として生きています」

「なっ!?」

 さらっと告げられた名前に、自由は大きく目を見開いた。それほど身近にいるとは気づいていなかったのだろう。しかし、すぐに納得だという顔になる。

「あいつとは、どうも反りが合わないと思ってたんだよな」

「でしょうね。平安時代も考えが真逆で、対立を繰り返していらっしゃいました」

 サラは自由の言葉に苦笑してしまう。すると、自由が困った顔でサラを見つめてくる。

「あ、あの」

「いや。大江のことはいい。問題は晴明の師匠だという賀茂保憲の生まれ変わりか」

「あっ、はい。本物の妖怪がいるという話を耳にし、我々を呪物でおびき寄せたようです。こちらから姿の確認できない位置におり、男だということしか判明しておりません」

 白虎がいるということしか解っていないと、悔しそうに唇を噛む。あれほどいいようにしてやられたのは久々だ。

「呪物、か。となると、それなりの呪術師だろうな」

 自由も解らないなと腕を組む。そもそも、呪術師全体の連携というものがない。それぞれ信じるやり方で、人間と妖怪の間を生き抜こうと必死だ。

「あの、那岐様」

「ん?」

「呪術師の皆さんは、派閥があるのですか?」

 そこに、自由の悩みを読んだかのようなサラの質問が入った。他の式神たちも興味津々という顔をしている。

「お前たちは、そのへんは解っていないのか?」

「はい。我々は晴明様を見つけ、その指示を仰ぐことを第一としていますから」

 サラがにこっと笑って言うと、他の三人も大きく頷いた。

「凄いな」

「えっ」

「今、安倍晴明の偉大さを感じたよ。お前たち式神が絶対と慕う存在か」

「あっ」

 自由の苦しそうな顔に、サラはどう声を掛けていいのか悩む。しかし、ここで遠慮しては、自由の悩みがさらに深いものになってしまう。

「晴明様は、最初から全員を従えていたわけではありませんよ。私は、普通に猫扱いでしたし」

 ねっ、と横にいた青龍に話を振る。次に古株なのは彼だ。

「ええ、そうですよ。サラを除く四人は、晴明様に調伏されて式神になったんです。最初は殺すつもりでした」

「おいっ」

 今、そこまで言う必要はないよ。サラは思い切り青龍の胸を叩いてツッコむ。

「なるほどね。安倍晴明が規格外であることは解った」

 それを見て、これを倒したのかよと自由はますます悩んでしまったようだ。

 ああ、気遣いが裏目に出る。

「ええっと」

「ああ。呪術師の派閥についてだったな」

「えっ、はい」

 先に晴明に話題を戻され、サラはピシッと背を伸す。ついでに尻尾と耳が出てしまった。

「猫耳」

「あっ」

「くくっ。いいんじゃないか。似合ってるよ」

「っつ」

 自由に褒められ、顔が赤くなる。そして、晴明もそう褒めてくれたんだと嬉しくなる。

「こいつはこのとおり、晴明様大好きなんです。那岐様のことも、すでにお気に入りですよ」

 すかさず朱雀がそう言うと、自由は反応に困っていた。その顔は、非常に高校生らしい。突然、今まで意識していなかった女子が自分を好きだと知ったかのような、そんな反応をしている。

(可愛いなあ)

 サラはもう、にやにやしてしまう。

「で、だ」

「は、はい」

 話が進まないと、自由が咳払いしたので、式神たちは姿勢を正した。

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