第30話 ソラが消えた翌日

ソラが行ってしまった次の日 3人はカフェの片隅の小さなテーブルを囲んでいた。


トキは 空に帰った 家族と70年分を楽しんでいるかもしれない

ソラは 生き直すために身体に帰った 本当の名前で生きているだろう


トキもソラも 前に進んでいったのだ 望みを叶えたのだ 今の方がここに居た時よりもずっと幸せになっているだろう


分っているが それで寂しい気持ちが消えるわけではない 


「ソラの新しい生活に乾杯!」


理央が紙コップを掲げる


本当は寂しくて”乾杯”なんて気分には慣れないけれど それは我儘というものだ。

ソラにはまた会えるかもしれない そんなことを思いながらレオナはコップを傾ける。


「僕の思い込みで ソラに悪い事したかなあって思ってるんだ」

コツンと紙コップをテーブルに置いたユキが静かに言う


「ソラが『深淵に食べられれるのが 使命って人間もいるかも』って言った時 僕は『そう思わない』って否定しちゃったんだ。」


「師匠! それは ソラは深淵に食べられる運命の持ち主だったと 師匠は考えた ということですか?」


「うん もしかしたら ”自殺する” という”やること”を持って生まれてきたのかもしれない。そんな 運命もあるのかもしれないそう思えてきたんだ」


そうか ソラは自殺しようとしたのだ。深淵に飛び込むというのはそういうことだ。


「生まれてくる時に ポットに”やること”を入れて来る それをやり終わったら ポットは あの世に通じる道になる。トキはそう言ったけど…?

それは やること やりたいこと なのか やらなくてはならないことなのか?」


レオナが答えられないでいると 理央が囁いた


「いいんだよ レオナちゃん ユキは答えを求めてるわけじゃないからね。

こんな時のユキは自分の頭の中を整理しているだけだから 」


理央の言う通り ユキの独り言は続く


「ソラは素直だから 自分の深淵に入っている”やること”をやろうとして、ソラの深淵も 同じように素直で ちゃんと”やること”を受け入れた。 

本当ならそれでソラの深淵だって シュっと消えて一緒に彼岸へ行けた。


自分勝手に ”やること”残して 飛び込んだんじゃなくて”飛び込め”という使命に 両親の為に逆らったのかな?それとも両親が消えようとする深淵を消滅させずにこの世につなぎとめたのか?

だったら 僕はもっと違う言葉を与えるべきだったのかな?」


ユキの顔がいつもの理央に困らされている時の顔でなくて 悲しそうな顔に

なっていく


「師匠 そんなこと 分からなくていいんですよ!」


レオナがキッパリと言いながら立ち上がる。そして ユキの頭を撫でる


「どうせ 分からないんですよ。私なんて自分の事だってわからないくらいなのに   人間に生霊(いきりょう)のことなんて分るはずないじゃないですか?

 ソラは師匠と理央さんのおかげで望みが叶ったんだから それでいいじゃないですか?

もしかしたら ソラは今頃落ち続けていたのが両親のおかげで救われたんです。そして 生霊になってこの世を彷徨っている時に師匠たちに会えたから ソラ自身と両親の望みが叶って、 今 きっと幸せにしてる。それでいいじゃないですか?」


ね?っと理央の方を見たら  虹色や金色に輝く シャボン玉に囲まれていた。


シャボン玉に囲まれた理央は 優し気な容姿と相まって 少女漫画の一コマの様になっている… けど 実際にシャボン玉しょってる人って なんかアレだ。 


今 いいところなんだけどやっぱアレだ…


レオナにつられて理央を見たユキもちょっと固まる


「ユキがレオナちゃんに頭なぜられてる…」

っと 理央も(シャボン玉をしょって)固まっていたから それがまた可笑しくて


ちょっとの間を置いて 3人は一斉に吹き出した。

それがまた なんだか可笑しくて 声を殺して笑う


ひとしきり笑った後で 少しだけ日陰になったテラスのいつもの席に落ち着いた。




「ねえ さっきのレオナちゃん 格好良かった!」

座ると同時に理央に言われて レオナは赤くなって俯く


「俺もちょっと 恰好イイコト言っていい?

 ユキ お前は命を大事にしないヤツが嫌いじゃん それでいいじゃん

 これからも お前はその信念を変えなくていい。

 自殺、それが運命だったヤツはそのまま深淵に入ってちゃんと次へ行く 

 運命じゃなくて 勝手にはいったヤツはいつまでも深淵の中を彷徨う。 

自業自得

たまたま 遇ったソラがどっちでも ソラは生きなおす事を望んだし お前はそれを助けた お前は一つ命を救った 凄いことじゃん!」


そう言って 理央がユキを抱き着いた


「ちょっと やめろ!」そう言って 引きはがそうしていたユキが 理央のいう事を聞いて止まる


「実態があるのっていいなあ トキやソラだって存在してたけど 存在を信じてたけど こうやって感じる事は出来なかった。今はユキが居るってわかる すごくいいよなあ」


ユキが止まったのをいいことに ムギュムギュっと更に抱き着いた。



4時の鐘がなって レオナは立ち上がった


「レオナちゃん今日はありがとう ソラを救ったのは君もだよ それから 僕も君に救われたよ」


ユキが小声でそっと言った


「し 師匠 理央さん しちゅれいします」

レオナは 赤くなって 俯き そのまま 右手と右足を同時に出しながら門に向かって言った。


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