第11話 16年前の惨劇 ―――上野くるみ

宏美の体に降霊された『上野くるみ』の深層心理に問い掛ける。


「あなたのお名前は?」

『アタシハ上野くるみ』

「母親の名前は?」

『上野桐恵』

「母親は、今ここにいますか?」

『ウン、多分。デモ、何ダカ少シアタシノ知ッテルママト違ウノ』

「それでは、あなたは、今どこにいますか?」

『暗クテ冷タイ水ノ中』

「そこで、何をしていますか?」

『オ友達ヲ待ッテイルノ』

「それは、誰ですか?」

『風香チャント祥子チャント…知ラナイ男ノ子』

「みんなとは、何をして遊んでいたの?」

『カクレンボ』

「くるみちゃんは、どこに隠れたの?」

『オ空ニ向カッテ出テイルトンネルノ中ニダヨ』

「その中に入って、どうしたの?」

『…………………』


部屋中の至る所からラップ音が不気味に響き始めた。


ガタガタ…ミシミシ…ドンドンッ…ザクザク…ミシミシ…ガタガタ…ドンッ!


倒れていた『上野くるみ』の霊魂を宿した宏美が急に立ち上がった。

そして、振り返り上野くるみ自身の母親を見つめる。


『ママ、アタシハズットココニイルヨ…早ク助ケテ欲シカッタ…』


宏美の頬を伝って涙が流れた。


その瞬間、再び宏美はその場に倒れ込んだと同時に、ラップ音が止んだ。


確かな肉体があるならば、すぐにでも母親に抱き着きたかっただろう。

でも、それは出来なかった。

何故なら、宏美の体は仮の体であり、自分自身の肉体ではないのだから…


上野くるみはあの場所にいる。

今もまだ、あの井戸の中で待っている。

風香も祥子もいなくなった今の世界で、ずっと二人を待っている。

名前も知らない男の子もだ。


そもそも、その男の子は誰なんだろうか?



倒れた宏美の意識が回復した。

そして、上野くるみの霊魂を体内に宿したからか、今まで知らなかった情報を語り始めた。

これは、上野くるみの代弁であると、お祖母さんは言っていた。

降霊術は、体に負担が掛かる為、長時間は不可能らしい。ただ、その代わりに、その相手の記憶や感情が数分間だけ脳内に残り、代弁すると言うのだ。

こちらからは一切質問は出来ない。ただ、一方的に語るだけと言う。


左額を抑えながら宏美が語る。


『あの日はね、学校から帰ってすぐに風香ちゃんと祥子ちゃんと待ち合わせしたの。いつも遊んでいる丘の上にある神社で、あたし達は遊んだの。

少ししたら、知らない男の子があたし達の所に来て「一緒に遊んで」って言うから、だるまさんが転んだをして遊んだの。

その後、かくれんぼをしたんだけど、男の子のお母さんが探しに来て、三人で遊んだんだけど、男の子が帰ってすぐに、神社の裏にあったお空に向かって出ているトンネルの中に隠れ様として入ったら、暗くて冷たい水の中に入っちゃって…

「もういいよ」って、言った後に。

一人じゃ出れなくて。

だから、風香ちゃんと祥子ちゃんに「助けて」って呼んだけど、二人はあたしを見るとすぐに逃げちゃったんだよね。だから、二人の事は許せないよ…

だって、友達だと思ってたのに、逃げちゃうんだもん。

この後は、暗くて冷たい水の中に沈んじゃって。真っ暗だし冷たいし怖かったよ。

ママに会いたかった。パパにも会いたいよ。ママに抱っこして欲しいよ…』


ここまで告げると、宏美は再びその場に倒れた。

おばさんが宏美を抱えて、別室へ行くと、上野くるみの母親は泣き叫ぶかの様に号泣している。

それもその筈、実の娘が行方不明になって16年が経った今、やっと真相を知る事が出来たのだから。


上野くるみの母親の訴えを聞き、あの人工の池から井戸だけを解体し、その中から上野くるみ本人を救い出せないかを考えた。

勝手にやる事も可能だが、そうなると常識的処罰を受ける事にもなる可能性が生じてしまう。

許可がなく解体など、誰がどう考えても犯罪だ。

それなら、あの神社の神主や地主に許可が得れれば?と、結論が出た。

まずは、近隣に神主の所在を知る者がいるかも知れない、聞き込みをする事にした。そして、あの土地にまつわる歴史を知るのも必要だと。

それぞれに役割が振られる。


近隣の聞き込み係…涼太・宏美・正美・桐恵

歴史を調べる係…中野・敦司

神主の行方を探る係…高部・お祖母さん


みんな、仕事や家事があるから、その合間にやらざるを得ない状況。

定期的に連絡を取りながら、それぞれが与えられた役割を果たす。



2022年 4月17日


高部からメールが届いた。それは、聞き込みなどの情報を簡潔にまとめたメール。


近隣より…あの場所は曰くつきの為、近所の人や、昔からそこの土地を知る人は近寄らない、不気味な噂が絶えないと言う。

神社の裏の方から、女の子の泣く声や、断末魔の叫びが聞こえる。

白い影や、黒い影など、誰もいない筈なのに誰かがいる様な気配すらある。


歴史…6世紀に造られた古墳の上に、いつ、誰が、何の目的でここに建設したのか不明な神社で、詳しい資料は、昭和初期に、何者かによって盗まれてしまったらしい。


神主の行方…10年前に病気によって死亡。それ以来、神主不在のままになっていると言う。その神主の長男夫婦は、現在八幡原町に住んでいるらしい。ただ、あくまでも噂だけど、その神主とは縁を切っているとか、いたとの話。後日、長男夫婦には、聞き込みに行く予定。


報告は以上。


4/20 18時、お祖母さんの家に集合



2022年 4月20日


久し振りに全員で集まる日。それまでの間、誰一人として何事もなく過ごせていた。

そう、その約束の時間の数分前までは…

まさか、あんな事が起きるなんて、誰一人として知る由もなかった。


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