第4話 嵐の昼間に。


いきなり伸びて来た彼の手に



茉穂は ビックリ!!

「ゴクッ」

思わず唾を飲む。



「あ、あの~専務!」

吸い込まれそうな深い瞳に釘付けになりながらも声を絞り出した。


右手から差し出されたフカフカな質の良いタオルに又ビックリする。



「あ、ありがとうございます

でも大丈夫です。」


すかさず茉穂は両手を胸の前で振った。


彼は何も言わずにホレホレ

とタオルを又突き出してきた。


「あ、あ、ありがとうございます」

ニコッと愛想笑いをする。


「雨も風も強くなったね

早く髪拭かないと

風邪ひくよ。

電車も止まるみたいだし


君、どうする?帰る?」



「えーと!

スマホをロッカーに忘れて

取りに戻った所なんです。」



「そう。

僕も帰るとこなんだ

一緒に帰ろうか!

送るよ。

俺、ちょっと上行くから

ココで待ってて」



ひえ〜

茉穂はビックリ過ぎて何も言えずにいた。彼はサッサとエレベーターに乗り上昇それも幹部専用の奥にあるゴージャスなエレベーター


「お、オットこうしちゃあ

いられねぇ、

一般市民はこっちこっち」


茉穂も社員用のエレベーターに乗り企画課迄ダッシュ


ハアハアハア言いながらスマホを手にして運命のエレベーターの1階をポンポンポンと調子良く押した。

気分はもうウキウキ


憧れの専務と帰れるー?

体も軽い軽い!

ウキウキ


「連絡先聞いちゃおー」

お気楽な茉穂は嬉しくて嬉しくて脳内お花がパッパパッパパッパ

と満開🌼*゚夢見る乙女

急いで急いで専務の待っ場所へ走る走る💦


専務はもうエレベーターの下に来ていた。後ろ姿もカッチョイイ〜


うわあ~いる、いる┣¨‡┣¨‡

専務の後ろ姿を見つけて超興奮

ウヒウヒ


「せ・・んム ム?ム・・・ム?」

茉穂が声をかけようとしたが

外の大雨のように気分は一気にザブーン


専務の隣には綺麗な前下がりボブの女性が立っていた。



「・・・💦」

楽しそうな雰囲気の2人を見たら、美亜の言っていた婚約者の話を思い出した。


「彼女が婚約者?」

綺麗な人だなぁ、茉穂は愕然とし乾いた笑いしかでない。


「うぅぅ出遅れたか!!」


コレは諦めろってことか?

わけのわからない自問自答


ガックリ

幽霊の様な歩き方で茉穂は裏の警備室に回りドアをノックするとブルーの上下を着た60代の警備員さんが現れた。

ウワッ


下からヌウッと警備員さんを見る、そんな茉穂を見るなり警備員さんは軽い叫び声

ヒエーェェ


茉穂は、何じゃ失礼なと思いつつ



「すみません⤵︎

あのエレベーターの所に女性と

専務がいらっしゃるので

お邪魔したら悪いので

台風接近なので帰ります

とこっそり伝えてもらえますか?

女の人に聞こえないように」



あの仲良し2人の中にこんな姿で

「専務ぅーお待たせぇー

遅くぅーなっちゃいましたーァ♡」

なんて、練習したぶりっ子言葉は使えない、2人の間に割って入る勇気なんて無い!!ぜヨ



気分はドボン



急にテンション下がりの不気味な、ねーちゃんを見た警備員さんはツイ聞いてしまう。


「ああ、君部署は?」


「はぁ」

とずぶ濡れな髪を人差し指でずらし

魚の死んだような目をまたたかせ答える茉穂に、ビビったようで、まるで幽霊を見るような目をした。



「・・・企画課でスゥ〰。

華枝茉穂と言いますゥ〰 ︎。

専務は名前言っても

ご存知無いとおもいます〰。

気が抜けたように尻すぼみのかすれた声を出す。


専務は、ダダこんなに濡れるのが可哀想に思われて送ってあげると言われただけの話ですから・・

でも

彼女が先約なんでしょう。ヒヒ


私は大丈夫ですと伝えて下さ~い!」

ションボリ



警察に定年迄勤めていたからか眼力が強く嘘がつけなさそうな厳しい顔を向けている警備員さんは、ちょっと不気味な社員だなと思ったようで、それ以上は何も聞いてこなかった。


「はい、分かりました

伝えておきます。

気をつけて帰りなさい。」


その言葉にホッとしながら

力なく笑いヒヒヒと丁寧に頭をさげた。





会社の従業員出入口まで行くと風は強くなり雨も激しく降って来た。

・・・・どうしょう。


タクシーも捕まらない!

バスはまだ動いているらしい。

バス停留所まで走るか?

・・・走ったら又ずぶ濡れだろうな


生暖かい風のせいか少し茉穂全体が、乾いて来た。夏だから基本洗濯物も乾くのは早い。着ていれば乾く!夏限定な乾く乾く説



雨の都合を考えて

仕方なく企画課迄戻る事にした。専務はもう帰ったかな


それにしても風強いな!振り返って外を見る。

木々はビンタし合うように枝が揺れている。茉穂は吹き荒れる風がなんか自分の心の現れのように思えて悲しくなった。



どうせ暇だ

茉穂は7階までの階段をゆっくり上がる、トボトボと時間かけて登る。時間はあり過ぎる。



フウー明日は、足がバリバリだな

足が踊るってこういう事!!

どっこいしょ!最後の1段を上がる。

もうフラフラ


どてん、どてん、フラフラと企画課のドアを開け、トボトボと中央のデスクまで行き椅子にダウン、クルクルと椅子を回し


「せっかくだから仕事仕事」


パソコンを開いて電源を入れる。

窓をすこーし開けるがビュンビュン

とけたたましい音が入ってくる。



ピ、シャン


閉めるしかない!

早く台風が通り過ぎますように


30分もすると暑くて暑くて

ムシムシする上にお腹も減る

台風情報を見るともうすぐ上陸

とある、でかい台風雲がしっかりと間ん中の目をくり抜いて進んで来る。

誰も居ないと思ってクーラー止められた、まさかの停電か?



「あーぁ蒸し蒸しする。」

階段上りの疲れもあったせいか

眠ってしまった。



「おい、おい、茉穂茉穂」



呼ばれて薄ら目を開ける

アレ?点滴棒が見えてポ、ポテン、ポテンとイライラしそうに薬液が落ちている。

せっかちな茉穂はスローが苦手

落ちるなら早くポテポテポテと落ちて欲しい、イライラする~

しかし待てよ・・・・・

理解が追いつかない、仕事してたはずなんだよね~!なんで・・・

「え、なんで病院?」


ベッドの横には丸椅子に脚を組、腕を組んで茉穂をみつめる心配そうな

専務の顔があった。





「 ・・・・どーしました?

なにかありましたか?」


真っ直ぐ俺に向かって歩いて来る警備員の川田さんが見えた。よく話をする仲なので声をかけてみた。


「さっき華枝茉穂って子が

来まして専務に"帰ります"

と伝言がありましたよ。

一緒にいる女性に分からないよう

に伝えて欲しいと・・」



「え!帰った?

・・・は?


ああ、すみません

で、彼女は本当に帰ったのですか?」



「いやぁこの雨風ですし

まだいるかもしれませんね。」



一緒にいたのは文月綾

彼女は最近父親に紹介されて

たまに食事に行く仲だ。

1回2回と会うウチに少しづつ仲良く

なって来ていた。

茉穂が気を使うのもあたりまえか?

少し話が長過ぎたから、彼女は

結構おしゃべりだから


「泰真さん、御一緒しませんか?」

の誘いに


「いやぁ今日は仕事があって

すみません、またの機会に」

そう言うと彼女は残念そうに


「じゃあまた」

と回って来た車に乗り去って行った。


知性があって優しそうで、思いやりもあり人望もある。

子供好きでお菓子作りもお手のもの。社交的で話上手


趣味が料理で栄養士の免許も持ってる探しても中々見つからないような女性、そんな人を紹介されて

何が不満なんだ?と言われても・・

不満など無いと答えるしかない。

しかしどんなに出来のいい女性でも俺の嫁じゃあ無い気がする。


そんな事を考えながら

企画課へと歩く 。

この風の中帰れるはずは無い!エレベーターを降り企画課の前に立ち、ガラス張りのオフィスを見渡す。


中央のデスクの上にバックが

ポツンと見える


「華枝さん、華枝さん」

泰真は呼びかけるが返事は無い


「おかしいな……?」

不審に思った泰真は中に入って バックを目指して足を踏み出す


ゴロンと横になった茉穂は小刻みに震えていた。 俺は彼女を見つけると走りより彼女に声掛けしたが返答はない。


「まさか熱中症か?」


「茉穂、茉穂、茉穂」

又声をかけるがぐったりとして来た

慌てて抱き上げバックを握り

エレベーターへと走る

駐車場へと急ぎ、ぐったりとした

茉穂を車に乗せた。


運良く台風の目にいるのか雨風は弱まっていた。救急車を待つより運んだ方が早い。


会社から15分の救急病院へと走らせる。救急車が止まる位置で車を停め

救急外来受付で


「お願いします

気を失ってるんです。」


俺の叫び声に医者も看護師も機敏に動いてくれて直ぐ処置が始まった。


ホッとして椅子にもたれ掛かる

自分の口から

「はぁー疲れたー」

と言うのは仕方がない。

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