第4話 義妹のお義兄ちゃんへの想い

 莉緒に『お兄ちゃん』と呼ばれて一時間は経っただろうか。困ったことに莉緒が二階から戻ってこない。今後の生活について話をしていたはずだったが、いつの間にか話が脱線して今に至る。


「……ここで一人で待っててもしょうがないし、様子見に行くか」


 俺は二階に行くことにした。ちなにこの家は莉緒の父親と莉緒が二人で住んでいた一軒家である。俺と母さんの家では狭いし不便だということでこっちの家での生活が決まったのだ。昨日の今日で引っ越しをしたため俺の荷物はまだリビングにある。

 俺はまだ未知の領域である二階にたどり着いた。二階には四つの部屋があった。莉緒の父親の部屋と莉緒の部屋、トイレ、そして空室。

 莉緒の部屋は一番奥の部屋だった。


「莉緒?いるか?俺だ、いたら返事してくれ」


 俺はドアを軽くノックして莉緒からの返答を待つ。


「……」


 だが、莉緒からは何も返ってこない。


「莉緒?大丈夫か?」


 俺はもう一度、ノックをして莉緒からの返答を待った。


「……」


 やはり、何も応答は無かった。ここはもう強制突撃しかないだろう。


「莉緒、入るぞ」


 俺は何の躊躇いもなく、義妹になったばかりの義妹の部屋に押し入った。


「……暗くて何も見えない」


 部屋の中は真っ暗だった。俺は部屋の電気のスイッチを探した。壁際を辿っていくと青く光るスイッチが見えた。俺がそれを押すと部屋は一気に明かりを灯した。


「……なんだ……これ……?」


 俺の目の前に広がる光景に俺は部屋の入り口で立ち尽くし言葉が出なかった。

 莉緒の部屋には壁や天井に所狭しと俺の写真が貼られていた。クラスでの俺、部活中の俺、そして私服の俺、一体いつ撮ったんだという写真が数えきれないほどあった。俺はもしや、知ってはいけない秘密を知ってしまったのでは……。

 俺は心臓をバクバクさせながら部屋を見渡したが莉緒の姿がない。


「……ちょっと、これはどういう事か、説明して貰えますか……?」


「うわぁぁぁぁぁぁ!り、莉緒!?」


 俺の後ろにいきなり莉緒が現れた。莉緒は真っ黒なオーラ放ち目を赤く光らせて俺へと近づいてきた。あまりの威圧感に俺は倒れ込んでしまった。


「お、お前!どこにいたんだよ!?」


 莉緒が無言で指さしたのは誰もいない空室の隣の部屋だった。


「……じゃあ、なんでここにいるのか、早く説明して下さい」


「分かったから!説明するから!……これ以上俺の傍に近寄るなぁぁぁぁぁ!」


        *


 俺はここに来た理由と勝手に部屋に入った謝罪を莉緒に伝えた。こんな怖い思いをしたのは生まれて初めてだった。

 どうにか莉緒も落ち着いてくれて、まともに話が出来る状態になった。


「……悪いんだけど、俺からも一つ聞いていい?」


「なんですか?」


「……この部屋一体なに?」


「なにって私の部屋じゃないですか。それを分かってて入ったんじゃないですか?」


「違う!見たら分かるじゃん!この部屋、俺の写真だらけなんだけど!?」


 この部屋でそんな平然と話が出来るこいつは正直言ってやばいと思う。


「……この家に住むと決まった時に隠し通すと心に決めたのですが、まさか一日目でバレるとは思いませんでした。いずれはとは思っていましたが。私自身も気持ちを抑えるのもそろそろ限界みたいですし」


 莉緒は淡々と話を進めて行き、ゆっくりと息を吸うと莉緒の表情が先程同様になにかを決心したものに変わった。またなにか言うのではと俺は息のんだ。



「……私は、お兄ちゃんのことが、陵矢先輩のことが好きでした――」



 好き?好きってなんだ。likeか、それともloveなのか。俺のことを男として見ていたのか。そもそもなんで今そんな事を言う必要があるんだ。この部屋との関係が何かあるのか。しかもまた『お兄ちゃん』って言ったし。

 この時、俺の脳内での十秒間で大量の情報が流れ込んできて処理が追い付かない。まず何から聞けばいいのかパニック状態だった。


「り、莉緒?その好きってはどういう好きなんだ……?」


 自分の中で今一番の質問を莉緒に投げかけた。


「この状況でそういう事聞きます?鈍感というか、なんというか本当に先輩はあほですね。ずっと隠していましたが、私は出会った時から先輩のことが好きでした。いわゆる「一目惚れ」ってやつです」


「……嘘だろ?」


「ほんとです」


「だから、私だって陵矢先輩がお兄ちゃんになって嬉しいはずなの残念な気持ちの方が強いんです。一緒に生活出来るのに、彼女という立場にはなれない。悔しくてしょうがないです。もっと早く気持ちを伝えるべきでした……」


 莉緒が深い憤りの表情を浮かべていた。


「でも俺に対して不満があってずっとあんな態度取っていたんだろ?それじゃ告白なんてどのみち出来なかっただろ」


「それはそれ、これはこれです。好きな気持ちは変わりません。タイミングだけが分からなかったんです。告白して振られたらどうしようって考えるとどうしても……」

 

「まあ、俺はお前がしてきたら百パーセントOKしていたけどな」


「だから~!この前金髪ツインテールが好きって聞いて、「あれ?もしかしてワンチャンあったのでは?」って思ったんですよ!ほんと最悪です!」


「……で、この大量の写真は?」


 俺は俺の写真が大量に貼ってある天井を指さして問い詰めることにした。


「あ~、これは先輩にバレないように携帯にこっそりGPS付けさせて頂きまして。いつでもどこでも先輩のカッコいい姿を撮らせて頂きました」


 いつの間にそんな小細工を……。てか、そもそも犯罪だよそれ!

 そして莉緒は立ち上がり、額縁に飾ってある写真を手に取った。それは俺が教室でのんびりと窓の外を眺めている写真だった。


「はぁ~、この綺麗で紺色の髪。そして顔の肌ツヤも良くて鼻筋が通っているカッコいい鼻。シャープな顎に整ったフェイスライン。……もう大好き!」


 別にここに実物あるんだから写真見なくても、と思ったが俺はあえて口には出さずに黙って聞いていた。

 

「今、私は隠していた事全てを暴露したのでもう遠慮はしません。私は今日限りで『後輩』を辞めます、敬語も使いません」


「は?何言って……」


 そういうと莉緒は俺に抱き着いてきた。


「これからは義妹としてよろしくね。お兄ちゃん♡」


 俺の心臓にグサッと槍が刺さるような衝撃が襲ってきた。俺の夢は金髪ツインテールの彼女が欲しい、もしくは妹が欲しいだった。

 それがたった今本当の意味で形となった。この後輩に『お兄ちゃん』と呼ばせるのにはもっと時間が掛かると思っていたが意外とあっさり解決してしまった。

 気持ちの面でも義妹になった莉緒がどんな行動をしてくるのか、俺は想像しただけでにやけが止まらなかった。


「ねぇ!お兄ちゃん!これからどう生活していくのか、もう一回話するよ!」


「ああ、分かった。じゃあリビング行くか」


「ここでいいじゃん!ほら始めよ!お兄ちゃん!」


 ここで一つだけ言えることがある。


――――金髪ツインテール美少女の義妹は最高だ。

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