第23話 8月に入りました 

とうとう 8月に入った

祖母の作ってくれたワンピースは作りが単純だから涼しくて、しかも トキとお揃いっぽい という事でレオナのお気に入りだ。なんなら一日おきに着ているくらいだ。


レオナは その大きなポケットに凍らせた小さいペットボトルを入れて今日も ガーデンのカフェに居る。


トキが決断したら、と既にユキと理央は相談してあったらしく カフェにメンバーが、最後に不機嫌そうなソラが揃う頃には 話が纏まっていた。


そして そのことにソラは更に不機嫌そうな顔になり、その隣で深淵がソラに反応して震えていた。


作戦?としては”レオナに見えない、且つトキの気に入る深淵をいつものカフェ周辺で待ち構えて捕まえる”という 当たり前 な上にきわめて単純なものだ。


この単純な計画に至るまでには ユキと理央でいろいろ考えたらしいが、結局の所、一番簡単な手段となったのは…トキが風に飛ばされてしまう事を心配したから、らしい。


「まずは ガーデンの門あたりの結界を解くね というか 結界張るのを止めるから レオナちゃんはそのつもりでいてね」


ああやっぱりっとレオナは納得する ガーデンでレオナが深淵に遇わないと思っていたのも ソラが入ってこれなかったのもユキの結界の力(ちから)だったのだ。


でも なぜ ユキはガーデンに結界を張っていたのだろう?レオナが少し首を傾げるのと同時に 理央が軽口をたたく


「ユキ ちょっと神経質な所があるじゃん? 自分の周を綺麗にしておきたいのよ それなのに俺が連れ込むから 怒るったらありゃしない…余裕のない男は嫌われるよお?」


「師匠が結界を解いたら 深淵だらけになるんですか?」

「そんなことにはならないと思うよ?そんなに深淵だらけになったら嬉しいけど…」


ユキはレオナがぞっとするような事をさりげなく言ってから、続けた


「それに レオナちゃんが嫌だなって思う深淵にはお帰り頂けばいいよ? ああ、でも 悪霊退散!っというは止めようね。基本的には 怖いモノじゃないからね?」 


あら?悪霊退散は違ったらしい。自分では「やってやったわ!」っと少し誇らしくさえ感じていたのにっと 恥ずかしくてちょっと赤くなって俯くレオナにユキが言う


「多分 バディを見失ってちょっと荒れてるだけだろうから優しくしてやってね。

 ”ここにはバディはいないから バディのところに帰りなさい”って言って でもこっちには来ないでね って気持ちを込めてお清め代わりに少し塩をまいておけばそれで充分だと思うよ。」


レオナは俯いたまま 頷くという器用な事をやってのけた


「ねえ ちょうどよくっていうか 台風が来るじゃん ここらは今夜から明日一日は雨みたいだね。

明後日から計画実行でどうかな? うわ でも暑そうだね~」


スマホで天気図を確認していた理央が割って入る


「では ”トキの為にフリーの深淵を捕まえる作戦”(レオナ命名)は明後日からスタートですね」

「レオナちゃん 長い名前命名したねえ 俺ならもうちょっとセンスのいい名前を…」


二人をスルーして ユキがトキに言い聞かせるように言う


「すぐに 見つかるとは限らないからね 慌てないで行こう」

「もう ずいぶん待ったから ここであと2-3年かかっても 大丈夫です」


トキを子ども扱いするユキに トキが落ち着いて答えている。

ユキは少々驚いているようだが、トキの中身はもしかしたらユキよりも年上かもしれない。


「じゃあ 明後日ですね トキ 行こう!」


ソラが トキの手を引いて行ってしまう



「ソラがトキを連れて行ってしまいました」


レオナが状況を説明する


「ソラ 焼きもち焼いてるのかな?」


理央が呟いた。




8月第一土曜日


台風一過 大粒の雨が降った翌日は カラリと晴れた暑い日になった。

スクールを終えたレオナは急いでカフェに向かう


レオナ達の指定席は テラスの奥の席なのだが 今日はバラ園に近いテーブルに席を取ってバラ園を眺めながら トキとソラを待っている。


学生3人が横一列にならんでバラ園の来場者を睨んでいる。という事になったら

ガーデン出入り禁止になりかねない(ってことはないだろうが)ので なんとなくバラを眺めている体で話をする。


「あの二人が来ないと意味ないですね いつもなら真っ先に来ているのに?」

「俺は ソラの気持ちが分かるよ せっかく出来た友達が居なくなる手助けをしなくちゃならないんだからさあ…」

「ソラも寂いんですね」


「だから ユキ 俺 ちょっとソラで ”例のコト”試したいからヨロシク!」

「ん」


なにが”だから”なのか分からないが ユキと理央の間では話が付いている”例のコト”があるらしい


あれ?霊じゃないよね? 例だよね?



*****


レオナがまだテラスに来る前のことだ、理央がヘラリと笑いながら ソラと二人で話をしたい と言って来たのだ。


「二人で、って 理央 ソラの声聞こえないだろ?」

「うん だから コックリさん方式?YESかNOだけで意思疎通できないかと思って 実験したいんだ。 紙を触れるなら石も触れそうだろ? 俺 視えない人だから ソラと意思疎通できるかもって思ったらやってみたくってさあ な ユキちゃん お ね が い」


「理央が そういう言い方する時って すごく真剣な時だから 嫌って言っても引き下がらないんだろ? お前だけが見えない 聞こえない だもんなあ…

僕は ソラを理央の前に座るように促す事 ソラが逃げだしたらお前に伝える事 位しかできないぞ あと 二人の話は聞かないようにするけれど…」

「サンキュ!ユキ OK まあ 話は聞こえたら聞いてもいいかな」



そして 今 トキとソラがテラスにやって来た

トキはレオナと ガーデンを眺めて 深淵マチだが 手持無沙汰なので家から持ってきた あおいとり を開いている


ソラは奥のテーブルで 理央と並んで座り 一つ椅子を開けてユキが座る 

一見 理央とユキが話しをしている体だ。


理央は 胸ポケットから碁石をだす 


「ソラ 俺の質問で YESなら 白い石 NOなら黒い石を触ってね いい?」


ソラが 白い石を触る 理央にも石が揺れるのが分かった


「おお!俺 天才じゃね? 最初からこれやっとけばソラと意思疎通できたのかあ」


大きな声ではないけれど理央らしい口調で言う。

そして頬杖をついて視線を横に向ける。顏は笑っているけれど目は真剣だ。その視線の先に今日はソラがいる 


「ソラ 今日は楽しいですか?」

少し迷ってから 白石が揺れた


「ソラ? 俺のこと嫌い?」

すぐに 黒石が揺れる


「じゃあ 俺の事好きだな?」

白石が揺れたのを見て 理央は満足げに頷いて


「俺もソラの事好きだぜ」と言ってから 質問を続ける


「レオナちゃんのことは好き?」

YES

「トキの事は 好きだよな?」

YES

「トキが 望んでいることわかるな?」

YES

「トキを幸せにするために 協力できるな?」

・・YES YES

「よし ソラ いい子だね 俺も レオナちゃんも トキもソラのこと好きだし 大事に思ってるよ」 

理央がそう言って 石を撫でる ソラの手も一緒に撫でられる


「じゃあ 最後の質問な ユキの事は好きか?」

自分の名前が出たことに チラリとユキが理央の方を向く、ソラが照れくさそうな顔をして白石を動かす

ユキがソラ以上に照れくさそうな顔になって 顏を伏せてしまった


「うーん ソラはユキより素直でいいなあ ユキも素直にソラの事好きって言えばいいのになあ」


理央がそう言って ソラと一緒になって 白石をグラグルと動かす

理央も ソラも楽しそうだ


視えない理央が ソラと心を通じさせている。 理央は太陽だ 明るい太陽だから 影まで魅了してしまうのだろう


ソラの気持ちを汲み取りって ソラがやりたいと思っていることをやりたいと言わせてしまった もちろん また迷う事だってあるから 白石は大きく揺れたのだろうけれど 迷いながら進めばいいのだ


*****


「うわあ 俺 なんか 今日 すごい幸せな気分!!!」


理央が小さなガッツポーズを取りながら身もだえている。

その理央にソラが顏を隠して寄りかかっている 素直な理央にソラが照れているのか?


それを敢えてスルーしてか ユキがレオナ達に声をかけた


「どう?今日は深淵が通っている? 暑いからあまり人は居ないようだけど?」

「師匠 今日は人がまばらですから… 私には見えません」

レオナの横でトキも頷く


「よし!俺 今 すっごく幸せだから ちょっと一回りしてくる!ソラもおいで!」


理央がスキップしそうな足取りで ソラと一緒にテラスを出て行った。


「あああ あの勢いだとなんか拾ってきそうだなあ 張り切ってるのはいいけど とりあえず 門まで行ってみるか… トキ レオナちゃん 一緒に来てくれる?」


ふうっと一つ溜息をついてユキが立ち上がり、二人の方に一瞬 手を伸ばしかけて下した。


ガーデンの門まで来たけれど ソラと理央は見当たらず ユキとレオナはバラ園の出入り口のアーチの近くの小さな木陰に入る。


飛ばされないようにと気休めかもしれないが ユキとレオナでトキを挟んで立っている。


「理央のヤツ どこまで行っちゃったんだろうなあ?」

「街の方でしょうか? それとも 病院棟」


そんなことを言っていると


「おーいい ここだよお」

「トキはここだよおおお」

理央とソラの声が聞こえてきた どうやら 歩道橋の上から街に向かって叫んでいるらしい


「理央 調子に乗りすぎだろ?」

呆れたようにユキが言って 木陰から出ると


「お ユキそこにいたんだ。 歩道橋からすごく綺麗なチンダル現象見えるぞ 行くか?」

っと言いながら 理央が入って来…ようとして”ストップ!”っとユキが両手を前にだして止める


「レオナちゃん 何か見える?」

「あ! マルだ」


ユキがレオナを振り返って言うのと同時に トキが理央の方に滑るように行ってぼんやりとした”深淵”を抱きしめた。


「ぼんやりと 見えて、ます」

トキには申し訳ないけれど レオナには見える 小さい声で言った。


「僕にも 見えてしまっているけれど…」

ユキが がっかりしたような顔で トキを呼ぶ


「トキ それはダメだよ 明日また 探そう 理央がまた沢山つれて来てくれるからね?」


子供の顔と子供の目のトキは黙ったまま 深淵を抱きしめる

子供にやられると… どうしようもない とユキとレオナが顏を見合わせ


「ねえ 俺の連れてきたヤツ どう? トキ気に入ってくれた?」

理央が空気が読めない発言をする


「理央さんが連れてきた深淵 なんですけど 私にも師匠にも見えてしまって、トキの深淵としてはふさわしくないと言いますか でも トキは気に入ったようで離さないんです」


「ふーん まあ とりあえず ユキ 結界張ったら?」



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