第18話 初陣

 俺はすぐさまスマホで信長の事が書かれている記事を確認してみた。その記事はわざわざ検索する必要もなく、本日トップのネットニュースとして取り上げられていた。



 ____『生配信中に放送事故か!?アキちゃんに激怒する信長と名乗る男』


 今月25日、人気Youtuberであるアキちゃんが参加した友人の飲み会を生配信していたところ、初対面と思われる参加者がアキちゃんに対し暴言を吐いたとしてファン達が激怒し炎上しているようだ。アキちゃんのYoutubeのコメント欄には「ふざけるな!謝れ!」「アキちゃんに珍獣とか失礼すぎる」「初対面なのにカバはないだろ」などの否定的なコメントが多い中、「信長やばすぎるだろwww」「やばい本物の信長きた!」「いいぞ!もっとアキちゃんを叱ってくれ信長様!w」など、この参加者の織田信長の口調を真似している話し方や個性的なキャラクターに興味をもっているコメントも多かったようだ。また、この生配信自体がそもそもやらせなのではないかと疑う視聴者も少なくないようで、この動画が生配信後すぐに消された後もSNS上で物議を醸している。_______


 ………。

 さすがはアキちゃん。昨日の夜のことなのに次の日にはトップニュースになるほどの影響力。しかし、とんでもないことになったな。まあ、あんなに失礼な発言が生配信を観ている多くの視聴者に届いた時点でこうなることはある程度覚悟はしていたが、まさか名前まで公開されるなんて…。おそらくこの記事を書いた人も信長が本名だなんて思いもしなかったんだろう。


「信長様、あんだけ言ったのに……。どうするんです?もし外でアキちゃんのファンなんかと出くわしたら大変なことになりますよ」


「その心配は無用。それがしが命に換えても殿をお守りいたす」


「病院のベットに昨日まで横たわってたやつがよく言うよ。はあ、まずは俺のYoutubeチャンネルに信長を出演させてファンを増やすつもりだったのに…。今そんな事やったら俺までアキちゃんファンから叩かれそうだ」


「好機じゃ」


「え?」


「殿、好機とはどういった意味で?」


「たわけ。今が時だという意味じゃ。次郎、今日がゆうちゅーぶの初陣じゃ」


「えええっ!?いやいや何言ってるんですか。さすがにまずいでしょ!今始めてもファンはおろか敵しか作りませんよ?もう少しほとぼりが冷めるまで………いや」


 確かに信長の言う通りかもしれない。仮に俺のチャンネルで信長を紹介したところで俺のファンには受け入れられる可能性は高いがその後が伸び悩むだろう。しかし今回アキちゃんとの騒動のおかげで信長の注目度はかなり高くなったはず。諸刃もろはつるぎだがやってみる価値はありそうだ。


「わかりました。やりましょう。機材は全て俺の家にあります」


「よう言うた。猿よ。うぬも手を貸せ」


「ははっ!おまかせを」


 塾は大丈夫なのかよ。まあ、こんな状態で先生しても生徒が混乱しそうだしな。それにしても、ついに今日から始まるのか。これから先どうなるのか俺にも全く想像できない。でも、この信長なら何かをやってくれそうな気がする。正直自分だけで動画を撮っていた時よりもワクワクしている。楽しみでしかない。


「信長様、今日から始めるのはいいのですが、どういった内容の動画を撮るのかもう決めているんですか?」


「当たり前じゃ」


「さすがです。何を?」


「戦じゃ」


「え?」


「最初の動画はあの珍獣に味方をする者たちを攻める。生配信でな」


「せ、攻める?謝るじゃなくて?」


「儂に物を申したければ直接申させる。そのための場を儂自ら設けてやるわっ!!」


「…………」


「さすが殿っ!!寛容でありますなぁ」


 

 ……撤回します。この先、不安でしかない。



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