第3話 淫魔退散

 パンツに手をかけられて数秒しか経っていないのに、体感では1時間ぐらい死闘を繰り広げている気がする。


「「ぐぬぬ……!」」


 どちらも一歩も引かず。俺もサキュバスも腕がぷるぷるしている。どうやら互いに限界は近いらしい。


「そ、そろそろ諦めたらどうだ……!?」

「あ、諦めません……! こ、これは私に残された最後のチャンスなんですぅ!」


 どうしてそこまで、と思ったところでコンコンと扉がノックされた。


「拓巳さん? どうかしましたか?」


 おぉ……この窮地に追いやられた状況で救いの手が! この声は楓さんだ!


「は……! な、何やらすごい嫌な気配がします……!」


 パッと手を離し即座に窓へと向かうサキュバス。


「きょ、今日のところは見逃してあげます! 次はこうはいきませんからね!」

「に、2度と来るんじゃねぇエロ淫魔……!」

「え、エロ淫……!? リリアですからっ! 覚えててくださいよっ!」


 そう言い残して自分のことをリリアと呼んだ少女は夜に消えていった。


「な、何だったんだ一体……」


 まさか生涯童貞宣言をした直後に淫魔に襲われることになるとは。また来る、と言っていたのが非常に気がかりだが……。


「拓巳さん、開けますよ?」


 忘れていた。楓さんが部屋の前まで来ていたんだった。だが時すでに遅し。


「拓巳さん、大丈夫ですか? 一体何をして──」


「はぁ……はぁ……え?」


 部屋に入ってきた楓さんとばっちり目があった。はぁはぁ言いながらパンツに手をかけている俺。


「ご、ごめんなさいっ!」


「待っ──!」


 バタン! 扉は無慈悲にも閉められた。


「ぜ、絶対勘違いされた……」


 淫魔から童貞を守ることはできたが、何か大事なものを失った気がした。

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