第29話 ソラ カエル


ソラをどう”助けようか”。 

ユキと理央はソラにタスケテと言われる前から考えていた。


生霊は 生霊だと自覚して身体と対面すれば身体に帰れるのではないか

と理央とユキは考えているようだ


「前に 雑誌でそんな体験談を見たような気がする」


理央が自信満々な口調で なんの根拠もないような事を言う。

その雑誌って何の雑誌なんだろう?


この件については 実証できる過去事例などあるとは思えないのだが?


兎に角、当事者であるソラ自身が ”自分と対峙すれば何かが起きる”と感じているから 僕を探してほしいと言うのだ。 


やってみるしかない。


ソラの身体は ローズガーデンの病院棟にあると想定出来た。

だが、その中のどこにあるのか?どうやって探して対峙させたらいいのか?

というのが 次の超えるべき壁だ


ガーデンの入院病室はそんなに多くはない この中のどこかにソラが居る

とはいえ 名前が分からない人の病室に乗り込めるほどセキュリティは甘くない


ソラの 人間としての名前が知りたいと思ったが 今時は個人情報保護とやらで 新聞社に聞いても教えてはくれない


もちろん ネットで調べて見たが 1年も前の事故で ”命に別状はない”小学生の情報は得られなかった。


「たぶん 呼ばれれば思い出せると思う」


と ソラは言うが、あてずっぽうに呼んだ名前が当たることは難しそうだ


そして もし名前が分かったとしても やはり個人情報保護の壁が立ちふさがる。

病室の入口には名前は出ていない だから病室がどこか分からない


仮に名前が出ていたとしてもソラの名前が分からないのだからやはり 病室へ入れない


堂々巡りだ 解決の糸口がつかめない。


「ナースセンターで レオナちゃんが”ふにゃらら君のお見舞いに来たんですけど” って言ったら 向うから あら ○○(まるまる)君の彼女 とか言ってくれないかな?」


理央投げやりに言う



「ちょっとした骨折くらいならともかく 1年意識不明の小学生の見舞いに今頃来るカノジョってどんなん ですか!」


すかさず ソラが突っ込んだ 

もちろん レオナがソラのモノマネで理央に伝えた。


ユキがんん?っという目で見た気がしたが『師匠よりは似てると思います!』っと心の中で返しておいた




行き詰る中

「とりあえず 病院へ乗り込んでみようか? 何か起こるかもしれないし」


そんな 行き当たりばったり、風任せ、なるようになるさ的な発言をしたのは

意外な事にユキだった。


「やるか やらないかはソラに任せる やってみる気になったら言ってくれ」


行き当たりばったりの計画実行の決定権は本人であるソラにあるのだ



***


そして今 ソラを背負った理央 と レオナとユキは病院棟の前に居る


「なんだか ちょっと怖いな 変化が怖いし 失敗も怖い あ~ トキは 凄いや」

理央の背中でそんな気弱な事を言うソラに


「明日にするのか?」

「明日でもいいよね?」


同じような事を ユキは冷たく レオナは期待を込めて言う。


レオナの横を 老人の二人連れが通った。

久しぶりに レオナは深淵を目にした。 レオナに見えるという事は悪質深淵なのだろう どちらかが 深淵を弄んでいるのか?

”やること”がまだ入っている(終わってない)のに入ろうとするバディにあきれているのか、怒っているのか?

それとも そんな状況のなかで頑張って疲れている深淵なのかもしれない。


ひと月前なら 深淵の姿をチラリと見ただけで逃げていたレオナだけれど

悪質深淵だって悪い、というよりも むしろ 哀れなヤツなのだ、怖いというよりも かわいそうだと思えてきた


 レオナに見えない深淵、良質深淵とバディはどんな形にみえるのだろうか? 知りたくなって ユキの方を見るとユキが視線に気が付いたのかレオナの方を見た。そして ふざけたようにレオナの肩を包んで抱き寄せた


病院棟の入口の自動ドアが開き 通路やロビーの様子が見える


老人の足元を守るように動いている深淵 車いすの老人の膝の上でくつろぐ深淵

母親と手をつないでいるよちよち歩きの子ども その足元にまとわりつく深淵


子供は深淵をまったく理解していないから、勝手に遊びに出てしまうのだろうか? 

幼い深淵は自分が子供の一部だと理解できず 友達だとでも思っているのかもしれない


ほんの 1秒か 2秒で ユキは離れたけれど レオナにはユキの視ている、レオナによって少しパワーアップされているかもしれない世界が視えた。


うん 大丈夫 深淵は人を襲ったりしないから 死は怖いけれど 誰もに訪れるもの

うん 大丈夫 師匠もいるし 理央さんもいる レオナは手を握り締めながら自分に言い聞かせた。


3人で 病院棟のエントランスに入る そこから 2階まではエスカレーターで エスカレータの無い

その先は ゆっくりと階段を登る

長期入院の患者は四階らしい と言う情報を二人はどこからかつかんで来ていた


「エレベーターもあるけど 階段の方が人も少ないからね」

「レオナちゃん 四階まで登れる?大丈夫?」


理央がからかうように言うから レオナは理央を睨むふりをする。


階段を使うのは 人目につかないからというのももちろんだが 深淵に遭遇しないようにというレオナへの配慮だろう。


*


4階フロアへの階段を登りきって 右手にある 小さなロビーのような所の椅子に座る

いつものように ソラのいない方を見て理央が聞く

「俺たちの調査では ここにお前の身体が居るんだけど 何か感じる か?」


ソラがなんだか キョロキョロしだして落ち着きがない 


「ソラ?」

「母さんの声がする」


「呼んでいるなら 行きな 今度は自分の全てを大事にしろ」


「うん 約束す…します ありがとうございました また 会いたいです」


ソラが頭が膝につきそうな 深い大きな礼をしてから顏をあげて 3人をしっかりと見た。


この顏を覚えておこうとレオナは思った。

だが 今のソラの顔はいつものソラの顔となんだか違ってソラだけど初めて見る男の子のようだった


ソラがナースステーションの方へ駆け寄っていく ナースステーションの向うには病室のドアが並ぶ廊下が見える あのどこかに ソラが戻るべき身体があるのだろう

レオナたちは目でソラを追う 


その時 ナースステーションで 何事かを看護師さんと話していたショートカットの女の人がだれかに呼ばれたように ピクリと肩を動かして振り返る


「-------!」

眼を大きく見開いて 小さい声で何かを言った その瞬間に ソラの姿が消えた。


ナースコールが響き ナースステーションが騒がしくなる


「理央 帰るぞ」

「え?」

「ソラは 無事に帰ったよ」

「そっか」


「ありがと ユキ レオナちゃん 

 あ ちょうど エレベーターが来た!!」


理央に押されるようにして ちょうどついたエレベーターに 白衣の人たちと入れ替わりに乗り込む


レオナ ユキ 理央 それぞれに思う事があるのだろう 誰も口を開かない。

エレベーターも途中で止まることも無く 一階フロアに着き ドアが開く



病院のエントランスのベンチに3人は並んで座る

しばらく 黙ったままでいたが口火を切っるのは やはり理央だ


「俺には 分からなかったけど ソラ帰ったんだな?」

「ああ 多分な」

「とりあえず 今はソラ視えません」


「あっけなかったなあ」

「うん」

「身体軽くなった気がしますか?」

「ああ 言われてみれば? 暑くなった?」

「理央さん ガーデンでは トキかソラかどっちかが ぶら下がってましたからね」

「俺 モテるんだよな」」

「頼むから もう 何も拾ってくるな 連れてくるな…」



「幽霊も生霊も突然現れて せっかくお友達になれたかと思ったら 突然いなくなるんですね」

「そうだなあ 突然いなくなるんだなあ」


ユキが言いながら 顏を覆って 身体を二つに折った


「師匠?」

「ユキ 一人になりたい?」


「レオナちゃん ユキ 一人でしみじみしたいみたいだから 俺の事送ってくれる?

 ユキ また明日

 レオナちゃん 行こう!」


よいしょっと 掛け声をかけて理央がレオナを引っ張り上げる

その ふざけた様子にレオナもつい 立ちあがる


ユキの事は気になるが 一人になりたいときもある


理央につられるように 出口へ向かう 自動ドアが開いて 外で出る



「あ!忘れ物 ちょっと待ってて」


 理央が呟いてその開いたドアが閉まる寸前に病院へ戻る


レオナは 真夏の白い日差しの下にポツンと残される


トキも ソラも 本当に突然行ってしまった。


ソラなんて 走って行っちゃった 薄情者め!


あれ?本当にあの二人っていたのだろうか? 存在していた証拠は何処にもない。

髪の毛一筋残していない


もしかして すべて夢だったのでは? だとしたら どこからが夢なのか?っと不安になった時に


「ごめん ごめん お待たせ」


後ろから 理央の声がした。

とりあえず 今は夢ではないのだろう

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