第5-1話 明日の約束

「明日 お昼過ぎ 図書室 … えっと あれ? 名前 井上?旭?ちがう もっとこう…山木? 結城? そうそう それだ!」


自室でカレンダーに明日の予定を書き込もうとして レオナは既に相手の名前を忘れている事に気が付いた


眼で見たものをしっかり覚えられるレオナは その分なのか 耳で聞いたものの理解や記憶がすこぶる悪い 


それでも 同級生の名前を順番に思い出して ちょっと違う気がすると思いながら 結城さん と書き込んだ




「今日のスクールは何かいい事でもあったの?」


レオナがいつもよりも楽しそうに見えたのか、母親が聞いた



「深淵の正体が分かりそうなの!」


そう答えたら 母親は何というだろうか? 


一方”深淵”は自分の正体が暴かれると知ったら どんな反応をするだろうか?


レオナは今はまだ隠しておいた方がいいような気がした。

それに 深淵を知らない母親にそれを説明するのは この問題が解決してからでもいいだろう レオナはそう結論付けた


「ガーデンの図書室でとても素敵な画集を見つけたの。 明日も見に行こうと思うけれどいいかな?」


「あら そんなに気に入った画集があるなら買ってあげようか?」


あまり 物事に執着せず 欲しいものを言う事がないレオナに母親が提案した。



レオナが執着するのは、興味を持つのは 家族と”深淵”だけだ。 アイツを避けて、家族と”普通”の生活が出来れば他に欲しいものは何もない無い。



「図書室で見る方が良さそうだから 図書館で見るよ」


レオナは慌てて辞退する 

明日本を買いに書店へ行こうっと言われたら図書室へ行けなくなる 明日の図書室はレオナの人生の分岐点になるかもしれないきわめて重要な日なのだ。


「僕も 本欲しいなあ」


弟のレオンが言いだして 話題はレオンの欲しい本の話に移って行った。






レオナは 深淵について調べたことがある


トライフォビア という ポツポツ恐怖症についての本も読んだが深淵とは違う 深淵に比べたら大分かわいい


他にも ダム穴恐怖症のようなものもピンとこない むしろ水が滝の様に流れ込む様子には見とれた。



深淵について一番 ピンとくるのは、やっぱりあっちゃんの書いたニーチェさんの言葉だ 


ニーチェさんにあって話をしたら解明するのかもしれない ニーチェさんの見た深淵はどんな深淵だったのだろう?


明日、結城さん(仮)に会えば解明すると期待して レオナはベッドに潜り込む


明日がこんなに楽しみなんてめったにない事だと思いながら…


 **

その頃 ユキもベッドの上で 寝転んで考えていた。


図書室で頑に同じ席に座ろうとした少年が 実は少女で しかも「視える人」らしい


ユキも「視える人」だ。

姉たちに「ユキは霊感が強いから動物に嫌われる」と言われる程度の霊感らしきものと あのブラックホール達がある程度の大きさ以上であれば見える そして 自分のバディが少し扱える。 


ユキが バディと出会ってのは 小学校に入った年 母親の祖母-ユキにとってのひいばあちゃん-が亡くなった葬儀の時だ。

 その葬儀に出席している大人の中に 黒猫を連れている人がいるのが不思議だった。あれはバディ達だったのだろう。



初冬だったのだろうか? 日当たりのいい縁側で 一人の男性が猫を撫でていた


ユキはその猫に興味をもって近づいた


「オジサンの猫 僕もさわってもいいですか?」


その人は驚いた顔をしながら苦笑した。


「これは猫じゃないんだ 僕のバディ(相棒)だよ。

 ええと 君は何歳かな?」


「7歳です!」


「7歳かあ いいなあ 僕は7歳まで生きられないと言われていたんだよ」


7歳まで生きられない人がいる というのがユキにとっては不思議で ユキはその言葉をよく覚えている


「7歳までは神の子 7歳超えたら人の子って言うんだよ

君には このコが視えるようだけど そんな人ばかりじゃないから この黒いゆコの事は秘密にしておこうか? 

皆が生まれたときから連れているバディだけど 怖がる人もいるからね」


男性は 膝に抱えたバディをもう一度撫でると


「それから 人のバディをむやみに触ってはいけないよ。でも君は僕にとってとても嬉しい事を言ってくれたから、今日は特別に触らせてあげよう」


と言って ユキの手をとって バディに触れさせてくれた。


「なんにもいないのに あったかい?」


驚いて 男性を見ると 優しい顏でユキを見返して頷いた


「怖いものではないんだよ でも 自分から近づいてはいけないよ」


その後 しばらく会話を交わした男性が 有ユウという名前で その葬儀の2年後に19歳で亡くなったと知ったのは 死後大分たってからだった。



有のバディに会ってから ユキはバディに魅了された。


綺麗なバディ 不気味なバディ 見つけたっと思って近づいたら 猫だったり 石だったり ごみ袋だったり めったに見つからないけれど 見つかればうっとりと眺めた。


それから しばらくして 何もかもを飲み込もうとしているようなバディを見かける事があった。ユキはそれをバディではなくて”ブラックホール”と呼んで区別した


「あの子 レオナって言ったなあ 何を知っているのかな? 僕の知らないバディの事を教えてくれるのかな? あの子もバディが大好きだといいけれど…」


そんな事を呟いて ユキは目を閉じた


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