第5話 義妹の妹キャラの確立

 義妹になった莉緒が秘密を暴露してからというもの、莉緒が明らかにおかしい。これは俺の知っている成瀬莉緒ではない。


「ねぇねぇ、お兄ちゃん~話聞いている~?」


「……聞いてる」


「ほんとに?せん、……お兄ちゃん何か別の事考えてるでしょ~?」


「……考えてない」


 そこにはいつも敬語でツンツンして怒っている後輩ではなく、ただ純粋に俺のことをお兄ちゃんとしてだけ見ている、うぶで可愛らしい義妹の姿があった。


「でね、お兄ちゃん。さっき一つ空室の部屋あったでしょ?とりあえず、あそこが新しいお兄ちゃんの部屋だよ。ベッドと机はあらかじめ準備しておいたからリビングの荷物運んでね。もちろん、私も手伝うからね」


「あー、ちょっと待った」


 このままだと話がぐいぐい進んでいってしまいそうだったので、俺は莉緒に一つだけ確認することにした。


「お前は正真正銘、莉緒だよな……?」


 我ながらなんて馬鹿な質問をしたのだろう。猫に向かって「あなた猫だよね?」って言ってるくらい馬鹿だと思う。


「酷いよ、お兄ちゃん……。莉緒はここに存在するのに……。お兄ちゃんの

大好きな金髪ツインテールはここにちゃんとあるよ……」


「お前が存在しているのは分かってる。俺が聞きたいのはそうじゃない」


「違う~違う~そうじゃ、そうじゃな~い」


 おいおい、さっきからキャラ崩壊しまくってるぞ。


「俺はお前がなんでいきなり妹キャラになったのかって聞いてるんだ!」


「決まってるじゃん、お兄ちゃんを愛しているからだよ」


「全くもって理由にならねぇよ……」


「なるよ!お兄ちゃんを愛する気持ちさえあれば関係ないよねっ!」


 それはどこかで聞いたようなラノベのタイトルだな。俺の大好きな妹系ラノベ作品の一つなんだけどな。


「だからって、今までのキャラ捨ててまで妹キャラになるなんておかしくないか?」


「お兄ちゃんは金髪ツインテールの彼女か、妹が欲しかったんでしょ?私は今は彼女にはなれない。でも義妹になったんだから妹にはなれる。そう考えたら全力で妹キャラやるでしょ?愛してる人のためだもん」


 ……こいつ、ここまで俺のこと好きだったんならどうして告白してこなかったんだろうか。振られるのが怖かったにしてもここまでの覚悟があれば出来ただろ。

 

――――莉緒もただの馬鹿だった。


「お前がそうしてくれるなら俺はこの上なく嬉しいが、お前はそれを続けられるのか?」


「別に好きでやってる事だし!私を誰だと思っているの?」


「振られるのが怖くて告白出来なかったヘタレ後輩」


「そういう事言うんだ!お兄ちゃんなんて嫌い!今日の夕ご飯は抜きだからね!」


「悪い悪い!今のは冗談で……」


 俺が近づこうとすると、莉緒は右手の人差し指で俺の頬を触った。


「私も冗談だよ、お兄ちゃん♡」


 俺はその莉緒の姿に見惚れてしまった。こんなセリフを言われ笑顔でウインクされて萌えない男子高校生がいるだろうか。無理無理、これ今すぐにでも結婚したいレベルだよ。同居一日目で義妹に対してガチ恋しちゃうよ。

 

「ほら!早くご飯食べよ!明日からまた学校だしさ!」


「あ、あぁ……」


 俺は全てのガチ恋感情を噛み殺して莉緒と共に一階に下りた。


        *


「お兄ちゃん、何食べたい?」


 エプロンを巻きながら莉緒が俺に献立のリクエストを聞いてきた。


「そうだな、莉緒の一番得意な料理が良いかな」


「おっけー!それじゃ待っててね」


 そう言うと莉緒は冷蔵庫を開けて食材を取り出して調理し始めた。失礼かもしれないが、俺は莉緒が料理で出来るなんて微塵も思っていなかった。


「お兄ちゃん出来たよ~!」


「……まじで?これ……お前が作ったの……?」


「そうだけど?美味しくなさそう……?」


「違う!逆だ!めちゃくちゃ美味そう!」


 テーブルに並んでいた物で異彩を放っていたのは唐揚げ。なんと黄金に輝いていたのだ。ここまで綺麗に揚げられた唐揚げを見たのは生まれて初めてだ。その他のサラダも味噌汁も唐揚げに負けず劣らずの完成度だった。


「莉緒、お前凄いな……。さすがに驚いたぞ」


「それは食べてから驚いて欲しいな~」


「わ、分かった。じゃあ食べよう」


「「いただきます」」


 俺はまず唐揚げを取った。目の前まで持ってくると、その輝きさらに増した。俺は恐る恐る口の中に入れて唐揚げを噛んだ。


――――なんだ、この唐揚げは。


 衣はサクッと噛む度に中の肉汁がジワーっと溢れ出てくる。そして油も程よく切れているためしつこくない。これは究極の唐揚げだ。何個でもいける……!


「莉緒!この唐揚げめっちゃ美味いぞ!」


「お兄ちゃんに喜んで貰えたなら莉緒は嬉しいよ。まだ沢山あるから食べてね!」


「おう!食べる!」


 俺はひたすら唐揚げを食べまくった。それを莉緒は満面の笑みで見つめていた。


「「ごちそうさまでした」」


 俺はすぐにソファに横になった。唐揚げを食べ過ぎて俺はもう動けない。


「お兄ちゃん、そんな食べてすぐ横になったら牛になっちゃうよ?」


「妹の美味しい手料理をお腹一杯食べて、牛になれたら本望だろ……」


「またそういう事言う……。明日の朝ご飯も私が作るからね。後、お昼はこれから毎日弁当にするね」


「弁当も作ってくれんのか!?てか、お前いつも昼は購買で買ってただろ?」


「それはめんどくさかったからで……。べ、別に、お兄ちゃんにお弁当を作ってあげたいなんて、これっぽちも思ってない良いんだからね!勘違いしないでね!」


 はい、ここで出ました。ありがとうございます。王道ツンデレ。

 俺の脳内はスタンディングオベーション状態ですよ。


「分かった分かった、毎日楽しみにしてるから莉緒頼んだぞ」


「うん!任せてね!お兄ちゃん!」


 明日からまた学校だが、莉緒は一体どっちの莉緒で俺に接してくるのか。今まで通りの後輩の莉緒なのか、それとも妹キャラと化した莉緒なのか。

 正直な話、どっちでもいい。だが、妹キャラで接近してきた場合はそれ相応の言い訳を考えておかなければならない。

 そんな事を考えながら、俺は眠りに付き、同居生活一日目を終えるのであった。


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