白い壁を、乗り越えて。

キコリ

第1話


時は2023年、4月。


大学に入学して2年。学生生活3年目。

僕は突然、一番仲のいい友人から、衝撃の言葉を言われた。




「安西。お前って、どんな顔してんの?」


「・・・・・・は?」




授業の休み時間。空きコマで大学をぶらぶらと散歩している時に、友人―――宮野は僕の顔を見てそう言った。

「いや、顔って・・・・・・こんな顔だけど。」

僕は、パソコンやレジュメが詰め込まれたトートバッグを提げてない方の右手で、自分自身の顔を指差した。

「違うちがう。その白いものがない顔ってことだよ。」

宮野は、自身も身に着けているその「白い壁」に、軽く触れた。

「俺達、2年前に大学の入学式で出会ってから今まで、お互いの顔を見たことがないじゃないか。」

「そうだっけ?」

僕は瞬時に色々と振り返ってみた。が、宮野が言っていたように、僕も友人の顔を全て見たことが一度もなかった。

「・・・・・・多分、ないな。」

「だよな!」

「急にどうしてそんな話を?」

「いやぁ・・・・・・」

僕の問いかけに、宮野は一瞬考え込む仕草をした。が、少しして「前まではさ?」と話し始めた。

「数年前はさ・・・・・・お互いの顔を完全に見ないままの日常はないと思ってたんだ。むしろ、相手の顔が分からないのは怖いし、何かあるといけないから避けるべきだって考えてた。それが、新しい日常になってから、一気に流れが変わった気がするんだ。カメラ越しでもどんな人か分からないことは沢山あるし、実際に対面で会う時でも、俺達は自分の顔を見せることは少ない。」

「ニューノーマル、ってやつだな。」

僕は、彼の言葉が一区切りついた所で、口を挟んで続けた。

「高校生ぐらいまでは、僕達は普通に誰かと互いの顔を合わせて、話したり遊んだり友達を増やしたりしていたはずなのにな。気づいたら、顔の下半分が見えなくてもお互いを信頼して友達を作っている。」

「不思議なもんだよ。おまけに恋愛だってできる人間も沢山いる。外見も大切なもののうちに入るのにさ。」

「それは、中身に惹かれたのか? それとも、外見でも目元に惹かれたのか?」

「細かいなっ!」

「ごめんごめん、ちょっとツッコミたくなってさ。」

僕達はそこで、「くだらんな。」と感じ、ケラケラと笑い合った。








―――今回は、そんなくだらない”ニューノーマル”を過ごす、僕達の話だ。

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