第44話 軍議

「十兵衛っ!!藤吉郎っ!!」


「ははっ」

「ははっ」


「昼休みじゃ。軍議を始める」


「御意!」

「御意!」


 ちぇっまたか。先週から信長を中心に妙な遊びが始まった。ヘンテコな喋り方で侍ごっこでもやるのかと思ったらただ信長の席の周りに集まって喋るだけ。なのに三人の顔は真剣そのもの。一体それの何が面白いの?ドッジボールのほうが断然面白いじゃん。まあいいや。


「あんなやつらほっといてグラウンドに行こうみんな!」


「そうだね!」

「あんなのどこが面白いんだろ?」


 以前僕は信長に椅子から落とされた。あの日からヒデに対して誰も笑わなくなったし、僕が消しゴムを取り上げても次郎までもが「やめろよ」なんて言い出した。奴が転校してきた日から少しづつクラスの雰囲気が変わり始めている。気に食わない。まあ、結局信長はつまらなそうな遊びに夢中みたいだしどうってことはない。クラスの中心は変わらず僕だ。


 そう思っていたのに日が経つごとに徐々に変化が訪れた。


「僕、今日は信長くんたちと遊ぼうかな」


「は?何言ってるんだよ。お前が抜けちゃったらドッジボールの人数が合わなくなるだろ」


「んーでも。なんだかヒデくんが楽しそうに笑ってるし……。あんなに楽しそうに笑ってるの初めて見たからきっと楽しい何かをしてるんだと思う」


「ふざけるなよ!もしお前が信長の方に行くならもう二度とドッジボールに誘わないからな!」


「なにそれ?じゃあ別にそれでもいいよ」


「ミッチーひどい。だったら私も抜けようかな。ドッジボールって汚れるし痛いし。私女の子なのにミッチー本気で投げてくるんだもん。正直怖かったんだよね。信長くん達と遊ぶほうが汚れないしなんとなく勉強になりそう」


「なんだよお前ら……」


 そう言っていつものメンバーから二人が抜け、信長達の方に行ってしまった。


 くそ。くそ。くそ。


 こうなるとメンバーが崩壊するのに時間はかからなかった。日に日にドッジボールの参加者は減り、残った人数ではドッジボールが成り立たないのでただボールを投げたり蹴ったりしてパスをするだけの昼休みと成り下がってしまった。


 ある日、僕はどうしても信長達の遊びが気になったのでグラウンドに出るのを止め、机に顔を伏せて寝ているふりをした。この距離ならどんな内容の遊びなのかぐらいは聞こえてくるだろう。最初は新聞紙を刀にして切り合うぐらいのお遊びかと思っていたのに、やつらのそういう姿は一度も見たことがない。ってことは、昼休みの間ずーっと同じ席から動かず喋ってるだけってことになる。どう考えてもつまらない。なのにどうして……。悔しいけど、僕の興味は増す一方だった。


「では十兵衛よ。まずはお主の見解を述べよ」


「はっ。は山に囲まれています。つまり背後から城を落とすのはほぼ不可能です。なので入り口はここだけにござりまするので、敵の配置もここに集中するのは間違いないのであります。ここは裏をかき、背後の山から攻めるのはいかがでしょうか?」


「で、あるか。続けよ」


「はっ。なのでいっそのことこの山を切り落とし、平地にしてから攻めるのはいかがでしょうかあっ!」


「どうやって切り落とすのじゃ?」


「それは……ブルドーザーとかクレーン車とかを使えばなんとかなりそうでござる」


「次郎くん、そんなのこの時代にはないよー。おもしろーい」


「うるさい!それに次郎じゃなくて十兵衛でございますで候」


 なんでこんなに楽しそうに笑ってるんだろう。聞こえてくるのは次郎の変な喋り方。話している内容は僕には小難しくてよくわからないけど、一つわかった事がある。おそらくみんなは机の上の何かを見ながら話しているということだ。


 何を見ているんだ。だめだ……気になって仕方がない。


 悔しい。悔しいけど、僕は頭を上げ、みんなの集まっている席へと近づいた。


「あの…さ。みんなさっきから何を見ながら喋ってるの?」


「あ、ミッチー。これだよ。これすごいでしょ?信長くんが作ったんだよ」


 え……なんだよ、これ。


 衝撃を受けた。こんなものを作ったっていうの?信長が?嘘だ。あり得ない。僕たちまだ小学三年生だよ?


 机の上には山や川、そして城などの壮大な模型が立体的に組み上げられていた。何よりすごいのが、何処かで買ってきたようなプラモデルなどではなく、画用紙やダンボールの切れ端、折り紙などを用いて作った明らかに手作りだとわかる代物であるということだ。もしこれが実際に店で売っていたとしても僕は驚かないだろう。それぐらいの出来栄えだった。


「の、信長くん。これは君が作ったの?」


「そうだけど」


「なんで?どうして?なんのためにこんなもの作ったの?」


「なんのため?だって、こういうのがないと作戦立てれないじゃん。俺たちはこの模型を見ながら戦のシュミレーションをしてるんだよ」


 多田野信長……。一体君は何者なの?僕はこの時はっきりと感じた。今の僕ではこの人には勝てない。僕はこのクラスの中心にはなれない、と。


 この日から、僕もこの遊びに参加することになった。というより、参加せざるを得なかった。今は勝てない。でも、いつかは勝てる。そう信じていた。どうやったら戦国武将ごっこをつまらないものにできるのか。そればかりを考えていた。そのためにはこの遊びを知る必要がある。でも、どうやって?


 僕が信長にされたことと同じ事を仕返してやればいいんじゃないか。つまり中心人物がこの遊びをやめれば僕のドッチボールメンバーが崩壊したのと同じようにこの遊び自体消滅するんじゃないだろうか。


 信長がやめることはない。ならば、最初に彼がこの遊びに誘った人物。そいつをこの遊びから追放してしまえばいい。ヒデか。いや、こいつがこの遊びから抜けたところで対してインパクトはない。


 ってことは……お前か次郎。僕は信長のことはもちろん気に食わないけどお前も同じくらい気に食わない。中途半端に人気者で良いやつ。そして、信長に影響されたのか知らないけど中途半端な正義感。お前みたいなのが一番うざいんだよ。


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