第18話 攻防の行方

「ご主人様スゴイ・・・」


「う、うむ・・・。ミキヒコ殿の実力、まさかアレほどとは・・・」


ラナは破壊された宿の2階から道路へと下りてきていた。


彼女の隣には頭を負傷している騎士ボーリンがいる。


今、彼らは目の前で繰り広げられる激しい攻防を遠巻きに見守っていた。


もちろん、騎士ボーリンとしては直ぐにでも加勢したいところなのだが、実力が違いすぎて混じることができないのだ。


他の騎士たちも同様である。


「ご主人様でしたら、すぐにあのモンスターも倒してしまいそうですね!」


ラナが嬉々として言う。


だが、ボーリンはゆっくりと首を横に振った。


「・・・いや、それほど楽観することはできん。見よ、お互い一進一退の攻防が続いていて、どちらも決定打にかけておる」


「はあ、そうなのですか?」


ラナは首を傾げる。


「うむ。だから、このままでは体格と体力に劣るミキヒコ殿がじきに不利になる」


重々しく言うボーリンの言葉にラナは、


「はぁ」


と曖昧にうなずいた。


「うむ。じゃが安心するが良い。わしらとて伊達に騎士を名乗っている訳ではない。この激しい攻防の緊張が途切れる一瞬の隙を突いて、もう一度突貫を繰り出し、なんとか奴を仕留めて見せる!!」


「そうですか。頑張って下さい」


ラナは微笑みながら、熱く語るボーリンに励ましの言葉を与える。


ラナのような美しい娘の言葉に鼓舞され、ボーリンはおろか騎士たち全員の士気がたちまち上がった。


だが、それは聞くものが聞けば、突き放した言葉にも聞こえただろう。


それもそのはず。


ラナはボーリンの言葉に全く共感していなかったのだから。


確かにボーリンの言うことは全体的にもっともの様に聞こえたが、ラナとしては自分の主人がそこまで苦戦しているようには見えなかったのである。


どちらかと言えばアレは・・・。


「むしろ相手の動きが止まるのを待っていらっしゃるような・・・」



◆◇◇◆



俺はスキル「極小防御」を意識しながら、カウンターを狙うために「極小攻撃」を予約発動する。


突っ込んできたダークオークの巨体は、俺の「極小防御」に弾かれて簡単に止まってしまう。


「なに!?」


体重と脚力をいかした凶悪な体当たりを、いとも簡単に防がれて敵が驚いた表情をみせる。


「なんだ、俺にさっき横ヅラを張り倒されて、無様にも吹っ飛ばされたことをもう忘れたのか。やはり学ばないな、雑魚モンスター」


俺は奴が一瞬見せた隙を逃さず手刀を振り下ろす。


グチャッ!


という生々しい音が響き、辺りに青黒い血しぶきが飛び散った。


モンスターの右太ももを狙った攻撃は見事に奴の肉をえぐりとったようだ。


「ぐっ、くそぅっ!」


ダークオークは苦悶の表情を浮かべながら大きく後退する。


だが、どうやら浅かったようだ。その証拠に攻撃を当てた右足で普通に動いている。


「おい、雑魚モンスター。いいから全力で来い。それとも今のがお前の全力か?」


「舐めるな!!」


敵はオレに向かって跳躍すると両手で強大な斧を高く振り上げる。そして、着地するタイミングでその凶悪な得物を振り下ろした!


「はぁ!」


だが、俺は斧に向かって拳(けん)を突き出す。


ガギンっ!!


「な、なんだと・・・!?」


恐らく敵自慢の一撃だったのだろう。


確かに、怪力から繰り出されるあの一撃を受け止められる人間がいるとは思えない。


「こ、こんなことがあるはずがない!!!」


そう、俺を除いてはな。


モンスターその一撃は俺の拳と相殺される形で受け止められていたのである。


「雑魚らしい軽い一撃だな?」


「くっ!?」


「逃がすか!」


もう一度斧を振りかぶろうとする相手の懐(ふところ)に入る形で、俺は極小攻撃を繰り返し発動する。


極小攻撃の連撃だ!!


「ぐえええぇぇぇぇえぇええええええええ!!!」


うわ、きたねぇ!!! モンスターの吐瀉物が頭上から降ってきたのだ。


くそ、もう何発か食らわせるつもりだったんだが。


俺は咄嗟にそれを横転で回避する。


「ぐ、ぐらえ!!」


「くそ、卑怯なやつめ!」


俺の回避した瞬間を見逃さず、モンスターが斧を横薙ぎに振ってきた。


俺はその攻撃を手のひらで受け止めながらも、衝撃を逃すように後方へ大きく跳躍する。


ふむ、だが相手も少しづつ消耗してきてはいるようだ。


動きが最初に比べて鈍い。計算通りだな。


「お前なあ、俺に勝てないからって、ゲロを吐いてくるなんて卑怯すぎるぞ? まあ、お前のような雑魚モンスターにはお似合いの戦法だとは思うがなぁ」


俺がせせら笑うと、敵は怒り狂い始めた。


多分、奴がこれまで生きてきた中で、ここまでコケにされたことはなかったのだろう。


「許さん! 許さんぞ!! お前ごとき人間にいいぃいぃいい!!」


「何回それ言うんだよ。語彙(ごい)が少なすぎるぞ? お前らモンスターってのは本当に馬鹿ばかりだな」


「ほざけ!! この俺の必殺の一撃を受けてみるが良い!!!」


モンスターはそう言うと、両手で斧を天高く抱え上げた。


それは先ほどのように振り下ろすためではなく、何か天に祈りを捧げているようにも見える。


「あるなら最初からやれよ。雑魚のくせにもったいぶるな」


「馬鹿めが。吠え面をかくことになるぞ! 俺の全力をかけた、この切り札でな!!!!」


ふむ、どうやら本当に全身全霊をかけた一撃らしい。


・・・とすると、この切り札を打ち砕いた時、相手には今日の戦い一番の驚きを与えることが出来る。


つまり、今日一番の隙が生まれるとうことだ。そこがチャンスだな。


「何をするか知らんがやってみろ。俺はさっさと怠惰道の修行に戻りたいんでな」


なんとしても、ラナさんのおっぱいに顔をうずめて午睡(シエスタ)を決め込まねばならんのだ!


「タイダドー? ふ、何か知らんが、このデスアックスの前にはひき肉になるだけだ!!!!」


そうモンスターが叫んだ瞬間、掲げた斧から薄暗い色のオーラが立ち上り始めたのである。

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