第3話 失踪 ――― 赤羽 涼太

純平からの着信音が不気味に響く中、そこにいる全員がスマホを見つめる。

「出るんじゃない!」と、祖母の指示があり、俺達は何も出来なかった。

着信が切れると、また更に純平から着信が来た。この繰り返しが3回程続いた時、今度は敦司の職場からの着信へと変わる。

敦司は、嫌な顔をしながら、職場からなので出てきますと言い、部屋から出て別室で電話に出たらしい。そして、すぐに悲鳴が聞こえて来たのだ。すぐに敦司のいる別室へ行くと、ぶるぶる震えながら座り込んでいる様子。誰が見ても、何か恐ろしい事が起きたと感じた。

「敦司、どうしたんだ!?」俺が第一声を掛けると、敦司は床に落としたスマホを指さし「あ…あっ…あーッ!」と、敦司はスマホを指さしながら、怯えた表情を浮かべ、声にならない声を発しているだけ。

祖母が敦司の背後に回り込み、背中を擦ると、少しづつ落ち着きを取り戻し、荒い息遣いの中にようやく何が起きたのかを話して来た。

一体、何があったのかと言うと、職場の上司からの電話だったらしいが、その内容は、死んだ筈の純平から電話があったと言うのだ…

そうしてる内に、今度は宏美のスマホが鳴った。純平からだ…宏美の青褪めた表情を見て、祖母がスマホを奪い取り応答ボタンを押す。

「もしもし…」

「もしもし…」

「もしもし…」

幾ら呼び掛けても返事がない。

暫くすると、スピーカーにしてあるスマホから奇妙な音が聞こえて来た。



ガサ…ガサン…ガサ…ガサン…ザッザッ…ザッザッ…

どこかを歩く様な足音が聞こえる。

ドンッ!と、何かに登る様な音がした瞬間、おばさんがボソっと呟いた。

この音って、もしかして純平君があの家を歩いていて、何か踏み台に登った音じゃないかしら?と。

祖母は、それに気付いているかの様に、そうだと言った。

暫く無音だったが、ガタッ!と、何かが倒れる様な音が聞こえて来たと同時に電話が突然切れた…

「なぁ、これがもし本当に純平からの電話だとしたら…」そう言い掛けている時、祖母が右手の人差し指を口元に持って行き、シーっと静かにしろと合図を出した。

部屋中から不気味な音が響く。それは、壁や天井、床下からなど、至る所から。


カタカタ…ガタガタ…バリンッ…ザクザク…ドンドン…ガンガン…バキッ…


俺は恐怖のあまりその場にしゃがみ込んで顔を伏せる。これが噂に聞くラップ音ってやつなのか?テレビで聞いたラップ音は、こんな長い時間も続いていなかったし、ここまで不気味な音では無かったが…

音が止み顔を上げると、祖母とおばさんが部屋中を舐める様に見回している。

俺も敦司も宏美も、ただその二人を見る事しか出来ない様子。

張り詰める空気の中、突然インターホンが鳴った。おばさんは、モニターを確認する為にリビングへ行く。暫くすると一人の男を部屋に連れて来た。

その男に見覚えがあった。店に来た高部と言う警察官だ。


「先程はどうも」簡単な挨拶をすると、高部も軽く挨拶を返し、カバンから何かの写真を取り出して俺達に見せた。

それは、純平が首を吊った現場の写真だった。

一枚目…焼き焦げた祥子の自宅の全体写真

二枚目…純平が首を吊った周辺の写真。そこには井戸も見える。どうやら井戸の近くだったらしい…

三枚目…純平の遺体があったすぐ下だと言う写真。水晶がバラバラに砕けた様な物が光っている様に見える。

四枚目…純平が所持していた物。財布、車や家などの鍵、そしてスマホ…

五枚目…手に握っていた乱雑に切られた紙。そこには、963とだけ書かれていた。



一枚ずつ高部は説明を始める。

全ての説明を終えると、俺達に向かって語り掛けて来た。

「あなた達は、純平の知り合いって事もあってお見せしましたが、実は私は純平の従弟でしてね。それでこの事件の真相を知りたいと。ま、私の勝手な判断で動いているので、実際は仕事とは別件でしてね」

高部は純平の従弟。それなら、純平の死の真相を知りたがるのは解るが、だからと言って、何故ここに来たんだ?

「それで、どうしてここへ?何で俺達に写真を?」聞いてみた。

たまたま純平の交友関係や、祥子との関係を調べる事で、小学校、中学校の友達の俺達に辿り着いたらしい。それなりに頭は切れる男なのだろう。

「そこにいるお婆さんは、ここらでは有名な霊能者とも伺ったので、気になる写真を見てもらいたくて」そう言うと、もう一枚の写真をカバンから取り出した。



六枚目…それは、祥子の家の外、つまり庭での写真だったが、この写真には白い玉が数個写り込んでいる。これは、オーブと言う物だ。

写真の端に不気味な少女が佇んでいる。少女の体は何故か透けていた。

それだけじゃない。この写真に写る少女の顔は、はっきりとは見えないし、確信は無いが、さっき見た『上野くるみ』と瓜二つにも見える。

祖母が言うには、この少女は上野くるみで間違いはないとの事だが、何故ここに写り込んだのかは解らなかった。

純平と上野くるみ、二人の共通点があるのだろうか?

しかし、純平は上野くるみが引っ越した後、5年生の春に転校して来たから、接点など何も無い筈。それなら、どうしてここに写っているのだ?


その時、宏美が祖母に、何でくるみは死んだのかを聞いたが、祖母には理由や原因は解らない。この写真を見る限り、何か怨みや憎しみを強く感じる事が出来るから、もしかしたら死にたくなかったのかも?と言う。

病気や事故だったのか?それとも、誰かに殺された?その真相は闇の中。

「上野くるみね」そう言ってメモを取っていた高部は、俺達に出来る限りではあるけど、調べてみると言ったのだ。こう言う捜査の場合には、警察官って言うのは有利になるなと思った。

おばさんがメモに上野くるみの自宅の電話番号を書いて高部に渡す。

今さっき掛けたばかりだから、少し日を空けて掛けてみると言い残し、メモをスーツのポケットへ締まったのだ。

そのまま俺達は解散する事になった。4月6日は友引の為、お通やは4月7日で、その翌日が葬儀の予定となる。俺、敦司、宏美は三人で集まって行く約束をした。



2022年 4月8日

何もなく二日間を過ごし、昨日のお通やと同様に俺の実家で待ち合わせをした。

庭に敦司が運転する車が入って来た。俺は、そのまま後部座席へと入り、葬儀場へ向かった。

葬儀場へ着くなり、俺達を見つけて高部が話し掛けて来た。

どうやら、さっき他の警察の仲間から聞いたと言う話を聞かせてくれたが、その話すら理解不能な内容。

近所を聞き込み調査していた仲間の話だと、純平を何度か見掛けた事があると言う主婦がいたと言うのだ。その主婦が言うには、純平が何度か祥子を迎えに来たり、送ったりをしていたから、お付き合いでもしてるのかなと、思っていたらしい。

そんな話など、今までに聞いた事がない。ただ、もしそれが本当ならば、何故、俺達に黙って付き合っていた?その理由は?

その話の続きを高部は話してくれたが、その続きも理解不能な内容。

火事があった日の夜、純平が近所の主婦に目撃されていたのだ。しかも、いつもは車なのに、その日に限っては歩いていたとの事。

でも、お互いお付き合いしている同士だと思っていたから、何も不信に思う事もなかったと言う。


無事に葬儀を終わらせ、純平の両親と話をする機会があったから、祥子との関係に付いて聞いてみた。今、純平が誰と付き合っているとか、誰と遊んでいるかは何も知らなかった。

それはそうだ、良い大人が誰と遊びに行くなど、親にいちいち説明する必要など無いのだから仕方がない。仮に付き合っていても、家に呼ばなければ解らない。

仮に二人が恋人同士だとしたら?

好きな彼女が死んだ家で死ぬのか?それは、本人の心理上の問題だから解らなけど、俺なら…死ぬ事を選ばないだろう。

そもそも、純平のここ最近の様子からしても、何かを悩んでいるとか、辛そうな風には見えなかった。

急に何かを思う様な、衝動的な自殺とでも言うのか?

いや、待てよ?これは本当に自殺なのか?俺は、何とも言えない得体の知れない恐怖を感じながら、その恐怖を自分の中で消化した。

敦司の車に乗り、俺達は宏美の実家へと向かう事にした。


宏美の家に着くと、この前とは雰囲気が違う。空気が重く感じたのだ。

それは、俺だけじゃなく、敦司も宏美も同じ様に感じた様だ。

奥の部屋に行くと、そこでおばさんが倒れていた。俺達は駆け寄って声を掛けると、意識を取り戻したが、抜け殻の様にただ一点を見つめている。

お祖母ちゃんは?と、宏美が声を掛けても何も答え様とはしない。いや、答えられないと言った方が表現は良いかも知れない。

おばさんが見つめている場所を見ると、そこは押し入れだった。

恐る恐るその押し入れに敦司が近付くと、背後から祖母が慌てて部屋に来て「そこは開けるな!」と叫んだ。

敦司は、押し入れを開ける手を止めて振り返った。

「いいかい、そこの押し入れには今までにお祓いして来た霊を閉じ込めていて、出て来ない様に結界を張ってあるから、そこを開けたら想像も出来ない様な悍ましい事が起きるかも知れないんだぞ?」

祖母は、おばさんの元へ行き、お経の様なものを唱えた。そして、宏美を見つめて言う。

「さっき、上野くるみの自宅へ行き、その母親と話して来た。上野くるみの死には、お前の友達が絡んでいるかも知れない…」

それを聞いた瞬間、血の気が引く様な音を感じた。

まさか、風香や祥子が?もし、そうだとしたら、接点が無い筈の純平もなのか?

その時、俺の頭が急に痛み出した。

ズキズキズキズキッ…

ズキズキズキズキッ…

ズキズキズキズキッ…

何て説明をしたら良いのか解らないけど、頭の中で奇妙な笑い声が聞こえる。

その声は、幼い女の子の様な声。


そして、ボソボソと呟く様に『次ハ涼太君ノ番ダヨ』と………

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