第31話:だから、ごめん
「夜宮から呼び出しがあったということは心が決まったってことよね」
「ああ、時間がかかって悪いと思ってる」
俺は人生で初めての女の子からの告白への返事にとても緊張していた。
こんな気持ちになったのは初めてでよく分からない。
「時間がかかった時点で、大体は予想できているんだけどね……。それでも私は夜宮の口から聞きたいの」
一片の濁りもない澄んだ瞳で俺を見る。
動揺なんてしていない、とでも言うように表情はわずかに柔らかい状態で硬直していた。
だが、そっと背後に隠すように動いた時雨の手は震えていた。
「告白は正直言ってすごく嬉しかったんだ。時雨が俺のことを想ってくれていたことも知っている。そうでなきゃ、あんな俺をいつも助けてくれるはずがない。俺はそんな時雨のことが好きだ」
その言葉を聞いた途端、時雨の方が弾かれたように動いた。
「でも、俺にはそれ以上に好きな幼馴染がいるんだ。――だから、ごめん」
包み隠さずに、本当のことを言う。
それが時雨を傷つけてしまうことになるのはよく理解できる。
自分のことを好きでいてくれる時雨の前で別の女の子がそれ以上に好きだなんて言うことが最低であることも分かっている。
でも、俺のことを想ってくれているからこそ、真正面から答えなければならないと思ったのだ。
「その幼馴染の子が好きなの?」
時雨は淡々とした口調で問うてくる。
「ああ、好きだ」
「どうしても、その子のことを諦められない?」
「ああ、絶対に諦められない」
しばらくの間、沈黙が続いた。
それは告白を受けたものとしての最低限の責任の時間だった。
「……そう。振られたのはすごく、悲しい。でも、夜宮が夜宮でよかった……!」
頬に涙を伝わせながらも、気丈に笑う。
小さい時に見た、屈託のない心からの笑顔だ。
「ごめんなさい……。少しだけ……一人にしてくれないかしら。冬休み明けからは元通りになるから、ね」
俺は何も言わずに時雨のもとを去った。
言葉は時として、心を束縛する茨になる。
それは、二宮愛理との一件から明らかだ。
その後、時雨が何をしたのか、それは鈍感な俺でも否応なく分かってしまった。
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