第15ー2話

ようやく 顏を上げたユキが あの時の様に溜息をつきながら言う

「で ソラ この子は? お前の妹、じゃないよな?」


「昨日の暴風と一緒に飛んできたんだと思う 一昨日 バラ園のチェックしたときは、気配もなかったのに 昨日 バラ園の一番奥の花時計の所で見つけた。

多分 こいつは幽霊だと思う。」


ソラがいかにも 自分は幽霊ではないかのように言うのに ユキは引っかかったが、

話を続けさせる


「こいつ 防空壕へ行くときにはぐれた とか言ってるから 大分長い間、80年くらい?彷徨っているんだと思う。こいつを先になんとかしてやってくれないかな? えっと お願いします」


ソラが立ちあがって 机に両手をついて頭を下げる 先ほどのレオナと同じポーズだ。

それを見て ユキがまた溜息をつく

そんな二人を見てレオナは ソラはちょっとずるいなと思う。ソラに対しては厳しいユキだが、 レオナを助けてくれて ソラでさえ助けようと思っているユキが こんな風に頼まれて断れるはずがないのだ


戦争中から彷徨っている、と言われれば この髪型は納得できる。

ソラについてきたのも ソラの着ているカーキ色が見慣れたものだったからかもしれない。



外界との接触を避けてきたレオナは対人スキルが低いと自覚している。が ここは年上のレオナから交流を試みるべきだろうっと レオナは自分に言い聞かせた


「お名前は?」

「トキ」

「何歳ですか?」

「ごさい」

トキは 片手を広げて突き出す


「おうちはどこですか?」

トキは 首をかしげる

「かーちゃんがおうちでまってる おうちに行きたい」


不安げな様子に レオナが頭を撫でようと手を差し伸べるが、突き抜けた。ソラと同様で 触ることは出来ないようだ


心配げな様子でこちらを見るソラの足元にはモヤモヤと深淵が纏わりついているが、トキの周りには気配がない 


自分に見えないだけで 可愛い深淵が懐いているのか?と レオナはユキに視線を送るがユキがその意味が分かったように 首を振る。


「僕の深淵 トキの事嫌いみたいなんだ」


ソラが言う通り ソラの深淵はトキからなるべく離れようとしているようだ。

レオナは ちょっとトキが羨ましくなる。

”怖い深淵の方が避けてくれる能力”「おばあちゃんその能力が私欲しかったわ」っと心の中で訴えておく


「お前は 自分の深淵が好きなのか?」

ユキがちょっと意外そうに聞く


「好きとか嫌いとかじゃなくて コレも僕の一部だからさ…」


”僕の一部”、という言い方にレオナは驚く、この間ソラは”こいつ 僕の言うことなんて聞かない”とも言っていたが 好き嫌い以前に”自分の一部”という考え方は ユキと同じだ。


そして その”一部分”が トキの周りにはない。


「あー」っと ユキが頭の後ろで手を組んで椅子の背に身体を預けて遠くの空を見る


レオナが思いついて ノートの空いているページを開いて トキにペンを渡してみる

すると トキがペンを握ってノートに落書きを始めた。

何を書くのかと レオナとソラがノートを覗き込む 


ノートにペン先が触れる瞬間 インクが紙にのる が ペン先が動くと同時にインクが消える 魔法を見ているようだ

今度は レオナがノートを1枚 ビリビリと破り取り ソラとトキに説明しながら

シャツの形を作る


二人とも紙には触ることが出来るらしく、レオナが作ったシャツを広げてまた折るのをくりかえす


レオナが二人に折り方を教えながら 小声でなにか話をしているようだ。





ユキはそんな3人の様子を目の端に入れながら考える。


あの子はたったの5歳で亡くなったんだ。 

多分 自分が死んだことが理解できなくて 今も母親を探し続けているのだろう


「死」を理解していないから 深淵が生まれてこないのか?

「死」を理解していないような小さい子供が亡くなった場合、どうなるのだろう?


ユキは遠くの空を見ている


トキを連れてきたソラは言った「こいつを先になんとかしてやってくれ」とはどういう意味だ? 

しかも 先に、というのはその次には誰かを”なんとか”しなくてはいけないのだろうか?


ソラに問題を丸投げされているユキが「はあ~」 っと大きなため息をついて 今度はテーブルに両腕をついて 頭を抱える


そんなユキを見て レオナは師匠の頭を撫でて差し上げれば 少しは師匠の役に立たないだろうか? 自分はそれで随分 救われているけれど… そう考えて手を握ったり開いたりしていたが その手をテーブルの上から動かす事は出来なかった。



しばらくして ユキが顏を上げた


「トキの願いはお母さんに会いたいってことだよね。僕だけでは力不足だから、理央にも相談してみる。あいつ 視る事は出来ないけど 意外と賢いんだよ。とりあえず しばらく様子を見ようか? 土曜なら理央も呼べると思うしな ソラも理央に会いたいんだろ?」


ユキはお人よし という人種なのだろう ソラの気持ちを考えて理央を呼んでくれるという


「ああ これは 深淵とはあまり関係なさそうだから レオナちゃんは来なくてもいいよ?」

「来たら ダメですか?」


仲間外れにされたようで悲しくなって、眉を寄せながら聞く


「おねーさんには来てほしいなあ ユキさん怖いし トキも女同士いた方がいいよな?」


ソラがトキに聞くと トキは無表情で頷く。それに力を得て レオナは約束を取り付けた


「次の土曜日 来ます スクールもあるので 大丈夫です!」


スクールがあるのは嘘である

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