第8話 共通点 ――― 中野 明希人

2022年 4月8日


それを知ったのは、閉店作業をしている時だった。余りにも突然で、その事実を受け入れる事は、すぐには出来なかった。

―――大塚ほたるが死んだ…

もしかして、あの動画を見てしまったからなのか?

それとも、他に何か理由でもあるのか?

いくら考えても解らない。俺が知っている彼女は、ほんの一部分に過ぎない。むしろ、彼女の事を殆ど知らないのだから仕方がない。

この知らせを教えてくれたのは店長だった。同じショッピングモールで働いていたので、全店に通達が来たと言うのだ。

詳しい動機や原因、詳細は知らない。ただ、今朝、亡くなったと聞いただけ。


彼女が働いていたL&Kへ足を運ぶと、数人の店員がいて、大塚さんを弔う様に泣いている。

こんな状況では、話を聞く事なんて出来ないし、悪いなと思いその場を離れた。

もしかしたら、この前会った高部と言う警官なら解るかも知れない。車に駆け込むなり貰った名刺に書かれている携帯に電話をしてみた。

呼び出し音が鳴る。

しかし、高部は電話に出る事はなかった。きっと、忙しいのだろうと思い、車を走らせた。17号を通り、もう少しで家と言う場所でサイレンの鳴り響く音に気付いた。車を端に寄せて、救急車が通り過ぎるのを待つ。

どうやら行く先は近所らしい。

何か、嫌な予感はしたけど、気にすることなく車を走らせ、自宅へと到着する。

車から降りると、更にサイレンの音は増し、何か事件でもあったのかなと、考えながら玄関のドアを開けて家に入った。


その夜遅くに、高部から電話が掛かって来た。大塚ほたるの件を聞いてみると、調べたらすぐに折り返すと言われ、電話を切った。

数分後、高部からの電話で詳細を聞かされることになった。

高部から聞いた話をまとめると、

朝、大塚さんより先に母親が職場へと出掛けた。その時は、普段と何一つとして変わった様子はなかったとの事。本人も、仕事へ行く準備をしていたと言う。

その後、彼女はマンションの10階にある自宅のベランダから落ちたと言うのだけど、誰かが侵入した形跡や、トラブルに巻き込まれた可能性もないとして、警察としては事件性もない為か、自殺と判断を下したらしい…

自殺?

その判断に対して、俺は疑問しかなかった。

「それより…」高部が話を振って来た。俺は、一度考えるのを止めて、高部の声に耳を傾けた。

「先程、中野さんの自宅付近にある高架下のところに団地ありますよね?そこで、不可解な飛び降りがあったのですが…」

さっき、サイレンが鳴っていたのは、そこで事件があったからなんだと知った。

もしかして、大塚さんの死と、その団地での不可解な飛び降りは関連してる?

そんな事は無い、そう思っても、一度そんな風に考えてしまうと関連付けてしまう。

思い込みは、そのまま頭に残ったままだった。


2022年 4月9日


ニュースを見ながら朝食を摂っていると、昨夜、高部から聞いた団地でのニュースが流れていた。俺は、TVを真剣に見つめた。

団地の10階にある踊り場から飛び降りたと、ニュースで報道されたが、驚いたのが飛び降りた人物だった。俺の知っている人間だったからだ…

―――小田切 貴弘 22歳

俺の中学時代の後輩だった。確か、何年か前に会った時…そうだ、大塚さんと同じ高校の制服を着ていた!ふと、その事を思い出した。

確かに、アイツの家は、その団地だった記憶があるけど、大塚さんが死んだ次の日に続けて知ってる奴が死ぬって、そんな事あるか?

食事を切り上げ、すぐに高部へ電話を入れる。まだ、寝惚けている様な口調で電話に出る。そのままお構いなしに小田切の話をした。

偶然にしたら出来過ぎじゃないか?と。

調べてみる、そう高部は言い、折り返しが来るのを待つ事にした。普段は、スマホなど仕事中に持たないのだけど、その日はポケットに入れておいた。


15時過ぎた頃、ポケットに入れておいたスマホが鳴った。

高部からだった。俺は、スタッフに急用の電話だから少し離れる旨を説明して、喫煙所へと向かった。

煙草を吸いながら、高部からの情報を聞くと、やはり、大塚ほたると小田切貴弘の接点が見つかり、これから事情を聴ける人間を捜して聞き込んでくると言った。

見つかった接点は、同じ高校の同級生で、三年間同じクラスだったとの事。

それだけだった。だから、より詳しく知る為の聞き込みをすると言う。

何か胸騒ぎがする。胸騒ぎと言うか、何か得体の知れない何者かに二人は殺されてしまったんじゃないかと、そんな風に考えてしまう。

でも、何故?その理由が解らないからこそ、高部は聞き込みをするのだ。とにかく、高部からの連絡を待つ事にした。



2022年 4月11日


高部から連絡で目が覚めた。朝の6時半過ぎだったが、その電話で目が覚めた。

聞き込みを行った結果、二人には共通点があったと言うのだ。高校一年の夏から冬まで、二人は恋人同士だったが、別れてしまったらしい。それ以来、二人は話したり関わる事はなかったと聞く。

高校卒業して初めての同窓会が20歳の時にあり、そこで二人は久し振りに話していたみたいだけど、どんな話をしていたかは知らなかった。

ただ、その日以来、大塚さんの付き合いが悪くなったと言うから、もしかしたら復縁したのかな?と、友達の間では話題になったみたいだけど…結局のところ、真相は二人にしか解らない。

後、一つ気になったのが、小田切の事だと、高部は言った。

ここ最近は様子がおかしかったと、両親の証言がある。高校卒業から働いていた会社を急に辞めたり、今まで飲まなかったお酒を飲み始めたり、ちょっとした物音にも反応してビクビクしたり…

ここ一カ月程は、引き篭もり気味になっていたそうだ。


電話を切り、俺はそのまま朝食を摂り、普段より早く家を出て職場へと向かった。

運転しながら、俺は色んな仮説を考えた。それは、何も信憑性のない仮説だったが、どう考えても二人の共通点がおかしく感じたのだ。

二人とも10階から不可解な飛び降り自殺。

同じ高校、クラスメイト、恋人同士だった時期がある。

大塚ほたるが亡くなった翌日に小田切が自殺?

どう考えてもおかしいだろ?

そんな事を考えながら仕事をしていると、全く知らない男に声を掛けられた。

話を聞くと、どうやら高部から俺の事を聞いて、俺に会いに来たと言う。

その男の名前は『赤羽涼太』と言うらしく、純平さんと祥子さんの幼馴染らしい。

仕事が終わったら少し話せないか?と、聞かれたから、俺は承諾した。仕事が終わる時間を聞かれたから伝えると「終わったら、ここに来て貰えないかな?」と言って、住所の書かれたメモを手渡された。


仕事が終わると、赤羽さんに手渡された住所をカーナビで調べて向かった。

その場所は、普通の一軒家。

インターホンを鳴らすと、同じくらいの年の女の子が出て来た。その人に促されて部屋へ向かうと、そこには今日、職場に来た赤羽さんと、もう一人の男がいる。

「わざわざごめんね。もう一度自己紹介するけど、俺は赤羽涼太で、こっちが敦司。その奥さんの宏美」と、簡単に自己紹介をされた。

そして、奥から二人の女性が来た。その二人は、宏美さんのお母さんとお祖母さんと紹介された。

俺も簡単に自己紹介をしたが、何でここに呼ばれたのか解らない。ただ、純平さんと祥子さんの幼馴染とだけ聞いているけど…

「単刀直入に聞きますが、どうして俺を?」初めて会った五人を前にして、俺から切り出してみた。

「どこから話したら良いかな?」と、考えながら赤羽さんは言葉を選んでいる。

すぐに赤羽さんは説明を始めた。

俺を呼んだ理由は、純平さんと祥子さんの三人で、心霊スポットへ行っていたと、高部から聞いたからみたいだ。

ただ、それだけの理由だけど、それだけで呼ぶ事も納得が行く理由だ。

「あの…動画を教えて貰ったから見たんだけど、これって、もしかして○○高校だよね?」宏美さんが聞いて来たから、俺は、そうです、と返した。

「あそこの高校はね、本当に不可解な事件が多くて、結構地元では有名なんだけど、どうしてそんな所に行ったの?」更に宏美さんが聞いて来る。

職場の人から聞いて、それを純平さんに話したら行こうとなったと、嘘なく説明をすると「そっか、それじゃあ純平がリーダーみたいな?」赤羽さんに聞かれ、そうです、と応える。


俺は、色々と純平さんや祥子さんの事を聞かれたが、そもそも詳しい事は知らないし、ただ、それだけの関係だった事を説明した。

「実は、純平と祥子が死んだ後、俺達のスマホに電話があったりしたんだけど、中野君にはなかった?」敦司さんに聞かれた。

驚いた。そんな事が、起こるのだろうか?しかし、ここにいる全員が嘘を付いている様には見えなかったからだ。

「俺にはないですが、純平さんが亡くなった日、多分亡くなる前だと思いますが『もう駄目かも知れない』って電話がありましたが、それだけです」


そんな話をしていると、敦司さんのスマホが突然鳴った。カバンからスマホを取り出すと、敦司さんの表情が一気に青冷めた。

画面には『純平』と表示されていたのだ…

お祖母さんが「出るな」と言った。しかし、敦司さんは何も触っていないのにも関わらず、勝手に通話に繋がってしまった。しかも、みんなに聞こえる様に、スピーカー設定もされて…

勝手に繋がったスマホから、不気味な音が聞こえる。


ゴゴゴ…ゴゴゴ…ゴゴゴ…ザクッサクッ…ミシミシ…ミシミシ…


そして、突然電話が切れると、今度は俺のスマホが鳴った。おかしい。俺は、普段から音にしないし、バイブ設定にしている筈なのに、着信音が鳴っている。

同じ様に、着信相手は純平さんだったが、勝手に通話になり、スピーカー設定もされてしまった。

敦司さんとは違って、無音だった。

無音が20秒程続いた時、スピーカーから女の声で『16分12秒』そう聞こえた。そして、そのまま電話は切れた。

16分12秒?俺は、その意味を思い出したのだ。それは、動画のコメントで書かれていて、三人で確認した時間だと。

俺は、16分12秒の意味を、みんなに説明すると、何者かが俺の耳元で『そぅそぅ』と囁いたのだ。その声を、ここにいる全員が聞いた。

そして、部屋の至る所からラップ音が鳴り始めた…


ドカッ…ガタ…ズズズ…ズズズ…ミシミシ…ドンッ…ギシギシ…ガチャ…ドンッ…


その音の中に、高笑うかの様な女の笑い声が交りだす。

壁、床、天井…至る所から響く音が止むと、バチンッ!と電気が突然消えた。

同時に、この場にいる全員が金縛りに遭う。

体が動かないのに、何故か自然と首だけが動き、全員が同じ場所を見つめる。

そして、壁一面に、あの日の動画が写し出されたのだ…




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