至高のサディスト

#365日ショートショート 024

　男は、マゾヒストであった。

　だからこそ、噂に聞く『至高のサディスト』を探し求めた。その異名を持つ女は、あらゆるマゾヒズムを満足させる極上のテクニックを持っているらしい。5年、10年、15年。長い年月をかけ、ついに男は『至高のサディスト』と電話をすることに成功した。

「あなたが、『至高のサディスト』と呼ばれる女性ですか？」

　電話の向こうから、艶やかな声が届く。

「だったら、どうなの」

「お願いです。俺のマゾヒズムを満足させてください。どんなお礼もします。どうかお願いします」

「わかった。また必ず連絡する」

　そう告げられ、電話は途切れた。

　そこから60年余り、男が息絶えるその日まで、女からの連絡はなかった。