第12-1話 7月第1日曜日

日曜日 今日のレオナはレモン色のTシャツにデニムのジャンバースカートを着ている。


もちろん胸の大きなポケットにはリングノート スカートのポケットにはユキからもらったボトルと台所から拝借した桜塩 茶色のリュックには宿題とお弁当 そのほかいろいろ。。。



先週と同じように 図書室で宿題をやってからカフェでユキと会う。 

宿題で分からないところを高校生であろうユキに教えてもらおうという狙いは 半分あたり 半分外れた 答えに行きつくまでの指導が思いのほか厳しくてヘコんだ。


師匠 厳しい。。。もう少しヒント下さい。



レオナがそう思いながらユキの方を見ると、ユキがバラ園の方を見ている。その視線を追って その方角を見たレオナはギョッとした。


ニコニコ笑いながらこちらに来る 長めの天然パーマに丸い眼鏡をかけた明るい雰囲気のユキと同年代くらいの青年。


その彼の後にモヤモヤした深淵が視える 多分 見間違えじゃない ホンモノだ


あんなゲートはくぐりたく無い、やっぱりアレは深淵と呼ぶのが相応しい。久々に見る気味の悪い深淵を見ながら レオナは


「師匠 タスケテ!」


と声にならない声でいい レオナを隠すように体の向きを変えたユキの背中に隠れた。


隠れながらも 怖いもの見たさから そっと半分だけ顔を出し片目で深淵の方を見る。

ニコニコ笑う青年と深淵 それから少年の姿が見え、ユキが息を飲むのが分かった


「ユキ~ 元気か~」


青年はまっすぐに ユキの前に来た そして レオナに気が付くと


「おお~ 友達? よろしく~」

っと ユキを押しのけるようにしてレオナの顔を覗き込もうとする。

その彼とついて来る深淵に レオナが声にならない悲鳴をあげて後ずさる


「理央 まず座れ お座り!」


ユキが隣のテーブルの椅子を指す


「なんだよ なんで同じテーブルじゃないんだよ」

と文句を言いながらも 彼は隣のテーブルの椅子に座った。


その隣には 小学生くらいの少年と深淵 

どうやら深淵の持ち主はその少年の方らしい


「理央 お前 またなんか連れてきてるぞ。あまりいいヤツじゃないから彼女 怯えてるんだよ」


「え? ガーデンに入ったら緑が多くて涼しいなあっと 思ったけど、俺、なんか悪いヤツが連れてきてるってこと? ありゃ~」


当人を前に”あんまりいいヤツじゃない”とか”悪いヤツ”と断言するのはどうなんでしょうか?と ユキの背中から少年と深淵を視ながらレオナは思う


理央と呼ばれた人は キョロキョロしているが 少年の方を見ても視線が止まることは無い。


ということは この少年は理央さんには視えてない?幽霊? 私、幽霊が視えてる?質の悪い深淵つれた幽霊?…師匠お助けください。混乱したレオナはすがるような目をユキに向ける。 


「レオナちゃん コイツは鈴木理央 色んなモノにめちゃくちゃ好かれてるトラブルメーカー。 で 理央 この子は 佐藤レオナちゃん 例のブラックホールの共同研究者」

「いえ 弟子です!師匠 」


レオナはユキの後ろから少年を観察する カーキのTシャツにデニムのハーフパンツ。 髪は長めだがどこにでもいそうな小学生だ。 

ただし 時々 少年の身体が透けて向うの景色が見えるような気がする。


レオナが観察している間も 少年は理央の周りをグルグル回ったり 髪を引っ張ったりしているが理央は髪は直すが少年の方は見ないし 重さも感じないようだ。


ユキがこめかみを抑えながら小声でレオナに聞く


「レオナちゃん あの黒い深淵 みえるよね?」

「はい でも あれ連れているの鈴木さんじゃなくて 横の男の子ですよね」

「あ あの男の子も見える?」

「はい あの子ちょっと変ですよね?」

「うん あの子 多分 普通の人間じゃない、 というかこの世の人間じゃない気がする」

「あ やっぱりそうですか なんか そんな気がしました。鈴木さんが連れてきたんですか?いつも 幽霊?連れているんですか?あの方は?」

「いや 近いけど 多分 いつもじゃない その上。。。多分、なんだけど」


うーん とユキがテーブルに肘をついて頭を抱えた。


それを邪魔しないためか 理央が少し離れた椅子に座ったままレオナにだけ声をかけた


「よろしく レオナちゃん ってか レオナちゃんもブラックホールが見えるの?凄いじゃん!」


凄いかな?と思いながらレオナも自己紹介をする


「佐藤レオナです 佐藤は多いのでレオナで大丈夫です よろしくお願いします。 ちなみに ブラックホールは先日 深淵に改名いたしました。現在はそれがゲートか通路なのではと考察中です」

「なるほどねえ ゲートかあ ユキの話だと ブラックホールよりもゲートとか通路のがしっくり来るなあ。入口と出口があるんだもんな」


こそこそとあいさつを交わし 話をする二人の間に 少年が割り込み レオナの方を見て聞いた


「僕の事見えるの?」


声変わりする前の少年の声に、レオナは黙って頷いた


「え? レオナちゃん 今の何?」

「鈴木さん…」

「あ 理央ってよんで 鈴木さんも大勢いるから」

「では 理央さん ここに小学生くらいの男の子がいます。 鈴…理央さんは、何か感じたり見えたり 聞こえたり しますか?」

「ほう。。。小学生男子なんだ 気配というか 若干涼しいのはそのせい?はあ~」


理央が大げさに溜息をつくのを見て ユキがげんなりした顔で言う


「溜息つきたいのはこっちだよ レオナちゃんはブラックホール恐怖症なの。なんで幽霊付のブラックホールを持ち込むんだよ!」

 

「知らんし!」

「師匠 理央さんには ブラックホールが深淵に改名した旨はお伝えしました」


視えない者には 夏休みの学生3人が夏休みの計画を立てながらちょっともめているのかな?程度の平和な風景である


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