第22話 イーストVSウエスト⑤そっくり

 物音で目覚めた。

 明るいとここが倉庫みたいなところだと気付いた。棒だけの棚枠だったらしきものが整然と並んでいた。子供たちが連れてこられていた。棚の向こうにその様子が見えた。大人は片足を引きずった男がいるだけだ。もう1人の大人が出て行く背中が見えた。残った足の悪い男はあらぬ方を見ている。

 ポーラだ。あの2人もいる。

 見目のいい服を着ている。

 わたしは子供たちに近づいていく。

 薬を盛られた子はわたしに反応しないだろうから、大人にさえ気づかれなければいい。


 棚に隠れるようにしながらわたしはちょっとずつ近づいて、合図を送った。隠れるようにといっても枠組みの棒だけだから丸見えに近いけどね。

 気づいた!

 3人は子供たちの塊の後ろへと下がっていく。意図に気付いてわたしも後ろに回り込む。3人は身を寄せて、後ろに潜んだわたしを隠すようにした。ポーラや他の子の手の縄を解く。固く結ばれていたので、時間がかかってしまった。好機を待つ。

 外から男が呼ばれ、わたしはわたしが入ってきた扉口に3人を誘導した。

 男が部屋を出た隙に扉口から廊下へと出る。


 他の部屋でわたしはここは他の街から離れているらしいことを伝えた。

 廃墟みたいなところの中のことも。思いつく逃げ出す方法を話していると、ポーラがわたしたちの前に腕を出して、もう片方の手で口の前に人差し指を立てた。わたしたちが口を閉じたとき、バタンと部屋のドアが開いた。


「ここにいるんだろ? 逃げられないぞ。出てこい、今なら痛めつけないでやる」


 絶対、嘘だ。男が近づいてきた。ここは出入り口がひとつしかない。音を立てないように金属の棒のようなものを拾う。見た目より全然軽いものでがっかりした。武器にはなりそうもない。

 あ。男が真横を通り過ぎようとしたときに、鋭く尽き出してみた、男は足を取られコケた。

 その隙に部屋を飛び出す。扉の前に棒を転がしておく。少しでも扉が開きにくくなっているといい。来た方向と反対の方へ急ぐ。扉があったので開けてみれば、いろんな物が埃を被ったまま残っている部屋だった。隠れても埃の散らかり具合でその場所を示してしまいそうだ。首を横にふり次の扉に。そっと開けると外につながっていた。わたしたちは顔を見て頷きあってから外へと飛び出した。

 通路を走る。上着を引っ張られ、止まってかがんだ。


「また逃げられたのか?」


「もう、来ちまうぞ」


 足早に男たちが行く。そしてなんと馬車があった。馬は放され草を食んでいる。


「僕、馬乗れる」


 馬車を止めた子が言った。


「おれも」


 なんと!


「オレは乗ったことない」


「おれも」


 わたしがいえばポーラも続く。


「役割は決まったね」


「え?」


「オレとポーラはまだこの街にいると思わせる行動をとる。君たちは助けを呼んできて」


 沈黙が落ちた。少ししてから馬車を止めにいった男の子が言った。


「僕、ハービー」


「ノン、だ」


「フィオ」


「ポーラ」


 名前を伝え合う。


「誰か来るみたいだから、来てから出るのがいいと思う」


と話しているうちに、馬車がやってきた。多分奴隷商人だ。ここは受け渡しの場所なんだろう。乗ってきた2人の男たちは馬を放して、ご機嫌で倉庫っぽい敷地に向かっていった。



 ハービーとノンは背を低くして馬に近づいていく。小さな声で語りかけてから、馬を撫で背の高さほどの馬に飛び乗った。馬は身じろぎして後ろを見たが、賢そうな瞳をハービーに向けている。ノンも無事、馬に乗った。そしてわたしたちを見てから静かに馬を歩きださせた。2人は馬になれていて危なげもなかった。


 わたしとポーラは助けを呼びに行ったのがバレないよう、ときどき存在を知らしめる必要がある。倉庫のある敷地の構造は逃げているうちに把握できたと思うが、あそこは直線が多くて大人が本気で走ったらすぐに捕まってしまう。そんなことを考えているうちにみつかった。


「いたぞ、ガキだ!」


 手を繋いでポーラと走り出す。

 倉庫の先にあるこれまた広い敷地の中に入っていく。

 倉庫のあったところと同じような作りだ。

 ほら、やっぱり。

 わたしはポーラの手を引いて、わたしが一晩明かした見つかりにくいスポットのような場所に連れていった。

 そこに座り込む。


 何かの工場の様な跡地なのかもしれない。建物の中の構造がそっくりだ。ここも棚の枠だけのようなものが整然と並んでいる。半分の何もない方が作業をするところで、こちらにできた荷などを置いていたのではないかと思う。



 大きく息を吐くと、ポーラが謝ってきた。


「ごめん、ごめんねフィオ」


「謝らないで。ここから逃げることを考えよう」


 カツカツ足音が近づいてくる。大人が入ってきた。

 そう、ここはどんな施設だったのか知らないれど、前世の記憶にあるようなコンクリートのような床の素材だ。わたしたちは探されていて、足音が近づいてくる。

 怖かった。すっごく怖い。歯がガチガチ言っちゃいそうだし、恐怖で気がおかしくなりそうだ。

 でも、空気に飲まれたら負けだ。

 わたしは強く強くポーラの手を握った。

 空な目でわたしを見たポーラに口の前で人差し指を立てる。

 ポーラは何とか頷く。

 男は所々で棚を蹴りつけ威嚇してくる。驚いて音を立てるのを待っている。

 長い時間に思えたけれど、実際はそうでなかったのかもしれない。

 とにかく男はわたしたちを見つけ出せず、遠ざかっていった。


 ふーと息を吐く。

 この敷地に入ったことはバレている。大人全員で探されたらアウトだ。他のところに逃げなくては。と前の似た敷地では行かなかった方に扉を発見した。わたしたちはそこに滑り込んだ。また広い真四角な部屋だった。物が雑多に置いてあったが埃などは被っていない。ということは使われている。戻った方が良さそうだと思った。けれど


 助けて!


 え? パンを食べちゃダメと教えてくれたあの声と同じだ。


「何を?」


「え、何が?」


 わたしが主語を尋ねると、ポーラから尋ねられる。


「あ、ポーラに言ったんじゃないよ」


「じゃあ、誰に?」


 ポーラが青い顔をする。


 ぽわぽわと光に導かれる。


「ポーラ、光ってるの見える?」


 ポーラはわたしが指差す方向を見たけれど、首を横に振った。


「もしかしてフィオは妖精の守護があるの?」


「ないよ。適正もないんだ」


 ポーラは聞いてしまったという顔をする。

 一室に入る。ぽわぽわした光があるような気がしたからだ。

 棺桶?

 棺桶の中でふわふわの毛布に包まれて女の子が眠っている。胸が微かに上下していたので胸を撫で下ろす。なんだかわからないものが助けてと言ったのはこの子のことなんじゃないかと思った。

 すっごい可愛い子だ。額に涙がたのアザがある。

 ポーラがわたしと眠っている可愛い子と何度も見比べる。


「どうしたの?」


「フィオ、この子とそっくり」


「そっくり?」


「そっくり」


「オレ、男」


「そうだけど、フィオが女の子になったらこうなるよ」


 同じ銀髪だからそう見えるのかな?

 わたしは自分の姿を見たことがないのでそう言われても判断はつかなかった。


「ねぇ」


 わたしは女の子を揺すってみたが、起きない。でも温かいさを感じるし、差し迫った危険はないと思う。

 この子を助けてと言われても、わたしにはどうすることもできない。それよりわたしたちこそ助けてほしいぐらいだ。


「悪いけど、どうにもできない。起きれば一緒に逃げることもできるけど。それよりオレたちも捕まりそうな状態で逃げているところなんだ。もし逃げ切れたらここにこの子がいたって伝える」


「フィオ」


 空に向かってわたしが話しかけたので、驚いたらしいポーラに引っ張られる。


「この子の護りなんじゃないかな。なんか聞こえたり光って見えたから」


 そう言いながら、自分で納得する。妖精の守護があるのはきっとこの子で、その妖精かなんだかがわたしに助けを求めたのかもと。だから聞こえたり見えたりしたのだ。


 なんとかしたいけれど、わたしたちもいつ捕まるかわからない身だ。

 とにかくわたしたちは捕まらないように逃げなくちゃ。この子のことを誰かに伝えるためにも。

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