第23話 すれ違い



—ゆかりside—



伸吾が私たちの前から消えるのを見届けてから、私たちも歩き出した。


「なんとか一件落着しましたかね」

「そうだね。本当ありがとう。」

「なんか、変に首突っ込んでことを大きくしちゃいましたかね?」

「いやいや。多分私ひとりだったら忙しいからとか言って無視し続けてもっとひどいことになってたと思うから。」



本当に、今の私は翔太くんに支えられている。

そして、私は翔大くんのことが好きだ。

私の気持ちを、今日は面と向かって伝えたい。



「お昼にしよっか。落ち着いたらちょっとお腹空いたね。」

「そうですね。」


私たちは近くのレストランに入った。

昨夜とは違い特に予約もしていなかったが、一応良さげな店を調べておいた甲斐があった。

店内は休日の昼にしては静かで、経営が不安にはなったが、告白するには好都合だった。


何気ない雑談をして、ランチを楽しむフリをしながら、私はいつ話を切り出そうかと悩んでいた。


話も食事も落ち着いて、心地よい沈黙がしばらく続いたとき、意を決して私は言葉を発した。


「大事な話があるの。」

「大事な話があるんですけど。」


二人の言葉が重なった。


「じゃあ、翔太くんが先にどうぞ。」


こんなドラマみたいなことあるんだと思いながら、ここは大人として一歩引く。


「ありがとうございます。」


「僕たちの今の関係って、かなり曖昧だと思うんです。ただの隣人と呼ぶには近いし、雇用関係というにはお互いにどんぶり勘定ですよね。」


「まあそうね」

胸の高鳴りを押さえ、平静を装って相槌を打つ。


「このままの関係性でいるのもなんかあれだなと思いまして。」


もしかして、翔大くんから告白されるかもしれない。そしたらどんな言葉で、どんな顔をして答えようか。




私のそんな予感は次の瞬間に打ち砕かれる。


「家事代行のバイトを、辞めようと思うんです。」


それは、思いもよらない提案だった。


「え?」


「新しいバイトを探そうと思いまして。それが決まり次第ということにはなるんですけど。」



そこからの翔大くんの言葉は、私の耳に届かなかった。



翔大くんとの関係が終わる。

あの幸せな時間が終わる。

私たちはただの隣人に戻る。

それだけが事実として私に重く突きつけられた。



そうだった。

私が好きになった人は皆、私が舞い上がっているときに去っていく。


初めて恋したひとを除いて。



これは、初恋を世間体や環境のせいにして封じ込め、身勝手に終わらせた私への報いなのだろうか。


目の前にいる彼と同じ名前をした少年との、10年前の苦い記憶を思いだしながら、そんなことを考えていた。

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