見えない仲にも愛は有り

御厨カイト

見えない仲にも愛は有り



「ふわぁー、今日もまったく眠いな~」


朝のコーヒーをコップに注いでいる時、大きな欠伸をしている死神さんが姿を現す。

スラッとしたスタイルに綺麗なお顔だから、そんな姿でも絵になるから不思議だ。


「あ、おはようございます、死神さん。」


「おぉ、おはよう……って、人間!どうして!?」


「うん?どうかしましたか?」


「ど、どうして私が見えているんだ!?……まさか……、お前今死にそうだな……?昨日は何時間寝た?」


「え……、寝て無いですけど。」


僕があっけらかんとした様子でそう言うと、死神さんは「ハァー……」と深く溜息をつく。


「ふぅ……、まったくお前と言う奴は……。」


「……なんかすいません。」


「どうしてお前と言う奴は死にそうになるまで働いてしまうんだ……。」


そう落胆しながら、死神さんは僕の腕をぐいぐいと引っ張っていく。


「あ、あの、死神さん?」


「……今日はもう温かくして寝ろ。ゆっくり休め。」


「え、で、でも今日は仕事が……」


「何を言っているんだ?休め。」


「えっ?」


「だ・か・ら、体調が悪いだとか、風邪を引いたとかで会社を今日は休め。」


「……そ、そんな急な……」


「急だって?当たり前だろ。こんな死神見えるほど死にそうになっているお前を会社に行かせるわけにはいかないよ。」


そう言いながら死神さんは、僕を布団へ寝かしつける。

……えっ?いつの間に……?


「ほら、いいから寝た寝た。」


「あ、え、ちょ、ちょっと……」


「いいから……、私はお前の事を冥府へと連れていきたくは……無いんだ。」


「……死神さん……、アハッ、何だかおかしいですね。死神なのに死なせたく無いなんて。」


「それは確かにそうだな。でも私がそう思うぐらいお前の事を大切に想っているということは分かってくれたか?」


死神さんはその美しい顔で優しく微笑みながら、そう言う。

ポンポンと寝かしつけようと優しく叩いてくるのも、温かい。


「……分かりました。今日はもう寝ます。」


「うん、そうしてくれ。……お前が寝付くまではここにいてやるから。」


「はい、ありがとうございます。それじゃあ、おやすみなさい。」


「あぁ、おやすみ。」



そうして僕は、死神さんに見守れながら眠りにつくのだった。

どうも僕の体は休息を必要としていたようで、案外すぐに眠りの渦に飲み込まれて行ってしまった……










********









ハァ、やっと寝たか……

まったく……、どうして私が見えるまで働いてしまうのか……



私は君に会えるのは凄く嬉しい……けど、会える時はいつも君は死にそうな姿。

元気な姿の君とは会話することすらも出来ない。



凄く会いたい、もっとお話もしたい、手も……繋ぎたい。

でも……、やっぱり……君には死んでほしくない……



君のいない世の中なんて、「無」でしかないからな。




愛する君をずっと愛し続けるには、私は君の事をずっと見守ることしかできない……





これが「人間」に恋してしまった「死神」の運命さだめなのだから。








そんなことを想いながら、私は彼の頭をゆっくりと撫でていくのだった。


















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見えない仲にも愛は有り 御厨カイト @mikuriya777

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