第2話


それは、2019年になってすぐのことだった。

突如姿を現したのは、僕達人間が知らない、未知の病気だった。世界で広まったそれは、あっという間に日本にも広がり、今までとは全く違う生活が始まってしまった。


そんな年、僕は高校3年生・・・・いわゆる受験生だった。しばらくの間、学校には自由に行けず、家で遠隔授業に参加し、郵送で届いた課題を解いては郵送で送ることを繰り返し、安定して学校に行けるようになったのは夏だった。僕は元々ひきこもりを極めている人間なので、学校に行くのは面倒だと思い続けていたが、この時ばかりは違った。もっと言えば、学校に行けることの大切さを味わった。

そこから怒涛の受験勉強の詰め込みを行い、僕は大学に進学した。そして、一人暮らしを始めた学生アパートで、宮野と出会った。

「こんばんは、隣に越してきた安西です。」

「おー、こんばんは! 俺も先週越してきたんです。宮野っていいます。」

宮野は僕の隣にたまたま越してきていた。そこで僕たちは、初めて「同じ大学の同級生」という存在を見つけた。


なぜか、僕と宮野は学部と学科まで同じだった。入学式のオリエンテーションで顔を見つけて話してからは、他の大学生よりも速く打ち解けた。これを奇跡というのだろうか、と僕はその時思った。

そのぐらい、僕と宮野は仲良くなった。もちろん、大学の授業もほとんど同じものを履修し、学生生活3年目になっている。


ただ、思い返してみれば、いくら世界が平和に動き始めているように見えたとしても、いくら僕たちが仲良くなって2人で遊びに出かけたとしても、外出するときにはマスクを着け、どんな時でも極力人込みを避け、少しでも人との距離を保つことに変わりはなかった。


しかも、たまたま僕たちの住んでいるアパートは大学にとても近い場所で、授業のない空きコマの時間でも、すぐに帰ることができる場所にある。なので、わざわざ学食で何かを買うことはなく、僕たちは当たり前のようにアパートへ帰り、個人でマスクを外し、また会うときには白い壁で覆われた状態で会っていた。


つまり、僕は宮野の顔も知らない。彼がどんな顔をしているのか考えたことは一度もないといったら嘘になるが、とても知りたいとはならなかった。この白い壁との生活は当たり前になっていたし、それなしの生活は、もう考えることができないと思っていたのだ。一度、世の中で習慣となったものは、自然と当たり前と化し、それを違うとは思わなくなってしまうのだ。

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