第19話 イーストVSウエスト②お芝居
それぞれのリーダー、そしてウエストからはトタンと数人、イーストからはランド、イリヤ、カートン、ミケ、わたしで街道へと繰り出した。
トタンが複雑な表情だ。
「あのさー、トタン」
「ん?」
「オレを助けようとしてくれてありがとう」
トタンはわたしに視線を合わせて、急に顔を赤くする。
「いや、別に助けたわけじゃねーし。この通り、何もなくて何が何だか」
実際は何もなくとも、わたしが連れ去られたと思って行動してくれたことは嬉しい。
「ここだ。ここに馬車が止まってて、人がそこに転がされて」
指差されたところに立っていたミケが飛びのいた。
「あそこに馬車がもう一台いて、その中に入って行った」
ただ、今は見えるところにはわたしたち以外何もなく、昼下がりの長閑な光が差し込んでいるだけだ。
ザガンが地面をみつめて座り込んだ。
「トタンの言う通り、ここで何かあったと思う」
え?
「これ、人を引きずったあとじゃないかな」
ザガンが指をさしたところを見れば、土の道筋もなんだかそれらしく見える。そしてその方向の先となる街道脇の草むらにイリヤとランドが入っていく。
「うわっ」
ランドの驚いたような声が上がった。
「どうした?」
鋭く言ってカイが駆けつける。
「チビは来るな!」
イリヤの怒ったような声を初めて聞いて、体がびくりとする。ミケに手を取られて引き止められる。来るなと言われたものの、体は向かおうとしていたらしい。
リーダーたちが草むらに入っていく。
一緒に入っていったトタンが青い顔をして出てきた。
「どうしたの?」
なんだか不安になる。
「チビたちはギルドに帰れ。ザガンはトタンと一緒に行って大人を連れてきて欲しい。ミケ、絶対にフィオから目を離すな」
カイが草むらから指示を出す。ザガンもむすっとした顔で出てきた。
「わかった」
ミケに手を引っ張られて、街の方に歩き出す。
「どうしちゃったの? ねー、トタン」
「うーん、後でリーダから聞け」
門までみんなで一緒に戻り、ザガンとトタンだけ別れて、あとはギルドへと戻った。
とりあえず、夕飯をみんなで作った。
でも待っても待ってもカイたちは戻ってこなくて、わたしたちはいつの間にか眠ってしまったみたいだ。
朝起きると、カイが隣で寝ていてほっとした。
話を聞きたかったのに、仕事をしてからなと先回りをされて、食堂の準備をし、慌ただしく過ごした。片付けも終わった時に、ウエストのリーダーのニマやサウスのリーダーのザガンがやってきた。車座になり、詳しく話してくれるのを待った。
「死体があった」
え? すぐには言葉を理解できず、静けさが降りた。
「馭者と貴族のお嬢様の世話係だろうとのことだ。トタンが見たのは現実にあったことだった。どっかのお嬢様が拐われたみたいだ」
うわーーーー。
「子供を拐ったうえに人まで殺したのかよ」
ノッポがやり切れないように言う。
「物騒だな」
「うん、なんか本当にこのところ物騒だ」
ホトリスが噛み締めるように言った。
「拐う奴も、そのために邪魔な者を殺す奴もいる。保護者のいない子供はもっと簡単かもしれない。だから、落ち着くまで街から出るのはやめよう。街も絶対単独で動かないこと。絶対誰かと行動して、何か異変があったら大きい声を出して助けを求めること」
わたしたちはみんなで気をつけて守りあう約束をした。
最初はギルドから出るのが怖いと思ったものの、忙しく過ごすうちに気持ちも薄れてくる。街の外に行きたいとは思えなかったが、街の中はチョロチョロするようになった。もちろん連れ立ってだけど。カートンとミケとわたし。サウスの7歳のホロとモス。ウエストの8歳のネガと7歳のポーラと米と野菜を買いに行った時だ。カートンが小声で言った。
「囲まれた」
ノースだ。ノースの子供たちに囲まれた。みんなで目配せする。
わたしの隣にいたのはポーラだ。ポーラと手を繋ぐ。
「逃げろ!」
カートンの号令でわたしたちは手を繋いだ誰かとノースの子たちの間をかいくぐって逃げる。
ポーラを引っ張ったのはわたしだったのに、いつの間にか引っ張られ走っていた。足がもつれ転びそうになる。ポーラは脇道に入った。
「だ、大丈夫?」
声にはならなかったがわたしは頷いた。
息を整え
「ポーラ、どっち行ったらギルドかわかる?」
「わかるけど、まっすぐ行くとさっき囲まれたところに出ちゃうんだよな。あの辺にまだいるだろうし」
「どうする?」
ここにこうしていても、いつみつかるかわからない。
「あのさ、裏門から出て、ギルドに近い裏門から入るのはどう?」
ポーラの悪魔の囁きだ。確かに一番それが短距離だ。
「街から出ちゃダメだよ」
「そうだけどさ、街道になんか出ないよ。城壁に沿って歩けば大丈夫だよ」
わたしは首を横に振った。
「やっぱ、それはダメだよ。メインストリートまで歩こう。それで役所で誰か働いてるはずだから、一緒に帰らせてもらおうよ」
そういうとポーラはしぶしぶ頷く。
わたしたちは慎重にノースがいないかを確かめながら路地を小走りに急いでメインストリートまで出た。途中でカートンとネガのコンビにあったので一緒に役所まで向かった。みんな考えることは同じで役所で顔を合わせる。役所にいたのはカイとホトリスで、チビたちが集まってきたので驚いていた。
みんなで話し合って、ノースは焦っているんじゃないかという話になった。この冬のギルド暮らしで仲良くなったから。ノースは体の大きい子も多いし、年齢層も高めだ。ひとつのグループに対すれば強いけれど、流石に3つが合わさっていったらと思っているのかもしれない。今までも偶然会ったら仕掛けてくることはあったけれど、今回のように、しかもチビだけの時に接触しようとしてきたのは初めてのことで、それは危険な兆候なんじゃないかと思えたようだった。
ノースは悪い奴らと関わりがある。そこが踏み込めないポイントだ。本当はさ、どこのチルドレンじゃなくてみんな仲良くなっちゃえばいいと思うんだよね。みんなそう思っているみたいだけど、ノースがわたしたちと仲良くしたらその大人たちから何かしらの制裁を受けるんじゃないかとカイたちは思っているようだ。子供の世界のことなのに、なかなか複雑だ。
焦る必要はないと、わたしたちは冬の間だけ仲がよかったのだと、そうノースの子たちが思えばいいんじゃないかと誰かが言った。それはいい案だと言って、張り合うお芝居をすることになった。
ギルドから出たら、グループ以外の子と仲良くしない。話すときは張り合っているようにするのだ。
最初は気が重かった。だって仲良くなれたのに。けれど実際やってみると、それがお芝居だと思えば、なんとなく楽しかった。それはわたしだけでなく、みんなそう感じたみたいだ。
「なんだよ、お前ら、今日は銀貨5枚しか稼いでないのかよ?」
といわれれば、
「原価は銅貨10枚で抑えてる。そっちは?」
とそんな感じ。張り合ってどっちが負けたというのがあっても、次は負けないって言い合い、
「じゃあ、明日は八百屋でどっちが売り上げが多くなるか勝負だ!」
と勝負することが多くなった。張り合うのは嘘っこだけど、勝負は本気だ。
そんなわたしたちを面白がって、大人たちも水を向けたり、勝負が白熱するように口を出したりして、なんか活気があるっていうか、勝負のはずなんだけどギスギスしたものではなく、なんだか面白かった。
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