第17話 呪術師の問題点

「くそっ。こいつ、何の妖怪の特徴を得たんだ?」

 その頃。式神四人を相手に善戦する少女に、青龍は思わず舌打ちしてしまう。

「相当な強さよね」

 白虎も殺さずに倒すのは難しいかもと顔を顰める。

 いくら相手が妖怪化しているとはいえ、命令がない限り人間を殺さないのが彼ら、晴明に仕える式神の掟だ。それは現代に生まれ変わった晴明と合流していなかろうと、守るべきことである。

 だが、そんな大きな枷を嵌めたまま、この少女に勝てる気がしない。

「ちっ。せっかく妖怪化しかけの子がいるっているのに。まさか本物に邪魔されるなんて」

 一方の少女も、どちらも捨てがたい状況に、どう戦っていいのか悩み始めていた。このままでは、いくら一般人より体力のある妖怪化とはいえ、負けてしまう。

「そこまでだ!」

 と、そこに自由が到着した。式神四人も、妖怪化少女も驚いてしまう。

「那岐」

 だが、妖怪化した少女は自由に対して明確に敵対意識を覗かせる。そして、これ以上邪魔が増えてなるかと、自由に向けて攻撃しようとした。

「駄目よ」

 が、これは新たな乱入者によって阻まれる。

「あっ」

「て、天夏先輩」

 ぱしっと少女の手を捕らえたのは、あの九尾狐の松山天夏だった。

「彼は駄目。だって、狐ですもの」

「ですが」

「駄目よ。それに、これはちょっと面白すぎる状況だわ」

 天夏はくすっと笑い、自由と、それから四人の式神を見比べた。それから、足元に寝転ぶ、妖怪化しそうな子供。

「今日のところは引きます。この子は、あなたたちに預けておくわ。どうなるか、興味があるもの」

 天夏はそう言うと、少女の手を取り素早く別のビルへと飛び移った。

「ま、待て」

「やめておけ。深追いするな」

 追おうとした朱雀を、自由が止めた。

「ですが」

「あいつらのことは、まだ解らないことが多い。それより、こっちだ」

 自由は自分に敬語を使う朱雀に困惑の表情を見せたが、すぐに小学生へと目を向けた。

 髪が短いからてっきり男の子かと思っていたその子は、よく見ると女の子だった。妖気が身体に多く流れ込み、気を失っている。

「随分と溜め込んでいるな」

「妖怪化が近いのですか?」

 頭に手を翳して状態を探る自由に、どうなのかと白虎が訊ねる。

「ああ。早めに措置をしないと拙い。お前ら、空間を自由に移動できるんだよな。こいつと俺らを運んでくれ」

「も、もちろんです」

「じゃあ、サラたちも連れて来ないと」

 青龍があっちの奴らも迎えに行かないとと言うと、自由は頷いた。

「頼む」

「了解しました」

 懐かしいと思いながら、青龍は頭を下げるとサラたちが待つビルへと移動した。

 こうして、サラたちは自由たちが使うアジトへと足を踏み入れることになるのだった。




「凄い。現代にこんな清浄な空気の場所があるなんて」

 移動した先、明らかに違う空気にサラは感嘆の声を上げていた。

 まるで神社や聖域のように澄み切った空気。しかし、ここはとあるビルの地下三階だ。

「ここは俺たち呪術師たちが、念入りに妖気を取り除いている場所だからな。俺たちも呪力が強い、ということを考えると、いつ妖怪化してもおかしくない。こういう場所が必要なんだ」

 自由はそう説明しながら、ぐったりとした少女を、さらに結界が張られた一角へと連れていき寝かせる。

「呪術師が妖怪化?」

 それまで、そんな可能性を考えたことがなかったサラは驚いてしまう。

「そうだよ。俺たちはいわば半端者だ。人間というには呪力が強すぎ、妖怪というには弱すぎる。そんなんだから、バランスも崩しやすい。妖怪化して、さらに呪術も使える奴は厄介だぞ。俺たちは――問題になる前にそいつらを処理しているが」

「えっ」

 自由の苦しそうな顔から、処理とは殺すということだと解る。それだけに、ぎゅっと胸が締め付けられた。

「なるほど。ずっと呪術師がどちら側からも敵視される理由が解らなかったが、人間からするといつ妖怪になるか解らない奴、妖怪にすれば呪術も使えて強い能力を持つ厄介な奴になるってことか」

 ぽんっと手を叩いて、朱雀が感心している。

 それにサラも、ずっと人間のためにと頑張っている呪術師が虐げられる理由が解り、複雑な顔になった。

「本物の妖怪って、やっぱ妖怪化した人間とは違うのねえ」

 そんな彼らを見て、瑠璃は呆れた顔をする。

 なんとも今更な話をしているのだから、当然の反応だった。

「これでよし。ともかく、この子の妖怪化はここで止まるだろう。なんとか浄化して呪術師で留まるようにしたいが、そのさじ加減が難しい」

 ああだこうだ言っている間に、自由が結界を強化し終え、小学生の少女の安全を確保していた。

「あの」

 サラはそんな自由に、どう話し掛ければいいか解らず、そこで言葉が止まってしまった。それに自由は前髪を掻き上げると

「ともかく一息吐こう。お前らはここにいても苦しくないのか?」

 五人を気遣うように見た。

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