第25話 春の祭典②リボン
昨日よりずいぶん人が多い。お弁当は飛ぶように売れた。
子供たちもいっぱい見にきていた。彼らは買いもせず、お弁当よりわたしたちを見にきている気がしてならなかった。
買う人買う人になぜだか頭を撫でられて、ミケと顔を見合わせる。
でも、買ってくれてるから、ま、いっか。
昨日よりも20個も増やしたのに昨日よりも早い時間に売れ切れ、報酬をもらい、わたしたちはお祭りの下見に出かけた。お店には今度の休みの日の午後にみんなの好きなものを作ってくれると約束してくれた。みんなで外食できるなんてとても嬉しい。
いろんなお店が出ていて目移りする。きれいな紙を売っているお店、リボンや髪飾りを売るお店、お花を売る店。屋台もいっぱいある。尾っぽの長い鳥が掲げられている店もあって、その鳥はグラデーションがかった不思議な色合いの鳥だった。
お腹が空いていたけれど、みんなで屋台の何かを食べることになっているので、そこは我慢だ。果物を水飴で包んだような飴や、薄焼きのクッキーを売る店、ホクホクのお芋に乗っているあれはバターかな、おいしそうな匂いを撒き散らしている。薄い生地に甘いジャムを塗ったものも売られていて、そこは子供と女性が殺到していた。
わたしは串焼きとあのクレープみたいのにしようかな。
みんなで来る前にどれを買うのかのチョイスだ。
レース編みのお店があって目が止まった。妹かもしれない子が髪に結んでいた、薄いピンクのレースのリボン。
「なに、ひょっとしてフィオも惚れちゃったの?」
ミケの口元が歪んでいる。
「オレも惚れちゃったって?」
不思議に思ってどういうことか尋ねる。
「いや、ニマから聞いたんだけど、ボスがレースのリボンをつけたお嬢様を見て、ポーッとしてたっていうからさ」
「カイが?」
「うん。ニマも言ってたけど、すっごいフィオに似てたって。助けに行った時、そのお嬢様が目を覚ましたとかで、助けてくれたんですねって手を取られて、あのボスがポーッて顔を赤くしたって」
………………………………………………。
「……そうだったんだ。オレ、眠っちゃったからそっから知らないんだよね」
「そうなんだ。ニマがいうには……」
ミケはいろいろ話してくれていたけれど、その後の話はわたしの耳には一切入ってこなかった。
どうやって帰ってきたのか、時間を潰したのか覚えていない。
みんなが戻ってきたので、お祭りに繰り出した。みんなではしゃいだ。
行き交う人はみんな笑顔で、幸せそうだ。それはとても嬉しいのに、幸せそうな顔に被って、わたしは見ていない、お嬢様を見て頬を染めるカイの情景が浮かんできて胸の奥が痛くなる。
みんな気に入ったものを買った。わたしはやっぱり串焼きと果物を甘く煮詰めたものを包んだクレープを買った。食べてみたいと言われたら一口あげて、一口もらって、ほくほく芋も食べたし、辛く煮たお肉みたいのも食べた。いろんなものを食べられてどれもおいしかった。お腹がいっぱいだ。
みんなで何か言い合っていると思ったら、屋台にあった笛を買い、紐を通してわたしの首にかける。
「いっか、何かあったらこの笛を吹け、助けを呼ぶんだぞ」
そう言ってノッポに頭を撫でられる。ハッシュにほっぺを引っ張られ、ホトリスには手拭いで口の周りを拭かれた。タレがついていたみたいだ。
ランドとイリヤに軽く頭を叩かれ、カートンに笛ふけるかと心配された。ミケには吹く時は思い切りねとアドバイスを受ける。
わたしは首から下げた笛を服の中に入れた。
みんなの気持ちで胸がいっぱいだ。お腹もいっぱいなのに。全部うまくいっているのに……笑い顔を作れないわたしがいた。
変だ。嬉しいはずなのに、嬉しくないなんて。
笑うなんて、一番簡単にできることなのに。
いつの間にか遅れを取っていたようだ。少し前にいたのはカイだけだ。
「疲れたのか?」
「え? そんなことないよ。なんで?」
「元気ないから」
「そう?」
カイに手を引っ張られる。ちょっと小走りになって路地に入った。お店など何もない路地だ。
カイは怒ったような態度と声で、わたしの前に拳を出した。
「あのさ、これやる」
カイが手を開くとそこに乗っていたのは薄い緑色のきれいなレースのリボンだった。
「これ……」
「今はできないだろうけど、大きくなったらお前だって飾るもんがいるだろ。だから持っとけ」
わたしの手をとり、その掌にリボンを置いた。鏡で見たわたしの瞳と同じ色だ。……カイが選んでくれたんだ。
首にリボンをかける。そのまま耳の後ろに這わせておでことの生え際にリボンを持って来て、そしてギュッと結んでからリボン結びをする。カチューシャがわりだ。そして少し後ろにずらして前髪はおろす。鏡がないから、ちゃんとできているかわからないけれど。
わたしはカイを見上げる。
「似合う?」
カイが髪を直してくれた。そしていろんな角度から長いこと見てから微笑った。
「よく似合ってる。フィオナにはその色だな。すっげー可愛い」
わたしも微笑っていた。顔が赤くなっているんじゃないかと思う。
でもそんなのどうでもよくて、とても嬉しかった。
すっごく嬉しかった。
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