半国産の男

「うーむ、これもダメか」


 男は手に取ったナッツ菓子を棚に戻した。

 上場企業に勤め、真面目な性格からそこそこ人望もある男だが、ただ一つ欠点があった。


「やはり食品は中国産が多いな……コンビニのつまみに国産品を求めるのは間違いか」


 男は日本国内で生産された物しか受け付けない体なのであった。潔癖や差別といった類ではなく、ある種の強迫観念に近いものなのだが、それは服や食品、あるいは家電まで例外はなかった。


 男は国内メーカー製造の家電に囲まれた部屋に帰ると、国産の食材で作った料理を食べて、苦労して取り寄せた羽毛布団で眠りについた。



──翌朝、男はインターホンの音で目が覚めた。


「なんだ、こんな朝早くから」


 眠い目を擦りながら扉を開けると、来客の招待は男の母であった。

 そういえば、東京に来る予定があるとかで、その間家に泊まりたいという旨の電話が来ていたのだった。


「ああ、ごめん。来ることをすっかり忘れていた」


 男はとりあえず母を部屋にあげると、床を拭いて母と自分の朝食を用意した。



「こんな性格だから大した食材が無くてね、適当に作ったものだけど、よかったら」


 テーブルに置かれたエッグベネディクトとパンケーキの原材料は、もちろん国産である。

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