第19話 極大攻撃

ダークオークが使おうとしている「デスアックス」とやらは、どうやら今までのような腕力だけに頼った攻撃とはわけが違うらしい。


その証拠に奴の持つ斧からは、なんとも気色の悪い色合いのオーラが立ち上っている。


「それがお前の切り札か?」


「そうだ! 我らが魔王様から魔力を分けて頂き、強力な波動を放つ恐るべき技よ!!!」


えっ? この世界って魔王とかいるんだ? ずっと引きこもってたから知らんかった。


ま、興味ないけどな。


俺はただただラナさんを抱き枕にダラダラしたいだけなのだ。


なので、


「ふーん」


と適当に流した。


が、モンスターは俺の態度を怯えているものと勘違いしたようで、


「はっはっは! どうやら魔王様と聞いて言葉も出ないようだな! だが、すぐ冥府に行くお前にはもはや関係ないこと! さらばだ、愚かな人間よ!! 俺を怒らせたことがお前の敗因だああああああ!!!!」


そう言ってモンスターはその場所で高く斧を掲げる。


やっぱり馬鹿にされたことメッチャ根に持ってんのな。


まぁ、それよりもだ・・・。ふむ、波動を放つと言っていただけあって、どうやら遠距離攻撃のようだ。


後々のことも考えて、今の内に間合いを詰めておこう。俺は敵に向かってダッシュする。


「はーはっはっは!! 自ら死ににくるとはな! 止めようとしてももう遅いわ!灰燼(かいじん)に帰(き)すが良い!!!」


モンスターは高笑いをしながら、デスアックスを振り下ろす。


俺はと言えば、ちょうど敵が斧を振り下ろす真下へと到達したところだ。


さあ、現在の怠惰ポイントの残りは・・・、


『怠惰ポイントの充電は残り405ポイントです。ご利用は計画的に』


超計画通りだから安心してくれ。よし、発動だ!


『承知致しました、マスター』


おう! ・・・って、え?


脳内に響くいつもの無機質な声が返事をしてきたので俺は驚く。


だが、それを確かめている時間はなかった。


ダークオークのデスアックスが暗黒の波動を放ちながら、俺の頭上へと振り下ろされたからだ!


「もってくれよ!!」


俺が発動させたスキルがモンスターの必殺技と交錯する。


その瞬間、周囲に凄まじい闇の奔流があたりへ迸った。


「ぐわあ! まったく前が見えんぞ!!」


「ご主人様!!!」


ボーリンさんの声・・・はどうでも良いが、ラナさんの俺を心配する声が不思議と耳に届いた。


「そう心配するな。充電は完了している」


さすがに無傷とはいかなかったようだけどな。


なんか頬が痛いのは切り傷でも負ったからだろう。


仕方ないのだ。何せあのスキルを使うには、今回極小防御しか使えなかったんだから。


さあ、モンスターは・・・大丈夫だ。最後の攻撃を放ってから一歩も動いていない。


当たり前だ、これだけの大技を放てば嫌でも隙が生まれる。


そして、俺が生きていることにも気づいているだろう。


これまでの戦いでの疲弊。


大技を使ったことによる硬直時間。


そしてその切り札が不発に終わった驚き。


全ての状況が俺に怠惰ポイントをつぎ込んで、あのスキルを使えと囁いている。


いや、大丈夫。


既にアナウンス音が脳内に鳴り響いている。


ほんっとーにカツカツだったが、スキル発動は成功だ!


『極大攻撃を発動します。怠惰ポイントから400ポイントが差し引かれます。怠惰ポイントの充電は残り0ポイントです。至急、怠惰ポイントの充電をしてください』


その声が聞こえた瞬間、目の前に光の柱が立ち上がる。


光は真っ白に周囲を照らし出し、先ほど辺りに広がった闇のオーラを払拭して行く。


そして、一瞬にして上空の雲を突き破ると、次の瞬間にはパタリと消えてしまった。


光が消え去った後に残されたのは、立ち上がったまま動かないダークオークの姿だ。


・・・いや、これはもう死んでるな。


そう、極大攻撃はモンスターの断末魔すら許さず、その命を内側から焼き切ってしまったのである。


これこそが俺の切り札・・・怠惰レベル1の俺が使える最高の攻撃『極大攻撃』である。必要経費は400ポイントとかなり高いが、極小攻撃の80倍なのだから威力も推して知るべし、だ。


・・・ただ、この技を最初からぶっぱなすわけにはいかなかった。


なにせスキル一覧の解説によれば射程が「極小」らしかったからな。


おかげで、怠惰を極めんとする俺をして、非常に面倒ながらも、ああして相手が動けなくなる瞬間まで粘りに粘らなければならなかったというわけだ。


ちなみに、万が一その瞬間が来なければ、ラナさんだけ連れて撤退するつもりであった。


ま、今回は計算通りにいって良かった。


さて、と。


俺は目の前のデカ物を見上げる。


しかしまあ、モンスターを倒したは良いが、この亡骸をどうしようか。


役立たずの騎士団たちが掃除してくれるかな?


そんなことを考えていた時であった。


「ミキヒコ殿が奮闘したぞ! 今だ、モンスターが気絶してる内にかかれぇええええええええ!!」


・・・・・・・・・はい?

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