第15話 第二木曜日

天気予報通りに 翌日の火曜日から天気が崩れ 水曜日は暴風警報まで発令された


バラが飛ばされてしまわないといいけれど とレオナはバラと自由研究の心配をしてから、ソラの事も心配してあげなければとちょっと反省した。



火曜日の夜に 父方の伯父から電話があり、急ではあるが7月のお盆に父の実家、つまり レオナの祖母の家に行くことになった。


祖母が亡くなってから10年 レオナが祖母の話が出来るようになった事でもあるし 

父の兄姉たちも集まることになったらしい。


時々 父親だけは行っていたようだが レオナと母親は葬儀以来 レオンは生まれて初めての訪問だ。



四つ葉市から父の実家までは距離にして700キロ。葬儀の時にはどうやって行ったのか、レオナにはその記憶が全くない。


今回は お土産や宿泊の荷物もあるから車で行こうか お土産は何にしようか 向こうでは何を食べようか と両親が楽し気に話すのを聞きながら レオナも久しぶりに祖母の家に行く事や 従兄弟たちに会うを楽しみに思う自分に驚いた



木曜日は快晴だった 日中暑くなることを思うと少々気が重いが夏だから仕方がない

いつもの麦わら帽子をかぶり せみ時雨(豪雨?)の中 レオナはガーデンに向かう


暑いから深淵も息を潜めているのか 無事にガーデンの門に到着する ソラがいるかと見回すが ソラも深淵も見当たらない


従姉妹たちと心置きなく遊ぶためにも 宿題を進めなければ と張り切って図書室へ向かう チラリとみたテラスには人影も 人外も 深淵も居ないようだ。


図書室の指定席 傾斜のついた机は宿題をするには若干使いにくい、苦手な数学に頭を悩ませ 合わない答えに「やーめた」っと顏をあげると 斜め前で本を読んでいたのはユキだった


ユキを眺めながら考える。

相変わらず 師匠は細いなあ 色も白いし 指も細いなあ 最初は指定席で見たときは女性か?って思ったけど 壁際に押しやって悪いことしたなあ よく怒られなかったなあ 師匠と巡り合えてよかったなあ 


”普通”になれたかは分からないけど 毎日がすごく楽しい 今日だって深淵に怯えてないし。。。あーでも これからソラに会うのかな? ソラはいいんだけど ソラの深淵がなあ 


とりとめのない事を考えていると 本から顏を上げたユキと目が合う


「もう 終わったの?」

「ここが… 答えが合わないんです」 


小声で訴えると どれ? と 身を乗り出して教えてくれる。


師匠からは クラスの男子のような男子っぽさは感じられない もっと 透明な清潔な匂いがする 


「ほら 聞いてる?分かった?」


ユキが小声で言って レオナの頭を人差し指で軽くつついた。

レオナは慌てて ユキが書いてくれた補助線を見る



いつものテラスに場所を移して。。。




「師匠 私 凄いですよね? 夏休み入って2週間で 数学の宿題終わりそうですよ!」


サンドイッチを食べながら レオナが自慢げに言うが かなり ユキに助けられているから 手柄の半分はユキにある。


「そうそう、師匠ご報告があります。 土曜日から月曜まで 父の実家、 亡くなった祖母の家に行くことになりました。お墓参りもしてきます。

けっこう遠いから 朝早く出るんですけど 楽しみです。 両親も弟も楽しみにしていて…」


レオナはそこで言葉を切って 突然立ち上がり 机に両手をついて頭を下げる


「ありがとうございました 師匠! 師匠のおかげです 師匠のおかげで おばあちゃんが私に残したものが分かりました 目に映るすべての物を怖がる必要な無いって

分りました 師匠は私の命の恩人です 巡り会えてよかったです 弟子にしてくれて

ありがとうございました」


あれ?言いながら なぜか レオナは涙が浮かんできた あれ?鼻水も垂れてきたよ? みっともないなあっとレオナは慌ててポケットからティッシュを出して鼻をかんでいると あれれ? どうしたの?っとユキがいつかのように頭を撫でてくれる


「ユキさーん おねーさん泣かしているんですか? 別れ話ですかあ?」


ソラのからかうような声が聞こえた


「何言ってるの?」

「何言ってるんだ?」


二人で声をそろえて 声のした方を見ると

相変わらず深淵を連れたソラが 小さな女の子と手をつないで立っていた


少し透けるようなソラとソラ以上に透けているように見える少女 というよりは幼女。眉の上でパツンと前髪を切りそろえた長めのおかっぱ頭に白い袖なしの丈の短いワンピースを着ている。


「次から次へと、、、どうなってるんだ? ここは心霊スポットじゃないはずだけど?」


ユキが呟いてから ソラに隣のテーブルと椅子を指して言う


「ソラ、まず そこの椅子に座れ!」


この状況は 理央がソラを連れてきた時と同じだ。この女の子は深淵をつれてないけど っと冷静にレオナは思った


理央と違って 文句を言うことなくソラは素直に椅子に座り、あの時と同じように ユキがこめかみを抑えながらレオナに聞く


「レオナちゃん あの女の子 視えてるよね?」

「はい またしても と言いますか あの子も この世の人間じゃないですよね?

ちょっと 透けてますよね?」


うーん とユキがテーブルに肘をついて頭を抱えた。


それを邪魔しないために ソラと幼女 レオナは黙って そんなユキを見守る


視覚情報からの記憶力がやたら良いレオナは ここに 理央がいれば完璧に先週の再現ができるなあっと考えて可笑しくなる


「おねーさんとおにーさん わたしのことみえるの?」


活舌がしっかりしない幼い声に レオナは黙って頷いた。


ソラの時は ユキの後ろに隠れていたからソラが見えた。今回は。。。今回はユキが頭を撫でてくれていたからだろう しかも ソラに目撃されて 揶揄われたんだったっと思い出したら 顏が赤くなってきた。


チラリとユキを見ると ユキも頭を抱えながら赤くなっている気がするのは気のせいだろうか?とレオナは思った。


あの時 理央は「若干 涼しさを感じてます」と言っていた。確かにソラと居ると気温がわずかに下がる気がしていた。しかし 幼女からはさらに冷気が感じられる。 今の なんだか顏が熱いレオナには それが気持ち良いのだけれど…

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