ベランダで横一列になって、缶ビールをあけた。

「なんかのドラマみたいだね」

「言うな。こっぱずかしい」

「星がねーなあ?」

「東京だからなー」

「マスクなしで、生きられる世界が、本当にくるのかな……」

「こないと、困るだろー。びっくりだよな。去年の春頃から、一年以上経って、これだからなー」

「しかも、震災って。どんだけだよ」

「だよなー。帰るのがこわいわー……」

「日本が滅びませんように」

「そだなー」

「縁起でもないこと、言うな。どうにかなるって。

 東京なんてな、戦後すぐは、なーんにもなかったって。ばあちゃんが言ってたぞ。それが今は、これだけ発展したんだからな」

「歴史だね」

「俺たちの世代が、どうにかしないといけないんだろーなー」

「そうかもね……。とんでもない時代になっちゃったね」

「戦時中なんだなーと思って生ぎてれば、いーんだっぺ」

「それってさー、極論じゃねー?」

「あんがい、そうかもね。もう、生きるか死ぬかのサバイバルモードに突入してるのは、ひしひしと感じてるよ。ワクチンで亡くなるって。ある? そんなの」

「なかったよな。今までは……。あったとしても、ニュースで見たことなかった」

 栄ちゃんが、横から俺の顔を覗きこんでくる。目が合うと、にこっとした。

「僕、実家から一時間くらいの街で、ひとり暮らししてるからさ。コロナのこととか、自分の就職のこととか、不安ばっかりだったけど……。

 この部屋で、みんなと過ごして、めっちゃ安心したし、頑張らなきゃなって、あらためて思った。人と人のつながりって、目には見えないけど、一番大事なものなんだなって」

「おー。栄ちゃん、語るなあー」

「茶化さないでよね」

「マスクとアルコール除菌スプレーで武装する時代がくるなんて、誰も予想してなかったもんなー」

「僕の好きな芸能人が、自粛破りしたって、くそほど叩かれててさ。『そんなに言わなくても』と思う自分と、『今だけは、そんな、ばかなことしてほしくなかったな』と思う自分と、両方いてさ……。すっごい複雑だよ」

「栄ちゃんのお姉さん、看護師だったよな」

「うん。母さんもだよ」

「それじゃあ、許せない気持ちにもなるよなー」

「俺の会社にも、いたよ。飲み会やめようとしない奴が……。でも、飲み屋で働いてる人は、じゃあ、どうしろっていうんだよな。働かなきゃ、死んじまうんだから」

「もう、それぞれの国で、鎖国するしかねっぺ」

「そうかなー。そうかもなあー」

「寒くなってきた。中、入ろうよ」


 *    *    *


 翌朝。ヒサが荷物をまとめていた。

「ヒサ。帰るのか」

「さっき、電話かかってきてさー。帰っておいでって、有紗に言われたから」

「よかったな。もう、ケンカするなよ」

「わかってるよ。どこにも行かないで、二人だけでいると、つい……。お前らと話して、気持ちがずいぶん変わったわ。

 俺は仕事もあるし、彼女もいるし。何が不満なんだよって言われても、しょうがないよなー」

「気づけて、よかったな。気をつけろよ。どこで感染するか、わからないから」

「うん。ありがとうなー。オカモン、栄ちゃん。またなー」

「まだなー」

「バイバイ。気をつけてね」

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