第27話 静かな夜 その1

 だめだ…全然頭に入ってこない。


 せっかくのネカフェデビューなのにどの漫画を読むかを選ぶだけで20分ほど使ってしまい、いざ読み始めたもののまだ一巻すら読み終えていない。もともと読むのは遅い方ではあるが、それよりも信長さんとの食事のことで頭がいっぱいだ。なんで私緊張してるんだろう。もちろん、二人きりの男性との食事が久しぶりというのも緊張している原因の一つではある。だけど、今日のこれは今までのそれとはまるで違う。相手はあの信長さん。合コンのときに初めて彼と話した時は奈々ちゃんや次郎さんが居てくれたおかげでなんとか場を凌ぐことができた。だけど……今日は二人きり。


 はぁー。一体何を話せばいいんだろう。


 結局手にとった漫画を一冊も読み終えることなく、あっという間に時間が来てしまった。


 ___________________________________


 お会計に行くと既に受付には信長さんの姿はなかった。1時間分の料金を支払い終え、店の階段を降りると腕を組み仁王立ちをしている彼の姿がそこにはあった。


「あの…お待たせしました」


「うむ。では行くか」


 私と信長さんはそのまま横並びで駅の方に歩き始めた。彼は腕を組んだままこっちに目も向けず歩き続けている。まるで最初から隣に私なんて存在していないかのように。なんなの、何か話してくれないの。


「外はやっぱり寒いですねぇ」


「で、あるな」


「どこに食べに行くのかもう決めているんですか?」


「うむ」


「そうなんですね。私、外食はあまりしない方なので楽しみです」


「で、あるか」


 ……。


 すっごく不安なんですけど!全然喋ってくれないじゃない。ぶっきらぼうに答えるだけで一度もこっちを見てくれない。なんで私が気を遣わなくちゃいけないのよ。


 しばらくして見覚えのあるお店が見えてきた。


「ここじゃ」


「あー焼き肉!いいですね」


 連れてこられたのは焼肉店のUshi-Ushi。何度か友達と来たことがあるけどお手頃な価格でお腹いっぱいになった記憶がある。確か食べ放題だったと思うけど食べ放題とは思えないぐらいお肉が美味しかった。


「いらっしゃいませ〜何名様ですか?」


「見てわかるであろう」


「あ、失礼しました。2名様で間違いないでしょうか」


「お主は何か目の病にでもかかっておるのか?」


「ちょっと信長さん!すみません、はい。2名で間違いないです」


「あ……畏まりました〜ではこちらにご案内します」


 はぁーなんで私こんな人と二人で来てしまったんだろう。誰に対しても失礼な人だなほんと。今さら後悔しても遅いか。


 私達はそのまま奥のテーブル席に案内された。


「信長さん。お飲み物はカルアミルクでいいですか?」


「……ほう。うむ、それでよい」


「すみません、ハイボールとカルアミルクをお願いします」


「待て雪女。お主も酒を飲むのか?」


「え、そのつもりですけど…。いけませんか?」


「ほどほどにしておけ」


「あ、はい。ありがとうごさいます」


 へぇー、こういう優しい一面もあるんだ。


「顔が赤くならぬ程度にな」


 あ、なるほどね。


 それから適当にお肉や野菜を注文し、お酒が来たので私達は乾杯した。


「………」


「………」


 ……。


 ……。


 ……え?


 なんでなんもしゃべんないの!?とっても気まずいんですけど。


「あの、のぶ…」

「聞かせよ」


「え?」


理由わけを聞かせよ」


「え、急になんですか?」


「たわけ。そなたがあの日怒っておった理由じゃ」


「あ……あーあの日のことか。なんで怒ってたか…ですね。んー、その……あの日はごめんなさい」


「なぜ謝る?」


「いや、そのー…最初は初対面なのにいきなり雪女って呼ばれたり、なんかバカとかアホとか色々言われて…その、傷ついたというかなんというか」


「うむ」


「でも、私があの日怒って帰ろうとしたのは、その……」


「抱くぞと言ったからか?」


「え?」


「小娘からその発言はだと言われた。あの娘の道理はいまだにわかりかねるが、お主もそのときに一緒に怒っておった」


「確かに、奈々ちゃんのことまで悪く言われたことは私も許せなかったです」


「では、なぜお主が謝る?」


「それはー……。信長さんに私の内面を見透かされた気がしたからです。私は確かにいつも周りの目を気にしながら誰とも揉めないように今まで生きてきました。信長さんは初対面にもかかわらず私の顔を見ただけでお主はなんじゃって聞きましたよね。……答えれなかったんです。だから、あの場から逃げたくて。それで大声を出してしまいました。本当にごめんなさい。だから、信長さんが謝る必要はないんです」


「……なにゆえ儂がお主に詫びたことを知っておる?」


 あ……しまった。どうしよう。信長さんはあの日の配信を私に観られたくなかったのかもしれない。


「観たのか?」


「……はい。観ました」


「……で、あるか」


 ……。それから、まだお肉が来てもいないのに本日二度目の静寂が訪れた。







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