第19話 イケてる私
「けんかは止めて!」だが内心では優越感に浸っていた。目の前で2人のいい男が私を巡って争っていたからだ。さあ、どっちにしようかな・・・ググトが紛れた現実世界のイケてる「私(玲実)」の話
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都心の夜の街で2人のイケてる男がいい争いをしていた。
「玲実は俺のものだ。」
「いや、俺のものだ。」
私は2人を前にして困っている顔をした。2人今にもは取っ組み合いの喧嘩を始めそうだった。
「けんかは止めて!」
私は大きな声で叫んだ。しかし心の中では2人を煽っていた。2人が争えば争うほど言い知れぬ優越感に浸れるのだ。
私の前には2人の男がいた。右にいるのは拓也。スポーツマンで背が高くさわやかなイケメンだった。対して左にいるのは蓮。二枚目で流行のファッションに身を包み、お金持ちの御曹司だった。2人が私を巡って争っていた。
その騒ぎに多くの人が集まってきた。そしてその人たちは2人の争いの原因が私であることが少しずつわかってきていた。それで私の方にも視線を注いでいた。
(そう、私なのよ。私を巡って争っているのよ!)
私は多くの人の注目を浴びてさらにテンションが上がってきた。
「やめてよ!私のためにこんなこと!」
私はそう言いながらも2人の男の争いを楽しんでいた。
(私のようないい女を取り合うのは当然よ!)
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私は地方出身だ。パパは小さいながらも会社の社長だったから、家は裕福だった。幼い頃は甘やかされて育ったから、わがままで自分勝手だった。しかも自己主張が強かったから、幼稚園でも小学校でも大きな顔をしていた。いわばクラスの女王様として君臨していた。自分の取り巻きは大勢いて、いつもちやほやされていた。先生だって私には一目置いていた。
だがママはそんな私をみて厳しくしようと思ったようだ。中学校に上がるとき、私は中高大学一貫教育の女子中学に入れられた。それも校則の厳しいミッション系だ。怖い顔をしたシスターが厳しく躾けるところだ。おしゃれなど許されない、決まった髪型に定められた制服、私用で外出するときもそれで出かけねばならなかった。しかも親、兄弟以外の異性と話してはいけない・・・
(一体、これは何なんだ!思春期の乙女の自由を束縛してどうする!恋愛もできない!)
私はそう思って、少し反抗しておしゃれな服で出かけることがあった。だがどういうわけか、それはシスターにすべてばれていた。告げ口する者がいたのかもしれない。「モラルさん」という規則を妄信する優等生が。
私はその度にシスターにこっぴどく叱られた。そしてママにもひどく怒られた。パパは慰めてくれたけど・・・。そんな時、
「ごめんなさい。もうこんなことはしません。許してください。」
私は深く反省したふりをしてシスターに何度も謝った。そしてしおらしい反省文を提出した。でも心の中では、
(何とかばれないようにしてやるわ。今度は!)
と舌を出していた。
しかしシスターやママはそんなことはお見通しだった。高校に上がるとき、私は寄宿舎という名の修道院に入れられた。そこでは24時間、シスターに行動を監視されていた。
朝早く起きてお祈りをし、質素な味気ない食事を黙って食べて、学校へ行ってつまらない授業を聞き、そして寄宿舎で掃除やら雑用をやらされ、そしてお祈りをして床につくという毎日だった。テレビや娯楽など何もなし。本を読むことは許されたがそれも堅い内容のつまらないものばかり・・・俗世間から完全に切り離された生活をしていた。
唯一の社会との窓口は高校のクラスメイトの話だけ・・・ファッションがどうのアイドルがどうの今、流行しているものがどうのといろんな話を聞かされた。雑誌など学校に持ち込めるはずがなかったから、話だけを聞いて頭の中で想像した。
(今の社会にはいろんなものがあるんだ・・・見てみたいな!)
と思う反面、
(どうして私はこんな生活を送っているの?みんなは楽しそうに学生生活を楽しんでいるのに・・・この厳しい学校でも。)
と悲しくなった。
そこで私は毎日神様に祈った。
(私をここから出して、自由で楽しい生活を送らせてください。)
だが高校の3年間、私の生活は変わることはなかった。
(これ以上、耐えられない。こうなったら自分の手で!天は自ら助くる者を助くって。)
私は大学進学を機にここから脱出しようと考えた。このままでは本当に修道女にされてしまうようなので・・・
(どうせならもっとキラキラした明るくて楽しそうなところ・・・そうだ!上京しよう!都会ではじけるんだ!今まで我慢してきた分を!)
私は決心した。だがそれには障害が多かった。まず味方をと思うと・・・それはパパだった。
はっきり言ってパパは私に甘い。今はママに押されて私に手を差し伸べられないようだが、
(私が腕によりをかけて頼み込めば強力な味方になる・・・)
まずはパパに手紙を書いた。これぐらいはさすがに修道院、いや寄宿舎でも許されていた。そこに
(私は将来、人の役に立つ仕事がしたい。それにはここの大学では自分の勉強したい学部がない。でも東京の大学にはそれがある・・・独り立ちして立派な大人になる・・・人間的に大きくなってパパやママが誇れる娘になりたい・・・)
などと殊勝なことをたくさん書いた。それは嘘っぱちだが、パパなら騙せると思った。
そうしたら案の定、パパから返事が来た。
「玲美、パパは君の手紙に感動した。玲実がそんなに考えているなんて・・・」
と。後は簡単だった。パパは私のために動いてくれた。私が行きたかったブランド大学に推薦入学できた。そうなればもうこっちのものよ。この世はコネとお金さえあれば何でもできるんだわ。
シスターたちも実の親の強い希望には勝てず、私が他の大学に行くのをしぶしぶ了承した。そして最後まで反対していたママはパパにこう説得された。
「もう玲実も大人だ。彼女の望む人生を選ばせた方がいい・・・」
と言ってくれた。だが私はそんな将来の人生など考えていないし、考えたくもない。今が楽しければいいのだ。それを得るため、ここから逃れて上京して大学に行く。私はただ自由で楽しい毎日を送りたいと思っているだけだった。
パパに熱心に説得されてママも最後に折れた。そして晴れて私はこの寄宿舎から逃げ出すことに成功した。
私は両親と上京した。そして念入りに下調べをしたとおりに、都心のマンションの一室を手に入れた。それもパパに、
「このマンション買っておくと値上がりするよ。私が卒業していらなくなっても売れば何倍にもなっているよ。」
と言って買わせたものだった。そこは大学から近いのもあるが、それより都会の真ん中というのが気に入った。パパやママは心配しながらも地元に帰っていった。これで一人だ。自由に気ままにやれる・・・
都会の生活は何もかも新鮮で刺激的だった。街にはきらびやかな世界が広がっていた。一晩中、多くの人たちであふれ、生き生きとしていた。そしてそこには何でもあった。最新のファッションや最高級のブランド・・・私はこの街に魅せられてしまった。
私が通うのは「教蘭大学」というお嬢様が多いブランド大学だった。最初のうちは物珍しさに授業に出ていたが、そのうちに飽きてしまった。実際、勉強がしたくてこの大学に来たわけでもない。ただ上京するためだったからこうなるのは必然だった。まあ、友達にノートを借りればいいか・・・試験さえクリアしたらいいのだから・・・
毎日のスケジュールと言えば、私は昼前に起きて大学に行き、友人と楽しくランチをした後は、サークルに顔を出した。今日はテニスだ。でも運動は好きじゃない。少し体を動かした後は合コンの誘いを待った。大抵すぐには声をかけられ、その夜の予定が決まった。
大学の前には高級車やスポーツカーが並び、私はあまたの誘いを受けつつもその中の一台を選んで乗った。
そして合コンでは持ち前の愛想を振りまきながら男を選んでいく。まあ、大体はちゃらちゃらした薄っぺらい男が多かった。気にいる男などめったにいない。まあ、楽しませてくれてちやほやしてくれればいい・・・
大抵は嫌になって途中で抜け出し、女友達とカラオケに行ったり、飲み直して男たちの愚痴を言って、それで夜中にマンションに戻った。それで一日が終わった。
そのうちその生活にも飽きてきた。毎日がマンネリで新鮮味が薄れて、充実感がなくなった。だがこの都会にはもっと素晴らしいことがあるに違いない・・・私はそう信じていた。
(そうだ!大学の周辺のことしか知らないからだ。もっと世界を広げたらいい。それには・・・)
私は街でたまにハイソの人を見かけることがあった。運転手付きの大きな高級車に乗り、高級ブティックで買い物をして使用人に山ほどの紙袋や荷物を持たせ、一流店で優雅に食事をしていた。何も怖いものがないように街を闊歩する姿は、都会でもさらに輝いていて見えた。まるで選ばれた人間のようだった。そういう人は上流社会に生きていて毎日が優雅で充実しているに違いない・・・と思った。
「私もハイソになる!」
パパに何かと理由をつけて仕送りをかなり増やしてもらっていた。それで高級ブランド品を身に着け、有名な美容室やエステサロンに通った。そして何とかハイソの人たちのパーティーに潜り込むことができた。
そこは別世界だった。有名人やお金持ちがひしめき合い、なにやら楽しく会話をしていた。芸術がどうだの作品がどうだの・・・私にはまったくわからなかった。でも私は適当に相槌を打って知っているふりをしていた。
ここにいると自分が高級な人間になった気がした。ただパパのお金で着飾っているだけなのに・・・。だが私に声をかけてくる男は合コンの時とは段違いだった。モデルの様なイケメンが代わる代わる私に寄ってきた。
(これぐらいじゃないと私と釣り合わないわ!)
私は男たちの品定めをした。こんなにモテたことは今までなかった。私は気分がよかった。
その男たちの中でも拓也と蓮の2人が熱心に私に話しかけてきた。拓也は背が高くてすらっとしていて、テニスの話をしながらスポーツマンらしいさわやかな笑顔を私に向けてきた。蓮はきざな二枚目で、お金持ちであちこちに別荘があり、一緒に旅行に行こうと誘っていた。
(選べない・・・どっちにしようかな?まあ、どっちに決めなくても両方と付き合えばいいか・・・)
と思いつつ、それぞれに気があるように愛想を振った。するとさらに2人は食いついてきた。
(もうこっちのものよ。私の魅力に勝てるはずはないわ!)
私は内心そう思いながら、
「もう帰らないと。家がうるさいから。」
と2人に告げた。「お預け」をしないと男は自分に気があると思っていい気になるから・・・。連絡先はわかったし、後日にゆっくり一人ずつ呼び出して・・・と思ってパーティー会場を後にした。
すると拓也も蓮も追いかけてきた。
「送ります。家まで!」
「いえ、俺が送りますよ!」
2人が私に言った。まさか家まで送ると言い出すと思っていなかった。住んでいるところが豪邸じゃなく、ただのマンションだったら男たちが冷めてしまうかも・・・
「ありがとう。でも結構よ。迎えの車が来ていると思うから。」
私は嘘をついた。それでも2人は言い争いながらついてきた。そして道でとうとう言い争いになった。
「玲実は俺のものだ。」
「いや、俺のものだ。」
ハイソな2人の男が賑やかな街中で私を巡って争っている。それも多くの群衆の前でだ。私は
「けんかは止めて!」
と言いながらも、私を取り合う男たちを見て気分がよかった。
拓也と蓮はそのうちつかみ合いになったが、体力の差だろうか、拓也が蓮を投げ飛ばした。蓮は悔しそうに立ち去っていった。拓也は私のそばに来て、息を切らせながら言った。
「これで玲実が俺のものだ!」
(勝負はついた。今日は拓也にお持ち帰りされるか・・・・。まあ、まずは勝者をたたえるのは女神の仕事ね。)
と私は思って拓也に声をかけた。
「拓也! かっこよかったわ!」
すると拓也は嬉しそうに私に言った。
「いただきます!」
私はその言葉に面食らった。だが・・・
(いただきますって・・・まあ、下品ね。でも積極的なところは好きかも・・・)
私はわざと恥ずかしそうにした。すると思いがけないことが起こった。いきなり拓也から触手が伸びてきた。それは私をがっちりとつかんだ。
「えっ!」
私は驚きのあまりそれしか声が出なかった。拓也はみるみる化け物に変わり、その鋭い口が私に迫ってきた。
「た、助けて!」
だが周りの人は私を置いて逃げて行った。こんないい女なのに・・・
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