第18ー2話


顏を上げたレオナの眼に キラキラと眩しいシャボン玉と 毛並みの良い黒い毛玉(?)が花壇の縁に丸まっているのが見えた。ユキを振り仰ぐとユキも驚いたような顔をしていた。


二人の手が離れると シャボン玉も黒猫も消えた。


3人の大袈裟な一礼で 紙芝居の終了を察した親子たちはテラスから去って行った。



「あれが 師匠がいつも見ている世界なんですか?」

「いや… 初めて見たよ あんなにハッキリと世界が輝いているのは…僕に分かるのは気配くらいだよ やっぱり レオナちゃんと接触すると 世界が変わるなあ」

「いいなあ 僕もレオナちゃんと手をつないだのに 子供たちしか見えなかったよ」

「理央 もしかしてそれを期待して手をつないだのか?」

「それもまあ ちょっとはあるけど カーテンコールみたいで楽しいでしょ?」


人間たちが語り合うのを他所に 人外たちも広げた紙芝居をめくりながら語り合っている


「トキには おじいちゃんとおばあちゃん いたのか?」

「うん いた おばあちゃんはいっぱいいた みんな優しかった ソラは?」

「いた、、、かなあ?」

「ソラは 生まれるときになにを持ってきたの?」

「この深淵と あとは…なんだろう? トキは?」

「なんだろう?」


「じゃあさ トキの楽しい事って?」

「そうねトキはテレビ見るのたのしい テレビの中には笑顔の人がいるから」


二人の会話を聞きながら トキは見た目は5歳だけど 70年もこの世を彷徨っていたから 5歳よりももうちょっと精神年齢は上なのかな? レオナがそんなことを思っていると 理央が声をかけてきた。


「紙芝居が 風もないのに動いているのはソラとトキが紙芝居を気に入ってくれたからかな?」

「そうみたいですよ トキにはやさしいおばあちゃんがいっぱいた らしいです」

「え? おばあちゃんがいっぱい?トキは大家族なの? 」


いつの間にか近くに来たトキが理央の膝に座りながら言う


「違うよ かぞくはとーちゃんとかーちゃんとにーちゃん おばあちゃんは トキを違う名前で呼んで 一緒にすごした人 」

「ちょっと 待って 今 メモするから」


レオナは、トキの声が聞こえない理央の為に、オレンジのノートの空いているページにトキの言う事をメモする。


要約筆記…にしては要点をとらえているか分からないし 字がとても雑なのも気になるが、理央がレオナの字を見て頷くとトキが話し出す


「トキはずーっと一人だったわけじゃないのよ。 時々 トキを見つける人がいて トキじゃない名前を呼ぶの ちいちゃん とか ゆりこ とかね。


 みんな 優しかったわ ちいちゃんって呼んで笑って 歌を歌ってくれたり そして 満足すると いつの間にか”くろいマル”がでてきて 身体だけ残していっちゃうの」



レオナは聞きながらメモをして 黒いマルって深淵の事だろうか?と思う。

それを見ながら理央が聞く

「そのマルって今もよく見るの?」

「前はたくさんいた。今は あんまりいない」


黒いマルが現れると身体だけ残して行く って 死んでしまうって事だろうか?

前って 戦争中とか戦争が終わったころの事だろうか? 

その頃は人が沢山亡くなったって事だろうか? 

それをトキは一人で見続けたという事だろうか?


レオナはショックを受けながら理央の膝の上のトキを見る。


話を終えたトキは 理央の首筋から1本だけ垂れている鉛筆ほどの太さの三つ編みを弄んでいる




***


「あるところに チルチルとミチル という兄妹が。。。」

ソラが 台本を手にトキに読み聞かせをして トキは熱心に聞いている



離れたテーブルで人間たちは レオナのノートを囲んでいる。

レオナは 字が綺麗になりたいっと今ほど思った事は無い。


レオナのノートには 相変わらず棒人間が踊っていた


棒人間(トキ) 複数の棒人間(おばあちゃん) 吹き出し ちいちゃん ゆり 等

おばあちゃん → 笑う 歌 → 満足 → 深淵(マル) →彼岸

昔 深淵多い 今 少ない



「経験者が居るってすごいなあ トキに感謝だなあ」


ユキが感心したように言いながら レオナの個性的な字の躍るノートを見つめている


すると 理央が横から手を伸ばして 落書き なのか イラストを書き添え始めた。


”トキ”の下にはおかっぱの女の子 ”おばあちゃん”の下には猫を抱いて正座しているおばあさん ”深淵”の横には まん丸に近い綺麗な円を描き そして ”彼岸”の下には 天使?菩薩じゃないのか?


「理央さん 絵お上手ですね。この女の子トキに見えます……あ!そうだ! トキの事はどうなったんですか?」


ユキと理央が顏を見合わせてから 理央が口を開いた


「説明しよう! 俺とユキの研究結果だが 1、トキは多分 戦争中に亡くなった子供 ただし 、場所などは一切不明 苗字も場所も分からないし その頃に亡くなった子供の名前をたどるのは不可能でした。 

2、年代的に考えてもトキの両親は亡くなっている 

3、トキは両親に会いたがっている。って事はあの世に送ってあげる事がトキの希望をかなえる事になる 

4、ただし 俺たちには”成仏させる”手段はない…俺たち 普通の高校生じゃんね」


手詰まりっという事か? と がっかりするレオナを見て 理央はニヤリと笑った


「でも それは昨日時点のハナシ、俺 閃いちゃった! 

さっきトキが、一緒にいたばあちゃん達?が深淵が近くに来ると身体だけ残して行っちゃうって言ったじゃんね? ってコトは つまり 亡くなってアッチへ行ったって事じゃん? ほら見て」


理央がレオナのノートの自分が落書きした絵を指さし ユキもそれを見て言う。


「トキは 過去何回か トキの事が見える老人に会っている。

老人はトキの事を孫だと思って可愛がってくれて そして 死ぬ時には深淵が現れた。」


自分の話だと分かったのか トキがやってきて理央の膝によじ登る

それをレオナが理央に伝えると 理央はキュっとトキを抱きしめながら言葉を続ける……トキやソラの中に理央の指が刺さっている風景には慣れっこになって来た


「ユキは前にも言ってたじゃん? 深淵はあの世へ行くためのゲートだって。

トキの話を聞いて俺はますますゲートだって思えてきたよ。深淵を通ればアッチに行ける?

ってことは 深淵を連れて来てトキがそれを通ればいいだけじゃんね?」


いい考えでしょ?と得意気な顔で言う理央だが ユキは黙っている 理央が続ける


「野良深淵捕まえて 手なずけて 協力してもらえばいいんじゃん?」

「野良深淵?」

「野良深淵って?」

ユキがようやく口を開く


「俺には見えないけど…ユキ 前に言ってたじゃん フリーの深淵を視る事があって それが 俺について来るって。 で 俺、怒られたじゃん。人の深淵取って来るなってさ 取って無いし 視えてないし ねえレオナちゃん ひどくない? 俺は何もしてないのにさ」


最後はレオナに向かって言った


「はあ~ 理央は気軽に言うよなあ 人の深淵に手を出さないこと は 基礎中の基礎だって言ってるのに!!ってまあ 理央が悪いわけじゃないんだけど…… んんん 野良深淵かあ フリーの深淵 ねえ …」


「はいはいはーい 人と一緒にいないヤツ 見たことある デス」


レオナが何か言う前に いつの間にか話を聞いていたソラが口を挟み。

また ユキが溜息をつく




それまで大人しく話を聞いていたレオナも口を開く


「フリーの深淵さんが見つかれば トキを彼岸に送ってあげられるんですよね?

どうやって捕まえるんですか?あ 虫取り網とか要りますか? 釣り竿? 素手?

餌は。。。。餌は 理央さんですね 理央さんが捕まえてくれればいいんですが 

見えないんですよね 理央さんが釣り竿をもって駅と病院を往復したら、釣れるんじゃないですか? でも 悪い深淵さんだと うーん …」


ほら!ほら!レオナの暴走が始まった

餌にされる予定の理央がテーブルに肘をついて、ニコニコしながらそんなレオナを見ている


ユキが トキと視線を合わせて聞く


「トキは どう思う? トキと僕たちで その深淵、黒いマルを捕まえて トキが通れる”ゲート”に育てる そして トキがゲートを通ったら トキは父ちゃんたちのとことに行けるかもしれないよ。」


分かる?というように そこで言葉を切る。トキは大人の目になって頷く 


「どんな深淵が捕まえられるかわからないし すぐには 捕まえられないかもしれない。

捕まえてもトキが頑張っても育たないかもしれない それに深淵を育てるのにどのくらいかかるのかも分からない。それでもやってみる?」


トキは視線をソラの深淵に移し それををじっと見つめていたが 今度は頷かなかった。


「そうだよね ほかの方法も考えるけど やってみようと思ったらいつでも言ってね」


ユキが優しく言って トキの頭の撫でるように手を添えた。


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